デニスの言い訳
南門に行っていたエドガーが、人型の魔獣達や今回救援要請を受けた魔力持ち達を引き連れ、イルムヒルムの西側の城前へやってきた。
よく見ると細々とイルムヒルムの重鎮達が連行されてきている。
都市の長以外は紐で繋がれ、長は荒れた街並みや白の姿を見て驚きの表情を浮かべている。他の者はでっぷり宰相以外は俯き、皆意気消沈である。
広場のような所に置くと皆で囲むように重鎮たちが座らせれる。
避難場所から続々と出てきている町人達も見物しに来ている。
「お前達は私が誰だか分かった上で、拘束しておるのか!
魔獣なんか使いおって我は力に屈しないぞ!
某の顔知っておる。シュペルノヴェイルの騎士団団長ではないか!
いいか皆の者、今回はシュペルノヴェイルによる策略だ! 我々は陥れられたのだ。私たちは何も知らない。
ただ南の地で魔獣が荒れていると聞き、今回の救援要請に至った訳だ。
そうしたらキメラが街の中に蠢き出した。
イルムヒルムを貶めたのはシュペルノヴェイルだ!」
救援要請を受けた者たちは動じないが町人達は宰相の言葉を信じ、エドガーを睨み付けている。
その中で1人の女性が広場へと出てきた。
「ほう、それはシュペルノヴェイルに罪をかせるという事か? 宰相殿?」
宰相は口をパクパクさせ、都市の長と重鎮たちも驚きの表情でその顔を見ている。
「何故ここに……やはりシュペルノヴェイルの企みだったのではないか、女王が国を開けるわけがない。魔獣に姿をとらせておるのだろう。騎士達にこの者を捕らえよ!」
控えていたイルムヒルムの騎士達が宰相の言葉にどう動くか迷いながらも従おうとすると、トンと石畳を叩く音がする。
騎士達は水の戒めに捕われ身動きが取れない。
「何故だ……」
群衆の中から広場に現れたのはシュペルノヴェイルの魔術師ヴァイセルだ。
そして、その隣には宰相のローラントも控えている。
「デニスよ。今回はちいとばかしやりすぎじゃのお……こちらは損害を受けた。
南の海にキメラを差し向けたのは其方なんじゃろ?
ほれ、この通り証拠もあるぞ……」
ローラントは懐から魔術具を出すと、先日魔獣をやり取りした時に録音した声を再生する。
すると、そこに集まっていた面々が皆宰相を睨むようになった。
「キメラをこちらに差し向けたという事はこちらで何体が持っていたのではないか? それが逃げ出して我々に罪を着せようなど……」
デニスはローラントと女王を睨みつけると罵声を浴びせる。
「それこそお主らが逃したのではないのか! いや、お主ら本当に本物か?」
「デニスそろそろ口を慎め、そして、本当のことを申せ……。
魔石を集めるために魔獣の子を捕らえ、イルムヒルムへ親の魔獣を引き寄せたのか……。
だからあんなにも早く他国へ救援要請をと言ったのか?」
デニスの言葉を遮ったのは都市の長だ。
デニスの顔と女王の顔を見比べてばかりだったが、やっと口を開く決心がついたらしい。
「長よ。これもこの都市のためです。
魔石を集め売り、大量にとった赤魔石で新しい魔術具を作れば絶対的な地位をこの都市は築けるのですぞ!それをこの者達は……」
「デニスやめよ! お主は間違っている。絶対的地位などいらぬであろう?
それを望んでこの有様だ……町人たちが心地よく生活できる場を作り上げることが、我々の役目であろう? 自ら戦乱に民を巻き込んでどうするんだ?」
長はデニスを睨みつけるが、デニスもまた睨み返す。
「ふ。青二才が知った口を聞くな。ここの財は私が全て築いたようなモノ。お主など血で長を引き継いだに過ぎぬ。
先代ももう少し優秀な者を残してくれればよかった物を……考えてもみろ。世が戦乱に陥れば、有用な魔術具は高く売れる。
尚且つ、使用回数に制限をかけ自分たちが持つ魔術具より劣化した物を売りつければ、こちらが攻め込まれたとしても安全だ。
戦いが生まれればその分魔石も手に入りまた財となる。
財というものは綺麗事では簡単にたまらぬものよ。」
デニスは長に対して罵倒し黒い笑みを浮かべる。長は信じられない物を見るような目でデニスを見つめた。
先代が死んでから支えられてきた男が、そんな野望を持っていたとは知らなかったのだ。
ただ唖然とし、言葉が出ない。
「デニスよ。其方が語る事は一部正しい。自国を守るためとなれば非道を尽くさねばならぬが、他国に大きく干渉して混乱を招いてまで財を築き上げてどうするのだ?
