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クィントン家と騎士達のアイドル

 別邸よりもはるかに大きく隣には大きな治療院が見える。

 今回本邸には寄る予定はなかったのだが、ここの宰相と祖父は友人だ。話が筒抜けなのはわかっていた。



 本邸に入ると使用人達と家族が迎えてくれた。



「ユーリア、待ってたんだぞ! いなくなっちゃったから遊べなくてつまらなかった……」



 一番最初に駆け寄ってきたのはジェルジュだ。

 頭を撫でてやり膝を曲げて目線を合わせる。



「ごめんね。遊んであげられなくて……今日は朝ばっか!」



 ユーリアが声をかければ、きゅっと抱きついてきて離れない。



「ユーリア、また一段と母さんに似てきて……」



 懐かしそうな顔で見つめる父の声を遮って、隣で微笑むのは義母が話し始める。



「ユーリア今回は大変な目に合ったそうね……お部屋でおじい様がお待ちですわ。ユーリアだけで部屋に入るようにとの事よ」



 義母の言葉に、ディオンと共に頷きジェルジュをディオンに託すと、祖父の待つ部屋へと入った。


 祖父の執務室である重厚感のある部屋だ。


 祖父はユーリアの訪れを告げられたようで急いで書類を整えている。



「トルスティおじい様ご無沙汰しております」



 ユーリアは軽くスカートの裾を持ち挨拶をする。



「ユーリアまずは体を見せなさい」



 トルスティはユーリアの額に手を当てると魔力回路や体全身の流れを確認される。



「回路が乱れているだけか……。右足の腿の神経は無理矢理治したな……。馬鹿者処置が浅い。こういうのは後々響いてくる」



 トルスティはユーリアの足に手を当てると治癒魔法をかける。



「これでいいだろう。一体何をしたんだか。しかしローラントから聞いたが、訳がわからん。

 一体何があったか簡潔に説明せい」  



 ユーリアはイルムヒルムで起きた出来事を簡易的に答えた。



「キメラを閉じ込めた結界魔法、洞窟で負傷させられた脱出時に風魔法、それから宰相にかかっていた精神干渉魔法の相殺か魔力の使いすぎだ。

 そりゃ回路だってガタがくる」



 トルスティはユーリアに当てていた手を離し、報告書のような紙を取り出した。



「キメラも魔力吸収型だと聞いている。

 本来ならば吸収型の数は黒の魔獣と上位種の中でも一部のみ。

 あのスライム種は食欲のまさか感情がない……本来なら、自分が取り付いた魔獣を喰い殺すだけだろう……」



 トルスティはキメラに対し脅威を感じ、本来の種ではありえない行動に疑問を感じているようだ。



「取り憑かれた者の腹から魔術具が出てきました。恐らくは召喚魔石を組み込む事で宿主を乗っとる程度の制御をし、義手などの魔術具を応用し魔力回路を掌握、体の治癒、魔法の発動を促すものと思います。

 普通の魔獣よりは死ににくいですが、何度も殺せば宿主の体の崩壊は起きる、それに魔力を吸収できない飽和状態の魔力を一気にぶつけて狩れるのは、普通の黒の魔獣と一緒です。

 ただ厄介なのは宿主が危機に陥るとスライムが出てきて広範囲で魔力の捕食をする事ですね……見た目もあまり良くないです」

 


 ユーリアはキメラとの戦場を思い出し身震いする。

 トルスティはその姿を見て苦い顔をする。きっと想像したのであろう。



「大型の黒スライムが巣食った時に有効なのは浄化魔法という事だな……あれは黒の魔獣は吸収できんからな……」


「そうですね、浄化魔法は魔獣にとって毒にしかなりませんから特に黒魔獣には効果的です。黒化したスライムにも効果がありました」



 2人は難しい顔で考え込むと、部屋のドアから声がかかり夕食の席となった。

 久しぶりの家族の食事となる。




*


 父には学園生活について聞かれて良好だと答えれば、ジェルジュは遊びに連れて行けと何度もいうので明日はジェルジュと遊びに行くこととなる。

 義母も何も言わないので、確定でいいだろう。


 トルスティはディオンの顔を一度見ると、咳払いをして話し始める。



「ユーリア、お前が不在の時に婚約者から手紙が来ていたぞ。後から読みなさい。

 そのクィントン家の娘として嫁ぐ先は成人までには決めなくてはならぬぞ? その……宰相から打診が来ている……いつまでも逃れられない事だぞ?」



 成人まで後2年である。確かに家の事を考えれば早急に決めなくてはならないのは分かるが、それでは、意味がない。



「おじい様、私は後6年は結婚する気はないと正直にこの国を出る際にお手紙を書いただけです。先方がどう取られるかは分かりません。

 そして、新たな婚約の話はお待ちいただけませんか?

