イルムヒルム内部の鎮圧
「アモンよ。そろそろ人間の都市へ参ろう。我々は誓約を果たしキメラを倒した。
ならば今回我々を傷つけた黒幕とやらの顔を拝みに行こうではないか。」
アモンの肩に手を置き、話しかけたのはアボアだ。
「そうだな。おい嬢ちゃん行こうぜー! イルムヒルムの黒幕とやらのとこに……」
アモンはウルトを呼び娘と共にウルトに乗ろうとした。
そこでテディが話しかけてくる。
「アボア様、アモン様すみません。実は狸共なら連れてきてまして……それと黒幕の一部ですが、逃げられてしまいました。キメラを放った時点でこの都市から消えたようです。」
テディはキメラ付近に置いていた金属の塊をアモンたちの目の前に置き、中が見えるようにした。
すると中の者たちは気絶していた。
「これはこれはすみません。迫りくる魔力からは遮断していたのですが、どうも彼らの視界を防いで上げる事を忘れていました……」
テディは黒い笑みを浮かべながら、続ける。
「この者たちが起きるまで、お暇でしょうから、イルムヒルムでキメラ退治とでも行きましょうか……まだまだ雑魚ですが、都市内に散らばっておりますよ! 気晴らしになりますよ。」
「待て、テディ。キメラはまだいるのか?」
エドガーがテディの話を聞いて驚く、そして頷くと人側に話かける。
「これで終わりじゃない。イルムヒルムの内部にもキメラが入り込んでいるそうだ。敵はここまで手強くないが、数がいるそうだ。残りの力で蹴散らしに行くぞー!」
人と魔獣の混合した群が再び前進する。
ユーリアはその様子を見て一安心してワイドの背に乗った。後ろにはアベルを乗せる。テディはこっそり猫型になりユーリアの前へ座った。
「では参りましょうか。アベルはしっかり私に捕まって下さいね!」
ユーリアの言葉にアベルが頷くとワイド全速力で走り始めた。
夕方南門に着くと、門の守りをしている者達からは驚かれ、攻撃を受けかけたが、エドガーが立ち回り、事なきを得た。
門の騎士達が言うに、ほぼキメラの鎮圧は終わっているとの事だった。
犠牲者も最低限で済んだと話している。
アベルを門にいるヴァルヴィストの騎士達へ合流させ別れを告げる。
「アベルありがとうございました。後もう一つこの人達の捕縛をお願いします。この国の重役の方で今回の救援要請の裏側を知る大事な方々です……。
下手に逃げられると魔獣達に殺されちゃうから、信用のおけるヴァルヴィストの騎士達に捕縛兼護衛を頼みます。」
「私は何も知らなかったのだ全ては……」
「——ブルルル」
ユーリアの言葉に都市の長が言い訳をしようとするが鼻息を荒くした赤猪達に詰め寄られる。
檻の中に入っているものは身を竦みあがらせ皆口を閉じた。
「お願いなのです。あなた方を亡き者にしたくないのです。なので大人しく捕まっていて下さいね。都市内のキメラを鎮圧して戻ってきたら話をつけますから、どうか命は大事に…….」
ユーリアは重鎮たちにそう告げるとアベルたちヴァルヴィストの騎士達に手を振って都市内へと入る。
中に入るのは人型を取れる、アモン、ウルト、アボア、ワイドだ。
そのほかのアモン達のお供は獣型の魔獣を統制するため門の外で待機だ。
エドガー率いる傭兵団はそれぞれ少人数のチームを組み、狩漏れがないか確認するため都市内に散っていった。それにアモンやウルト、アボアやワイドが感知役として付いていく。
「ユーリア様、城の地下にまだ不穏なモノを感じます。向かいましょう……」
肩に乗る猫型のテディの小さな声に頷き、ユーリアはそっとその場から抜け出した。
テディが不穏なモノを感じたのは城に近い避難場所の中だ。
ユーリアとテディは階段を下り、扉を開ける。
そこには無数のドアがあり一つ一つ確認していくが、特に普通の部屋が続いているだけで、突き当たりになってしまった。
「さらにこの地下という事はどこかに入り口が隠されていますね」
テディが周囲の臭いを嗅ぎ、壁に擦り寄った。
その壁を見ると、彫り込まれたデザインでわかりにくいが小さな扉が見える。
テディと共にその扉を潜るとその先には洞窟のような空間があった。
「きゃー!」
「うあっ!」
