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城の宴

 城へと向かう馬車の中、ティナへ愚痴を聞いてもらいながら、向かった。

 ティナは楽観的で、食べ物をお腹いっぱい食べて、諜報活動の真似事もするのだと言っていた。


 広間にはシュペルノヴェイルの上流階級の者が勢ぞろいだ。


 数人学生が紛れ込んでもなんら問題はなく、ヤンとティナは料理をかきこんでいる。



「よく、こんな中で食えるな……おかしいだろ……」



 普段の4分の1ほどしか食べていないベネディクトが呟く。



「ティナもヤンも本当によく食べるね……」



 ドニは少量ずつ皿に料理を盛り優雅に食べ、2人の食欲に顔が引きつっていた。



「せっかくうまい料理が食えるんだぜ! たくさん食っとかなきゃもう一生食えないだろ!」



 ヤンは口をモゴモゴさせながら、話す。



「そうよ。こういうのは雰囲気さえ味わえればいいのよ!」



 ティナも皿にいっぱい料理を盛りつけしている。



「もし、男性にダンスを誘われたらどうするの? 満腹では踊れないじゃない」



 先ほどから飲み物を手に取りどこかの貴族に話しかけられていたベティーナが、シェルトを連れてやってきた。


 イーヴァルはどこぞのご令嬢たちに囲まれて楽しそうにしている。



「イーヴァル先輩はどこへ行っても変わらないのですね……」



 ドニが、遠い目で呟けば、ベティーナが頰に手を置き、困ったようにため息をつく。



「せっかく男除けにと思っていましたのに、逆に目立ってしまいますわ。困ったものです」



 シェルトも深くため息をつく。しかしすぐに表情を変え、ベティーナに微笑みかける。



「アイツはどこへ行ってもだいたいこうだからな……仕方がない。アレはあのままにして我々も少しは楽しむか……ベティーナ久しぶりに私と踊っていただけませんか?」



 シェルトが胸に手を当ててから、ベティーナに向かって手を差し出すと、ベティーナはシェルトの手を取りダンスの行われているフロアへと出て行く。


 ドニがいつの間にかにユーリアの手を取っていた。



「ユーリア、せっかくだから僕たちも踊らないか?」






*


 そのままユーリアはドニヘ導かれ、ドニと踊る。

 ドニのエスコートは手慣れたもので、周りから可愛らしいことと声が上がっていた。



「僕ももう少し身長が伸びればな。ユーリアを完璧にエスコートできるのに……」



 ドニは可愛らしいという言葉を気にしてか、顔を真っ赤にさせて踊っている。



「そんな事ないよ。ドニ踊り慣れてるね!故郷でも踊っていたの?」


「うん。少しだけど、12歳になってからこういう場にも出ていたんだ。まあ、踊ってくれる女性はほとんどいないから練習だけ熱心にしただけで、フロアで踊ったのはあまりないんだけど……」



 ドニはユーリアとは目を合わさずに少し俯いて話す。



「じゃあ、今日はいっぱい踊ろう!」



 ユーリアの微笑みにドニもはにかみながら、一曲踊りあげた。


 ティナたちの元に戻るとイーヴァルが戻ってきていた。



「ドニ君いいねー。ユーリアちゃんと息ぴったりじゃない。僕も久々に踊ろうかなー。ティナちゃん一緒に行こ!」



 すると、ティナの手を強引に引き、連れて行く。



「あの、イーヴァル先輩私踊りなんて踊った事ないですよ……」



 イーヴァルはニコリとしてティナの手の甲に口づけする。



「大丈夫音楽に身を任せて、僕がなんとかするからさ。何事も楽しむ事が大切だよ」



 さらりとティナを連れ去って、楽しそうに優雅に踊り始める。


 シェルトと共に戻ってきたベティーナもその様子を見て、考え込む。



「イーヴァルはいつもそうなのですから、ティナもなかなかですわね。経験もないのに、あれほど楽しそうに踊っているなんて……やはり、私が育て上げ一人前にすべきですね……」


「素質はあるだろうな……物怖じしないのはなかなかいいのではないか」



 ベティーナとシェルトの中でティナを諜報活動員にする事が決定して行く中で、ユーリアのもとへ宰相のローラントがやってくる。



「ユーリアよ。先程の踊りめておったぞ、相手をしていたのも友人なのか?」


「はい、同じクラスの魔術コースを先行しているドニです」



 ドニを紹介してドニが自己紹介をすると、ローラントは顎に手をやり何か考える。



「ほお、ドニか……ヴァルヴィストは侮れんな……これからもユーリアと仲良くしてやってくれ!

