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星空の夜と失恋

 夜はバーベキューパーティーだ。

 魔術具のランプを灯し、キャンプファイヤーで周囲を照らしつつ、野菜や肉を焼く。

 食べ盛りの面々は腹一杯平らげ、有り余る体力で再び浜辺で遊んでいる。


 ユーリアは一人砂浜でで夜空を見上げていた。



「ねえ、ユーリア。海の夜空って綺麗だね」



 遊んでいたはずのドニが知らずのうちに、ユーリアの隣へ座っていた。


 一緒に夜空を見上げる。



「うん。私ここでお母様と一緒によく星を見てたんだー。ほら、海面に星が映ってとても綺麗でしょ?」


「うん。綺麗だね」



 しばらくの静寂のなか、ドニが言葉を切り出した。



「ユーリア落ち込んでいたみたいだけど、話せることなら僕が聞くよ?」



 ドニがユーリアの顔を覗き込み、ユーリアは少し考えて、少しずつ昨日のこと、過去のことを話し始めた。



「ドニもう落ち着いたよ。ありがとう。昨日の夜盛大に失恋しちゃったんだー。誰もが羨む相手に恋をするなんて……我ながら失敗、失敗!」


「ヴァイセルさん?」


「そう、彼は婚約者に一途だって知ってはいたんだけど、止められなくてさ……。

私の事を8歳の時から知ってるから向こうは妹のようにしか扱ってなかったんだけど、それがね……」


「……そうなんだ。」



 ドニが夜空を眺め始め、ユーリアはドニの肩にもたれかかる。



「ユーリア?」



 驚いたようにユーリアを見たドニに、ユーリアは顔は見ずに海に浮かぶ星達を見る。



「ねえ、少しだけ……」


「う、うん」



 戸惑いを見せるドニの肩でユーリアは静かに涙を流した。



「よし、大丈夫いこうか!」



 ユーリアはドニの手を取ると夜の海で遊ぶ皆のところに走って行った。



「ユーリア大丈夫なの?」


「大丈夫、私昔から失恋については深く考えないの! 遊ぶよー! 持つべきものはティナってね!」



 ユーリアはティナに抱きつき、友人達との時間を楽しんだ。




 キンモの隣にいたヴァイセルは目を疑っていた……



「キンモ殿。あれは確かユーリアと最初に踊っていた子だったな」



 手紙を受け取ったヴァイセルはいてもたってもいられなくて、ユーリアのいる別邸へと来ていたのだ。


 目の前で他の男に寄り添うユーリアを見てしまった。



「ええ、そのように伺っております。なんでも魔力の豊富な方のようで、ユーリア様が治療を施してからずっとお慕いしているようですが、ユーリア様はその気持ちに気付いていないとのことでした。」