イルムヒルムが唯一の支配者となったこの大陸で何を望む?」
女王の問いにデニスは言葉を詰まらせた。口を開いた時に出た答えは自らの生活を暴露しているも同然のものだ。
「金だ。金があれば民は裕福な暮らしができるぞ!毎晩酒盛りをし、夜更まで遊んで、昼間は遅くまで寝る。女を侍らせ、良いものを食い、装飾品をつける。
どうだ? 幸せな暮らしだろう?」
女王も長も頭を抱える。2人も言葉が詰まってしまったので、ローラントが口を開く。
「デニスよ。お主は本当に頭が良く、悪知恵の働く曲者であった。今はなんだその形は? 今言ったことは自分のことであろう?
いつからそんなに愚かになったのだ。
金さえあれば大抵の事が事足りると思っているのであろうな……残念だ。落ちるとこまで落ちたな。のう、イルムヒルムの長としてこれはどうする?
他の者たちもどういう考えなのだ? 皆デニスの意見に賛成しておるのか?」
他の重鎮たちは皆、首を目一杯横に振る。
その姿を見たデニスは首を振った重鎮たちに、罵声を浴びせる。
「皆、私の意見に賛成していたではないか……。財をなせば遊んで暮らせると……」
重鎮の1人は強い眼差しでデニスを見つめ、重い口を開く。
「デニス宰相の意見に背けば、左遷か打ち首が常だ。同志たちは皆散って行った。その姿を見れば恐ろしくて意見など言えぬ」
「掌かえしおって!」
デニスが激昂すると、他の重鎮も首を縦に振った。
「特にここ、1、2年のデニス宰相は見てられなかったですぞ。若い娘の言いなりになって……都市の経費は大半あの女に貢がれておいでだった」
「何?そうだったのか?」
重鎮の言葉に驚いたのは長だ。
「長に見せる書類は隠蔽されておりました……。その後書類をすり替え、恐らくは手跡を真似て韻を押したのだと思います」
長はがっくりと肩を下ろし、デニスを見た。
「なんだその目は何も気づかないお前が悪い。
長いこと私は一人で苦労してきた。それを癒してくれるのはアルシェただ一人だった。今まで苦労してきた分、少しくらい返してもらっただけだ」
町人達からは罵声が飛び交う。自分たちの苦労して稼いで納めた税を女に使われたのだ。頭にくるであろう。
「なあ、長よ。この哀れな男に命じよ。某はどう裁く?」
長は戸惑いながらもきつく目を閉じて自分の答えを言う。
「宰相デニス。宰相の任から外し、追放する。今回の悪事に絡んでいた者も減給とする」
町人達の前で言い渡された裁きをデニス以外の者は頷き了承する。
「自分の無能を棚に上げおって!貴様こそ長の地位を退け!」
デニスは立ち上がり長を見下し罵声を上げる。
その姿に女王は冷酷な表情で告げる。
「デニスよ。長は無能などではない。密偵を遣わしこちらに救援要請を送ってきた。
ただ確かな証拠も上がらず手を拱いていたところに、世の魔獣へ連絡があり、有事に駆けつけたのだ。
お前の愚かさに気づかぬ訳がないだろう?