 ユーリア学園都市はいろいろな国家から人が集まる。それを生かして人脈作りをする事も大事じゃぞ!」



 ローラントは満面の笑みでドニの肩を叩いている。



「年廻りはユーリアと同い年か……ふむ。まあ、成人するまではがんばるといい! ユーリアはこちらで話だ。」




*


 ユーリアはローラントに連れられ広間を出た。

 連れてこられたのは来賓の待合室だ。


 部屋の中にはやはり見知った顔がいた。


 イルムヒルムの長のエルゼとシュペルノヴェイル女王陛下のイェンニだ。それにルーカス先生もいる。



「ユーリア、待っておったぞ!」



 ユーリアが陛下の前に片膝をつき、胸の前に手を当てる。



「陛下、ローラント様よりお呼びとの事でしたが……」


「おう、此度の宴はイルムヒルムで戦績を挙げたものも招いているからな、ヴァルヴィストを代表してこの者を招いたのだ」



 陛下が顎で差すのはルーカスだ。

 何を言われようとしているかは分かる。



「どうだ一緒に戦ってみて……こうときめきとかなかったのか?」


「陛下、直球すぎますよ……こういう事は当人がオブラートに包んで育んでいくものですよ」



 陛下の言葉をエルゼが嗜める。

 だか、陛下は曲げる事なく話を続ける。



「いや、これからでもいい。ユーリア、お主はもっと男というものを見よ! 試しにどうだ。婚約者も恋人もいないそうだぞ!」


「陛下、それはご命令になるのですか? 先方の意見も聞いてみなくてはなりませんよ。」



 ローラントが口を挟むが、ルーカスをゴリ押ししてきたのはローラントだ。



「陛下、私は恋はもういいのです。一度は経験しましたから……それに無理やり押し付けては失礼です。私のような者より別なご令嬢をお勧めください」



 ユーリアがお断りをすれば、陛下が恋をしろと再び言ってくる。



「ユーリアは失恋したのだろう? なら次だ次! ガンガン攻めればいつかいい男に会えるぞ! な、エルゼ!」



 エルゼは肩を落としため息をつく。



「とりあえず、本人にもこの事は話していないのです。聞いてみてはいかがですか?」



 エルゼの言葉にルーカスが答えた。



「私はユーリアのクラスの担任をしております。教師が生徒に手を出すのはご法度。付き合う事はできません」



 お断りの言葉を聞いて安堵したユーリアだったが、ローラントが話し始め顔色が変わっていく。



「確かに教師と生徒という立場上ただのお付き合いではまずいですなぁ。だが、婚約となれば別でしょう?

 アインハルト公爵家のルーカス殿。

 我々はいいご縁があったと思っております。ユーリアお前もなあ、もうちょっと視野を広くしなさい。これから一緒に学園で生活していくのだ。何か心に変化があるかも知れない」



 ローラントに加えて陛下まで命令を下してくる。



「6年間彼氏も作らずになんのための学生生活だ! よし、命令だ。成人までには決めてもらおうかのう。婚約者を……」


「陛下! それは……難しすぎます! 私の事を好きになってくれる人なんて絶対後2年で出てきません」


「それは大丈夫だと思う。」



 みんなが声を合わせてユーリアの言葉を否定した。



「こちらに待たせている婚約者もおるのだろう。今の婚約者の何が気にくわないのだ。全く……お前は真面目すぎる」



 陛下が一睨みする。



「名前も顔も知らないお相手ですから、逆に私のせいでいえ、クィントン家の厄介ごとに巻き込むのが嫌なのです。ルーカス先生も一緒です。私がここに戻るのであれば、一生独り身でいいのです」