 同じく6年お待ちいただけるのであれば、考えますが……後、クィントン家に残る選択肢は考えておりませんので、そこはご安心くださいね」



 祖父は義母を軽く見て、ため息をつく。



「打診があったのはジークヴェンデルの公爵家アインハルトの三男で年は25歳との事だ。公爵家と言っても王一族の血筋にあるそうで、体術の心得があり、騎士をしていた事もあるそうだ。

 クィントン家というよりかはシュペルノヴェイル自体に有益な話なのだよ……対外的にはまだ以前の婚約者と破談になっていないし、向こうも三男だから公爵家を継ぐ事もないそうで、嫁ぐ形にもならない。だがな、一公爵家でもないうちに何故その話がくるのだユーリアよ……」



 ユーリアは首を掲げある人物を思い浮かべていると、父が口を挟んでくる。



「父さんが爵位断るからですよ。ローラント様きっとユーリアの事可愛がっていたから、我が家とは別として、他国の伯爵家の血筋に恥じないようにとか新しい家を作る気なんですよ。爵位をつけて……」



 トルスティは頭を抱える。

 ユーリアも目を瞬く。いろいろなところで話が進んでいるようだ。



「ともかく、3日後の夜、城で宴が催される。その際に先方と話ができるようになっている……ユーリアが逃げれば逃げるほど話が大きくなっている気がする」



 トルスティの言葉に同意である。義母は始終ただただ食事を取るだけであった。






 2日間はジェルジュの遊びに付き合わされ、やっと解放されたユーリアは今日の午前は城の訓練場で体を動かす。

 ティナたちは観光は一通り終えていたようで、城での訓練をメインに過ごしていくようだ。先輩たちも今日は来ている。

 義母からシュペルノヴェイルに連れてきた友人達を招待するようにとの事だったのだ。


 先輩達が明日の朝にシュペルノヴェイルを立ちイルムヒルムの復興の手伝いに行くとの事だったので、急々になってしまったのだ。



「ティナ今晩さー。宴があるのよ……せっかく婚約破談になったのに……」



 ティナの休憩中に少し雑談をする。



「破談になってたの?」



 ティナが驚き目を丸くしている。ユーリアは持ってきていた手紙を見せる。



「ちょっとユーリア、これ破談になってないと思うわよ。遠回しだけど、君の花開いた時、話をしようって書いてあるじゃん。それって6年後のユーリアが学園を卒業したら、改めて話しをしようって取れると思うんだけど……」



 ユーリアは顔をしかめる。



「ここって私の話の内容を認めてくれた上でお話ししようって事で婚約関係がなくなっても気軽に話ができればいいなって事じゃないの?」



 ユーリアとティナが見つめ合っていると、手紙が奪われる。



「こんな所に何持ってきてんだー。ああ、もしかしてお前の婚約者か……ほお、それでお前的にはこの内容は婚約は解消されたと判断したんだな」



 エドガーは腹を抱えて笑い出す。



「まあ、いんじゃねえか。どうせまだ婚約だ。本決まりじゃねえだろ。今のうちに学園でいいやつ見つけて断りたいなら6年後に断ればいいだろ!」



 ティナはその様子に笑い、ユーリアの手を握った。



「エドガー様の言う通りだよ。恋した相手と結ばれなきゃね!でもいいなー宴。私は平民の出だからドレスとか着て楽しくお喋りするの羨ましい」



 ユーリアは顔を俯けると少し考える。



「そんな楽しい所じゃないけど、参加してみる?ドレスは私の着たやつならあるし……本邸に長居するのは嫌だけど、しょうがない。師匠いいかなー?」



 ユーリアはエドガーを見上げ、エドガーは少し考えると、提案する。



「なら、他にも連れてけ、ティナ1人だと狙われるぞ……そうだなあれは連れて行け」



 巻き添えをくったのはベネディクトだ。エドガーはニヤニヤ笑っている。



「そうね。ベネディクトがいいわね。クス」



 隣で見学していたベティーナも笑いながら、その様子を見ている。ティナは満面の笑みだ。



「そうだ。どうせなら皆連れてきちまえ、どうせ一人一人の飯じゃねえし、立食式で真ん中ではピラピラした服を着て踊ってるんだろうから、ローラント様に言っとくぜ!」



 エドガーの大雑把ぶりが出たところで、皆が集まってくる。



「服はこっちで貸してやるから、今晩はただ飯だ! いっぱい食えー!」



 何の話だか分からない面々は呆気に取られた表情をしていた。





*


「ユーリアさん婚約話なくなったのか……ドレス姿くらい拝みたいよな……」


「城の中の警備譲れよ」


「嫌だよ」



 若手の騎士達が呟く中、その言葉を聞いていたのかエドガーが反応する。噂話をしていた騎士達の間に入り肩を組むとユーリアの恋愛観について語る。



「お前らなー。ユーリアは恋愛しないらしいぞ……あいつが興味あるのは魔獣だけだ。特に猫な……猫より癒してくれる男が理想って言ってたな。俺には難解だが婚約者はすぐに決まるだろうよ。諦めろ。せめて告白するなら俺より強くなれよ!」