男性と女性の声が洞窟内に響き渡る。
急いで進めば、広い空間となりその中に研究機材が持ち込まれていた。
いくつもの薬品に魔石。水槽のようなモノの中には黒い液体がどっぷり入っていて、魔獣達が檻の中に入れられている。
そのさらに奥にはさらに広い空間がありどこかのホールぐらい広いのではないだろうか、黒い液体から身体の一部を出した男の姿があった。
「テディ!」
テディに呼びかけるとユーリアは男の手や足を引っ張り。テディは腕を刀にすると黒い液体に斬り込み両断する。
その隙にユーリアは身体強化の魔法を使って男を切り取られた黒い液体の本体から離す。
体に引っ付いている部分は氷魔法をつかい払い除け、氷漬けにした。
人間には魔力を少し訳、体を魔法で少しずつ温めてやる。
「しばらくは持つでしょう……テディ、その液体スライムかしら?」
「ええ、あの水槽にいた奴が魔獣にくっついて勝手に地下通路を通って出てきたって感じなんですかね。
そういえば女性の声もしましたが……」
辺りには女性の姿が見えない。
ユーリアの膝にいる男がピクリと動いた。
「ルーカス先生大丈夫?」
巻き込まれていたのは男性とはルーカス先生なのである。
ルーカスはまだ焦点が合わずぼーっとしている。
「もう、心配かけないでくださいよ。行きますよ」
「ユーリア様離れて!ルーカス様の体内に……」
テディの叫び声は虚しく響き渡り、ユーリアは押し倒され首元を噛まれそうになる。
「——マリョク……」
テディすぐさまルーカスを蹴り飛ばすと、またこちらに襲いかかってくる。
防御壁でやり過ごしているが、知り合いなだけにテディもユーリアも攻撃ができない。
「助けて下さい。私を助けようとして彼は黒い液体に……」
姿を現したのは先日宰相の隣にいた女性アルシェだ。テディに抱きついてきた。
テディは、それを気にせずにそのまま攻撃態勢を取る。
「本体の核を潰すしかありませんね……外で見たものよりもろい。ユーリア様あちらの黒い液体を先に攻撃します!」
腕を振り上げ攻撃をくらわし、液体が消える。
ユーリアがホッとしてテディと目を合わせるとテディの胸から血が滴り落ちる。
女の腕が貫通しているのだ。
テディはその場に膝をつく。
「アハハハ。楽しいわ。クソみたいな人間に尻尾を振る魔獣なんて大嫌い。スライムも核を壊しきれていないみたいね……」
ルーカスが剣を振るい防御壁を壊す。
血を吐きながらテディがルーカスの剣を抑えている。
「人間への投与は初めてだけど、自我はやはり保たてないのね……魔獣より知能の高いモノなら大丈夫かと思ったのに失敗ね……剣を持っただけマシだけど、こちらのいう事なんて聞く気ないみたいだものね……はあぁ、失敗だわ。次の作品を仕上げなくては……」
「アルシェ!」
ユーリアはアルシェに向けて土の捕縛魔法を放つ。が、躱され、アルシェが洞窟の壁に手をついたすると壁を伝い、魔法陣が展開されていく。
「うふふ。後もう少ししたらこの地下の空間はなくなるわ。それまでに出られるといいわね……じゃあね」
アルシェは小さな先の尖った土の塊を無数に展開させ、風魔法で威力をつけてユーリア目掛けて放った。
半身を捻り急所に刺さることは回避したが右足の腿に貫通してしまいその場に崩れた。
なんとか起き上がるが、足から血が流れ始め力が入らない。
「ユーリア様。くそっ!」
テディが必死になって剣をいなすが、ルーカスの剣術は劣らずテディが弾き飛ばされたところをついて、テディにさらに一撃を加える。
立ち上がらなくなったテディを置いて、ユーリア目掛けてルーカスが歩みを進める。
ルーカスの目が黒くなり、侵食されているのがよく分かる。
跪いたユーリアは剣の柄で肩を殴られて再び横に転がされた。
なんとか這いずって距離を置こうとするが、ルーカスに捕まる。
「やめろー!」
ルーカスは急に叫ぶと自分の腹に剣を突き立てその場に倒れた。
「ルーカス先生!」
ユーリアは足を引きずって這い、ルーカスの元へと行く。
「ルーカス先生?」
「ユーリアすまないな。怖い思いをさせた。悪いが止めを打ってくれ、出ないとこの液体を抑えられない……」
「止めなんて打てるわけないじゃん。助けるから待って……」