恐らく、ギリギリまではお主を信じていただけだ。
それにしても長よ。裁きが甘いぞ?」
長は首を横に振り女王に話しかける。
「いえ、極刑に処すれば自分の罪を認めることなく、ただ命を落とすだけです。
民の立場となって日々生きてみて欲しいのです。」
長の言葉にただ愕然とするデニスを尻目に女王は後ろを振り返り町人達に話しかけた。
「よろしい。町人達。妾はイルムヒルムの窮地に人を使わそう。街を修復するにも城を修復するにも人手が足りぬであろう? 傭兵達もどうだ? 日当を出すぞ……。まあ、イルムヒルムが出していた金額の半分以下にはなるがな……」
その言葉に町人も傭兵も頷く。
「おうよ、少しばかり額が減ったって気にしないさ。元々ここの稼ぎは泡銭みてえなもんだ。今度はちゃんと働いて稼ぐさ……」
広場に集まっていた人々は自然と自分たちの住む区画は戻り、傭兵達はひどく荒れた区画を目指し去っていった。
*
「ではデニスよ。ここを去る前に話を聞こう。」
デニスの前に女王は歩み寄ると、デニスはまだ懲りずに睨み付けている。
「お前は偽物だ。何かが私を嵌めたのだ。私が落ちぶれるなどあり……」
「偽物か……好かん言葉だ。」
デニスの話を遮るように女王は腕を上げ、デニスに向かい腕を伸ばす。
すると、上空から2匹の赤い鳥が飛んできて、デニスの肩と足をそれぞれ掴む。
「さて、デニスよ。このまま引き裂かれたくなくば、唆した者の名を告げよ! それとも今回の魔獣をおびき寄せキメラを街に放ったのはお前の全て作戦通りなのか?」
ギリギリと2匹の鳥は足に力を入れる。
「儂は何も知らん。」
恐ろしい事にデニスの表情には恐怖も痛みも感じさせない。あるのはただの怒りだけである。
異常を感じたユーリアはデニスに向かい精神干渉魔法の相殺をし始めた。
手強いがなんとか解除できそうだ。
すると、みるみるうちにデニスの顔が引きつってきた。
「なんだ、なんなんだ。お主ら信じておらぬな。
儂は人質を解放し不気味に笑う白い髪の男に追われ、場内に魔術具を解放したのだ。
あれが暴走するなど思ってもみなかった。外の魔術具は赤い魔獣を殺し損ねた時に役立つからと解放させたまで……。」
「愚かな……。得体の知れない化け物を解放させるとは……。都市の被害は甚大だぞ……」
長は目の前に広がる荒れた街を見つめた。エドガーはため息をつき、デニスを見る。
「あれは、魔術具などではない。ただの食欲の塊の獣だ。魔力を求め身近にあるものから喰らい尽くそうとする。人が扱えるものではない。」
そのエドガーの声にデニスは反発する。
「いや、あれは魔術具だ。魔獣に進化をもたらせ、たとえ首を跳ねられようとも魔力を吸収すれば元に戻る。私はその実験を何度も見たのだ。
魔術具の一部となった獣が無敵になれるのだ。それさえ行使できれば、我々の意に背くものなどいない。全ては我が女神ア……。」
ドンと嫌な音が聞こえる。上空から黒い塊が落ちてきてデニスを包む。
赤の鳥は黒い塊が迫る中デニスを広場に落とす。
デニスの形がなくなり黒い液体だけが広場へと残り、ヴァイセルはその液体に浄化魔法を放ち無に返した。
広場にいる面々は俯きその液体が広まったところをただただ見ていた。
ユーリアだけは空を睨み付けていたのであった。
上空高く人間には目視できない高さには2人、浮遊していた。男性が女性を抱き上げている。
「あの気持ち悪い奴ペラペラ話しすぎじゃない?
金回りは良かったからいろいろ研究が進んだけど、ほんとありえないわ。」
「アルシェ言葉使いが乱れておりますよ。」
ラディムはアルシェを叱責する。
「けっ、自分だって猫被ってるくせに……。てめえが敬語使うとか薄ら寒いんだよ。ってか、てめえが敬語使ってる時はだいたい腹ん中で黒いこと考えている時だからな……何考えてやがる?」
ラディムはクスクスと笑みを深めて、アルシェを見る。
「何も言わない気か……いいぜ。それにしてもあの女人の干渉魔法相殺しやがって……。
あの洞窟で完璧に殺すべきだったな……。自分の教え子に手をかけるとか最低な人間だよなー。
殺される方も抵抗できないしよ。
面白くなるはずだったのに……。
あれで恋人同士だったならもっと悲惨な死なせ方にしてやったがな……」
ラディムはアルシェを抱えてイルムヒルムの上空から移動する。
「あの女は私の玩具です。痛めつけるのは私で十分です。これ以上手をつけないで下さいね……もし殺したらあなたも魔石にします」
アルシェは冷ややかな笑みを受け、肩を竦めた。
「お前の遊び道具に手を出すなんて怖い事できないさ……私は私で遊び道具見つけたからいいさ。
あの男どうやって私のスライムの呪縛から逃れたのか……興味が唆られるねぇ」
アルシェは先の割れた舌をペロリとさせ、目をギロリとさせた。