 大きな声でエドガーが話したせいで、ユーリアにもその声が聞こえる。ユーリアは怒りだし、剣を構える。



「人の理想の話を勝手に広めないで下さい! それに婚約なんて絶対しませんから! 陛下のような私はカッコいい女性になるのです」


「ユーリア……それってある意味陛下の事結婚できないって決めつけてないか……」



 エドガーのツッコミにさらに怒ると剣を振り上げ、エドガーに切り掛かった。



「違います! 一度心に決めた人を想い、婚約が破棄されようと想い続けられるその強さを学びたいのです」


「ほう、そうか。らしいですよ陛下ー」



 エドガーにつられ訓練場の上空を見上げれば、カルステンに乗った陛下がいた。

 その隣にはカルアスに乗ったヴァイセルがいる。


 ユーリアは顔が一気に真っ赤になり、エドガーに足払いをかけ転ばし、喉に剣を突き立てる。

 エドガーは自分の持っている剣を手放し両手を上げそのまま上空の陛下を見て肩を竦める。



「ククク、そうかユーリアは婚約者の事を想っているのか……ローラントのお気に入りは入る余地がないのか。

 まあ、好きにするといい。ローラントが勝手に言っているだけのようだしな……」



 陛下はヴァイセルと共に陛下の執務室の方へ飛び去っていった。



「師匠のせいで勘違いされたじゃない! もー、許さないからー! だいたい婚約者なんていらないってローラント様に説明したはずなのにどうして婚約話を持ち込んでくるのよー!」



 エドガーはユーリアを見上げながら笑い、目に涙を溜めている。



「全部お前が招いたと思うぞ……全く……とりあえず、ただ飯だけ楽しみにしとけ! 陛下が今回は甘いものに力を入れたと言っていたぞ」



 ユーリアは少し機嫌を直してエドガーに手を差し伸べた。エドガーはユーリアの手を掴むと立ち上がり、ズボンについた汚れを払う。



「いいかー。お前らユーリアをつるなら甘いものだ。覚えとけー。大抵のことは許してくれるというか忘れる」



 騎士達に向かって何故かユーリアの扱いについて手ほどきをしている。

 ドニやヤンも頷いているようだ。



「さすがはユーリアちゃんの師匠だね。なんでもお見通しって感じ、ねえ、ユーリアちゃんそんなに怒らないで、機嫌直して僕とも剣を交えてくれない? なんなら、仮の彼氏役やってあげてもいいよ? 当面は婚約者除けになるんじゃないかな」



 イーヴァルがこちらに向かって歩いてきて、頭を撫でてくれる。なかなか魅力的な提案だが、ややこしくなりそうな気がする。

 ユーリアが顎に手を当て悩んでいると、イーヴァルが急に抱き上げてきた。



「僕の愛しのユーリア。君を守り抜くよ」



 額に口づけされユーリアは慌てる。その様子を見てイーヴァルは笑う。



「ユーリアちゃんの反応って本当面白いよね。普通の女の子ならときめくところなんだけど……まあ、いいじゃない学園でも噂されてる仲なんだし。否定しないならこのまま攫っちゃうぞ!」



 再びイーヴァルの顔が近づいてきた事で、額を両手で押さえて首を横に振る。

 イーヴァルはクスクス笑うとユーリアに話しかける。



「結婚って自由なようで、貴族とかになっちゃうと自分じゃ決められないものだよ。ね、だから学園でいい人見つけて駆け落ちしちゃいなよー。

 ベティーナ人選よろしくね。たぶんテディさんより強い護衛はいないから、性格重視で抱擁力がある人でいいんじゃないかな……」



 少し真顔になった後で笑ってベティーナに話しかける。ベティーナも口元を手で押さえて笑って答える。



「そうね、ユーリアの自由奔放さを笑って許せるような懐の広い生産クラスの方を選んでおくわ」


「そんな者いるのか……」



 先ほどから不機嫌そうな顔をしてるシェルトが呟いた。


 そんなやり取りを見ていた若手の騎士達はイーヴァルを睨みつけ、手が止まっているところを年配の騎士達から叱責されるのであった。


 ユーリア達はお昼ご飯と服選びのため本邸に先触れを出して帰ったのである。






 本邸に帰ればトルスティにエルノ、義母のビルギッタとジェルジュが待ち構えており、ユーリアの学園生活を聞くほのぼのとした食事となった。


 何故か父がジーグルドの存在を知っていたので、学園に密偵がいる事は間違いない。


 ビルギッタの手腕も抜かりなく。城の宴を前もって知っていたため、ユーリアの逃げ道をなくすために元から今日の昼食の際に宴へ誘う手筈だったのであろう。

 すでにキンモから背格好を聞き取り衣装屋に手配が済んでいた。

 トルスティもうまく誘導されて動いているようだ。



 夕方から始まる宴への準備が着々と進んでいった。


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