「そうか、ではまだ私にチャンスはあるな……」



 ヴァイセルはそういうと、ユーリアの元へいき、背後から腕を掴む。



「ユーリア、話がある。少し歩こう? いや、少し夜の空の旅といこうか」



 驚く周囲を置いて、ヴァイセルはユーリアを抱き上げ、黒鷲に乗って空高く飛び立った。



「ヴァイセル様、その急にどうされましたか?」



 ユーリアは驚きの表情を浮かべたまま、ヴァイセルの腕にしがみ付いている。



「急で悪かったとは思うけど、いち早く君の誤解を解きたいと思ってね……ユーリア。僕は君のことを妹と思って接していないよ?」



 ユーリアはその言葉に戸惑い、何を聞き返せばいいかわからなくなっている。



「へ? あのその……」


「君は僕の婚約者であり、愛しい人だよ? 君が成人するまで話さないようにしようと思っていたが、ルーカス殿にしろ先程の少年にしろ君の周りには男が多すぎる」



 ヴァイセルの突然の告白にユーリアは口をパクパクさせている。



「クィントン家と我がユスティネン家が結ばれるとなると敵対する貴族たちの行動が苛烈化する可能性があったため、未成年である君にはだれが婚約者か告げなかったのだよ」



 ユーリアもその言葉を回らない頭で理解していく。その事実を理解したときには顔がどんどんと紅潮していくのがわかった。



「待って、え、その、うわぁー。私ユスティネン家に嫁ぐの?」


「嫁ぐのは確かだが、僕のお嫁さんになってもらうようになるよ!」



 慌てふためくユーリアにヴァイセルが面白がり、黒鷲は小さな陸地へと降り立った。

 二人で小さな砂浜へ座る。



「ユーリア、僕の妻になってくれるかい?」


「いや、無理です。私ヴァイセル様が旦那様になったら毎日心臓がバクバクして破壊します」



 ユーリアは混乱状態の中ヴァイセルとは目を合わせられずに、体育座りで砂をいじり続けている。



「嬉しい事を言ってくれるね……まあ、考えてみてよ。君が花開くときあらためて聞かせてもらうよ。君はただ僕に愛でられる花でいて欲しい」



 ユーリアはその言葉に冷静になった。



「それは、私に陛下の手足になる事を止めよという事ですよね?」


「ああ、わざわざ危険なところに身を置く必要はないだろう?」



 ヴァイセルは当然という顔で頷く。だが、ユーリアは貴族の中に入って日々腹の探り合いを行う様子を想像してしまった。


 ヴァイセルが本当に旦那さんになるなら嬉しいが、それ以外に付随する部分で悩ましい事がある。


 ヴァイセルを裏切りながら暗躍することはできない。


 それにユーリアの抱える秘密を曝け出すこともできないし、巻き込みたくない。



「ユスティネン家でも婚約破棄扱いになっているのではないですか?」


「ああ、君が国を立ったということで破棄扱いになっている。それがなんだ」



 ユーリアはニコリと微笑むと言葉を続けた。



「では、次の婚約者候補の方が上がっているのでしょうから、そちらのご令嬢に申し訳ないです」


「問題ない。断る事になっているよ」



 ユーリアは首を横に振る。



「私のような人間がヴァイセル様の隣に入れるわけがないのです。私は秘密を抱えながら生きるのは無理です」


「陛下の事を気にしているのかい? 陛下は君には幸せになってもらいたいと言っているよ。君に隠密の仕事はさせないと言っていた」



 ユーリアは夜空を見上げて胸に光るペンダントに手を当てる。



「ユーリア様。あなたがお話しできると思える方なら私は何も言いません」



 ユーリアの胸元からテディの声が聞こえた。

 ヴァイセルは首を掲げている。



「嫌。ヴァイセル様に嫌われたくない」



 ユーリアの強い意志にテディがペンダントから出てきて人型の形を取る。



「申し訳ありません、ヴァイセル様。主人には抱えられているモノがあるのです。

 その秘密を話せる殿方でなければ、恐らくユーリア様は生涯を共に過ごすことはされないでしょう。」



 テディはユーリアを抱きしめ、空へと浮遊する。



「一体何を抱えているというのだ? ユーリア?」


「私の運命にヴァイセル様を巻き込む訳にはいきません。どうか、お幸せに……」



 ユーリアは涙を流し、その場を後にした。

 ヴァイセルは呆然とユーリアが飛び去った位置をみつめるのであった。




*


「テディ、どうして私は普通のご令嬢として生まれなかったのでしょう? 母を責めているわけではないのですよ」


「そうですね……まあ、打ち明けられる男が現れればいいですね。大丈夫です。あなたは普通の人間より長く生きられる」



 ユーリアはムスッとするとテディの肩にすり寄り、自分の親指を噛み、血で空に魔法陣を描き始める。



「我は南の地を守護するモノなり、空よ我が心を隠したまえ」



 ユーリアが空に魔法陣を放つと空から雨が降り始めた。

 小雨がユーリアの頬をつたい、テディのため息が聞こえる。



「血の無駄遣いです。泣きたいなら普通に泣いてください。我が宿敵スザクの子よ」


「うるさいわね。いーのよ。このくらい平気だし、最近雨降ってなかったから恵の雨よ!」







*


 少し空の旅をしてから別邸へと帰った。



 ティナ達が駆けつけてくる。



「盛大に失恋してきたよ」



 一言微笑んで、自室へとテディと共に向かった。




「テディ体調はどう?」


「私は大丈夫です。戦闘までは難しいですが、だいぶ良好です。ユーリア様こそ大丈夫ですか?」


「んー。いいんだ最初からあり得ない話だったし……人生うまくいかないもんだよね。本当に好きな人とは結ばれないって聞くけど、結ばれないもんだなー」



 テディは首を縦に振る。



「私もそう思います。まあ、でもお互いにいい人に出会えるといいですね」


「お、テディの前向きな言葉始めて聞いたよ」


「そうですね。スザクに託された子ももう少しで成人ですから、成人を迎えれば着の身着のまま旅をするのも悪くない」


「ってことは、後2年かー。美味しいご飯今のうちに堪能しておかなきゃだね」



 微笑み合い、ベットに入るとふとユーリアは思った。



「てか、テディって有料物件じゃない。始めから私の秘密知ってるわけだし……あ、でももう一つは言ってないや……」



 するとテディは首を傾げる。



「ユーリア様の生まれた頃よりそばにいるのに、知らない事とはなんでしょうか?」


「それはね。やっぱりテディにも言えないや」


「まあ、私はあなたのような厄介なのはごめんです。それに、スザクの子などごめん被りたい」



 テディは笑うと猫型になり、久々にベッドに入ってきた。



「テディ。大好き! 後2年間よろしくね」



 ユーリアはテディにキスをして眠りについた。


 長いシュペルノヴェイルの帰郷はユーリアの失恋で幕を終えた。

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