ユーリアはルーカスのギズ口に手を当て額を合わせてルーカスの体の内部に浄化魔法をかけた。
それに合わせて魔力回路の隅々まで確認し、スライムが残らないように徹底的に潰した。
ルーカスの胃袋に何か異物があるため治癒魔法を駆使して取り出す。そして、傷口を塞ぐ。
異物を見てユーリアは納得した。
「ルーカス先生これで大丈夫だから、後はここから脱出しましょうね……」
*
ルーカスの胸に耳を当て心臓が鼓動している事を確認して、自分の足の怪我の痛覚を遮断し、神経のみ治癒させる。
そして、横になっているテディの口元に自分の血を数滴垂らした。
すると、テディは意識が戻ったようで口を開いた。
「ユーリア様面目ありません。ルーカス様がお強くて手加減も何もありませんよ……私もまだまだです」
「いいのよ。テディ少しの間魔石で休んでいて、ここ自爆するみたいなの、ルーカス先生起こして急いで私たちは脱出するわ」
「ルーカス様は?」
「大丈夫。浄化魔法を体内にかけて浄化してやったわ。元どおりのルーカス先生。そして、収穫もあったわ……とりあえず眠りなさい」
ユーリアはテディを魔石の中に入れ、ルーカス先生の元へと駆け寄る。
「ルーカス先生目を覚まして!ここ崩れちゃう!早くしないと……まだどこか悪かったりするのかな……」
ユーリアはルーカスに触れ異常がないか確認して、特に問題ないようなので魔力不足かもしれないと、魔力を渡そうと額を近づけた時、ルーカスが目を開いてユーリアの肩を掴む。
「ユーリア俺は大丈夫だ。話は後からいろいろ聞くから、この場から逃げるぞ!」
「はい!」
元気になったルーカスを見て嬉しくなり笑顔で答える。
そしてルーカスはなぜか上に着ていた服を脱ぐ。
「先生?」
ユーリアが首を傾げているとルーカスはしゃがみ込み、ユーリアの負傷している右足の腿にきつく縛りつけた。
「治癒魔法は使わないのか?」
「最低限の治癒はしましたよ。これ以上使うと魔力が心許ないので少し温存です」
ユーリアのぎこちない笑顔を見て悟ったルーカスは渋い顔をするとユーリアを抱き上げ、自分が入ってきた道から外へ出ようとする。
しかし、ユーリア達が入っていた入り口の方から爆発が起こり、徐々に洞窟全体の崩落が始まった。
ルーカスが懸命に走るが、もう少しというところで、瓦礫に挟まれてしまった。
「ここまでなのか、畜生!」
ルーカスが壁を力一杯叩き血が滲み出ている。
剣を構え瓦礫を退けようとするが、ユーリアはそれを止める。
「ルーカス先生。下手に退けると瓦礫が崩れます。もうすぐ出口なんですよね?」
ユーリアの問いにルーカスが答える。
「ああ、目前だった。城の西側の入口だ」
肩を落とすルーカスに触れユーリアは魔力を渡すと、ルーカスに言う。
「ルーカス先生このままあっちの方向に走って、行きますよ。一瞬ですからね!」
ニコリとするとユーリアは目の前の瓦礫を魔法で竜巻を起こし風で吹き飛ばし、上にある地盤ごと竜巻の威力で崩していく。
ルーカスは身体強化の魔法を使って竜巻の跡を置い、足元が悪い中はねるように進んでいく。
「見えた」
ルーカスとユーリアの目の前に光が漏れ始め地上へと出たのであった。
後ろには城が見え崩れ始めていた。
*
「……生き埋めになるとこだった」
ルーカスは地上に出た事で安堵したのか、いったんユーリアを置いて自分もその隣に座り込む。
ユーリアはルーカスの肩にもたれかかり、休憩する。
「キメラルーカス先生……クスクス」
ユーリアも安心したのでルーカスに軽口を叩いた。
「お前それ言うなよ! あれ大変だったんだからなー! 食欲しかわかねえし、常に魔力を欲するし……理性なんてあったもんじゃねえよ!」
ルーカスはユーリアの首をグイグイと軽く腕で締め上げる真似をしていると、人がちらほら全速力でこちらに向かってきた。
「何事かと思えばユーリア。お前か……二人とも凄い格好だな……大丈夫か?」
やってきたのはジョエルに跨るエドガーと恐らく近辺にいた生徒達と、それを率いていたヴィオラ先生だ。ルーカスは気まずそうにすっと腕を離す。
血塗れの二人を見たヴィオラはすぐ様治療を始める。