 ユーリアも断固として考えを曲げず、その場での話は終わり、宴の広場へと2人で向かう。



「なんだか、すみません巻き込んでローラント様がどうもルーカス先生のこと気に入っちゃってるみたいです。」


「ああ、イルムヒルムのレストランで会ってからはなんとなくそんな気はしてたが……」



 ユーリアもルーカスも歩みは遅く、ゆっくりと会場に向かっている。



「なんだか、会場に戻るのが億劫です」


「右に同じだ。貴族だらけの飲み会なんてやってらんねえよ。息がつまる」



 ため息しか出てこない。



「私も一杯だけ飲みたい……飲みませんけど」


「やめておけ、介抱する身にもなってくれ!」



 ルーカスの言葉にユーリアは、自分がこれまで酒入りの料理で記憶をなくす失態をしてきた事を思い出す。



「私そんなに酒癖悪いですか」


「ああ。人格が厄介になる」


「え、どんなふうに」


「そうだな。魔性の女化だな。まあ、男とは飲まない方がいいな。食われるぞ。いや、食うぞ」


「え、食うって何?」



 大事な話の途中で追いついたローラントが話しかけてくる。



「ユーリア、せっかく学園都市にいったのだ。頑なになるのはいかんよ。なあルーカス殿」



 急に話を振られたルーカスは、少し引きつった笑顔で答える。



「そうですね。今から独身を貫くというのはもったいない。ヴァルヴィストにはたくさんの学生たちもいますから、出会いがユーリアを変えてくれるでしょう」



 ルーカスが遠回しにユーリアの相手は自分ではない事を告げると、ローラントも笑ってみせ、広間の入り口に入ると、2人の手に肩を置いた。



「そうだ。イルムヒルムでは2人の演奏を聞かせてもらったが、一曲踊ってみるのはどうだ? 先ほど友人と踊っていたではないか? 先生とも踊っていいだろう?」



 広間に進むとローラントによって半ば強制的にルーカスとダンスフロアに送り出されてしまう。


 ルーカスと目を合わせため息をつくと、差し出された手を取り進み出る。





 フロアに立つときには2人とも愛想笑いをしながら手を取り合い踊る。



「先生さすがは公爵家の御曹司ですね……普段の熱血さが全く感じられませんわ。今は数々の浮名を残されたというのが分かります」

.


 ユーリアが毒ついた笑顔でルーカスを見れば、ルーカスも愛想笑いの表情のまま返してくる。



「仕込まれてるからな……まあ、女のエスコートなら自信があるぞ。後、踊りだけでなく、人をなぶるのも、女を喜ばせるのも得意だぞ」



 その言葉にユーリア笑顔を崩さず、視線は冷ややかだ。

 ルーカスは耳元に近づくと、小さな声で呟いてくる。



「ユーリアこれを終わったら逃げるぞ、なんだか厄介なのがいろいろいそうだぞ」



 少し視線を歓談フロアに向けてみると、ティナたちが唖然としている。


 陛下もこちらの会場に戻ってきているようで、上座にある自席でエルゼと一緒にニヤニヤしながら酒を飲んでいる。



「確かに、ややこしそうですね。避難しましょう。あと、終わる頃にこそっと帰りましょうか……」


「ああ、賛成だ」



 踊りが終わり歓談フロアに戻ると、ティナたちよりも先に貴族たちが声をかけてくる。



「見事な踊りでしたね。クィントン家のユーリア様。先ほど宰相殿に連れられてお二人がこの会場にみえたようでしたので……そのご紹介いただいても?」



 シュペルノヴェイルで一、二を争う公爵家の御曹司が声を掛けてくる。



「これはカラティアラ公爵家のマリアン様、久方ぶりでございます。イルムヒルムで此度の諍いに尽力されていたルーカス様とおっしゃいます」



 ルーカスは愛想笑いをすると胸に手を置き、挨拶をする。



「お初にお目にかかります。ルーカス・アインハルトと申します」


「ほう、アインハルト家といえばジークヴェンデルの公爵家の方ですか? なんともまたそのような方が何故イルムヒルムへ……」


「詳細はローラント宰相にお伺い下さい。私、ルーカス様とお話がしたいのです。道を開けて下さいな」



 マリアンがルーカスに詰め寄りそうな勢いで話しかけてきて、周りの貴族も聞き耳を立てている。



「ユーリア様はご婚約者が決定しているとお伺いしておりましたが、まさか他国のものだったとは初耳です」



 マリアンは本来の婚約者を知っているのであろう。下手に言質をとられる前に笑顔だけ向けてユーリアが人混みの中を歩いてこうとする。



「ユーリア様、お話は終わっておりませんよ。まし、他国の貴族に貴女をとられるというのであれば、私は貴女にお話したい事があります!」



 マリアンの横を通り過ぎようとした時に、腕を掴まれバランスを崩した。

 ルーカスは抱きとめそのまま抱き上げる。



「ユーリア様、大丈夫ですか?足を捻られたようですので、あちらで手当てを……」



 ルーカスが抱きあげたまま、会場を後にし、城の庭園へと抜け出した。




*


「あの群がる貴族たちに腹の探り合い、ああいうのが嫌で俺は教師やってるってのに……」



 ユーリアを庭にあるあづま屋の椅子へ座らせるとポツリとルーカスが呟いた。



「すみません。巻き込んで……」


「いや、足は大丈夫か?」



 ルーカスが膝をついてユーリアの靴を脱がせて足首をひねる。



「大丈夫ですよ。軽く躓いただけですから。それに、もし支障があれば自分で治せます」


「それならいい」



 一通りルーカスの気が済むまで確認すると、ユーリアは立ち上がり、庭園の中の散歩にルーカスを誘った。


 イルムヒルムの復興状況を聞けば、魔獣たちが美味しいご飯と酒につられ、精を出しているようで、思いのほか順調に進んでいるらしい。


 ユーリアは急に歩みを止め、手を胸の前に組み上目遣いでルーカスに話しかける。



「それで、ルーカス様は私と婚約する気がおありなの?」



 あまりの唐突さにルーカスは何のことだとたじろぎ、ユーリアに詰め寄られる。



「な、何を急に言っているのだ?」



 後ろに下がったルーカスの背中には木があり身動きが取れなくなってしまった。



「ねえ、どうなの?」



 それでもなお詰め寄りユーリアはルーカスの頬に左手を伸ばした。

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