「俺はかすり傷と打撲くらいしかない。こいつの傷から治してやれ……」
ルーカスもよく見るとボロボロだ。外に出る事だけに集中したため顔や足に怪我をしていた。
ヴィオラはユーリアの足の怪我を治し細かいかすり傷まで治してくれた。
「ヴィオラ先生ありがとう……」
「いいのよ。あなたはゆっくり休みなさい」
傷の手当てが終わるとヴィオラは自分の着ていた白衣をユーリアに着せる。
ユーリアが首を傾げているとヴィオラは笑いかける。
「ユーリア服が所々破れているようなの。だから着替えるまではそれを来ていてね」
ヴィオラの言葉で気づいたが結構服がアルシェに攻撃された時に破れてしまっている。
せっかくの可愛い服がもったいない。
ヴィオラはユーリアの次にルーカスの怪我を治していく。
「師匠、都市の中のキメラはどうですか?」
「あ、ああ。ほぼ鎮圧だ。奴らは魔力に飢えているからな、魔力持ちが近づけば寄ってくる。
都市全てを回っているところだが、もう見かけなくなっているので再び沸き出てこなければ大丈夫だろう」
エドガーの言葉にユーリアは首を縦に振る。
「師匠、城の内部にキメラの研究施設があったわ。テディも一緒に見てるの。
そして、きちんと収穫もあるわ!」
ユーリアはウエストポーチからルーカスの腹に入っていた小さな魔術具を出す。
エドガーはそれを睨みつけるように見て、首を傾げる。
「それは、ルーカス先生のお腹の中に入ってたの。それでルーカス先生がキメラ化したんだけど、ちょうどルーカス先生が自分のお腹刺してくれたからそこからじょ……」
ユーリアはルーカスに手で口を塞がれる。
キメラ化した事を隠したかったのだろうか……
「ルーカス、恐らくユーリアの話だけではわからない。お前がどう言う状況にあったか説明せよ」
ルーカスは頷くとどうして城の地下へ向かったのか説明を始める。
「私が都市内部の避難誘導をしているとそこに一人の女性が現れたのです。子供が迷い込んでしまって心配だと……そのため一人でその女の後を追って行けば、洞窟の中にたどり着きました。
そこで女に無理矢理何かを飲み込まされて、気がつくとスライムが現れ飲み込まれました。
その次に意識が戻ったのは、ユーリアが大怪我をして地面を張っているところでした。
自分の中で求めている食欲……魔力を喰らいたいという感情しかその時はありませんでした。なんとかその感情に対抗しようと自分で自分を傷つけたのです。
そして、ユーリアに浄化魔法と治癒魔法の両方をかけてもらい命を取り止めたのです」
エドガーは頷き、ジョエルがルーカスの顎を持つ。
「無理矢理飲まされたのねー。へぇー。クスクス。今はユーリアの匂いしかしないからその女とやらの匂いは追えないわね。残念」
顔を真っ赤にさせ目を逸らすルーカスを見て、ジョエルはニヤニヤと笑いながらエドガーの後ろに控えた。
「えー、つまりはその小さいのがスライムが取り付く媒体になっているという事か?」
「はい、詳しく調べてみないと分かりませんが、ルーカス先生のお腹にスライムが集中していました。テディと一緒に引き離したのであまりルーカス先生の体内には入り込んでいなかったのです」
エドガーは顎に手をやり、考える。
「とりあえず、これはユーリア預からせてもらう。国で相談してみよう。
後は、この城といい避難させているものと言い、後片付けか……ユーリア、テディを見かけないが」
ユーリアは首を横に振る。
「ルーカス先生に薬を飲ませた女。いえ、アルシェにやられ魔石の中で療養させています」
エドガーは驚く。
「テディがやられたというのか?」
「不意を突かれました。ルーカス先生が暴れていて気が散漫していたのもありますが、まさかスライムの本体がルーカス先生の中にいると思わず、外の大きなスライムを撃退して安堵した隙をやられました。なので、テディに脅させるのはなしですよ。
そして、恐らく金属の檻もいったん解除されていると思いますから……いや逃げ出せないでしょうね」
エドガーはため息をつくとジョエルと共に南の門へと向かった。
ユーリアたちはその場で少し休むようにとの事だったので、その場に休む。




