ユーリアの解放と戦闘への介入
朝起きると、尻尾に包まれていた。
こっそり寝起きのラディムにバレないように耳に触れる。
尻尾もいいが耳の毛の感触もたまらないのだ。
ニヤニヤと耳に触れていると、ラディムが目を開けてユーリアの両手を掴み、覆い被さる。
「耳は敏感だと昨日伝えたんだけど……。眠い……」
そのままの状態でラディムは眠ってしまう。すぐに寝息まで立てている。
「ラディム重い。退けて。そして、手を外してー」
バタバタともがいていると、ラディムは目を開け睨んでくる。
「耳元で騒がない! 手を離すと触るだろ……。寝る」
少し体を避けてくれたが腕が重い。そして、耳の毛が鼻をくすぐりムズムズする。
熟睡し始めたラディムの手を、何とか外そうと動くが、また怒られる。
「耳元で声出さない……。もうユーリアはじっとしてる。手は離すから何もしないでよ」
ラディムは寝返りを打ち、ユーリアとは反対方向を向く。
尻尾をファサファサさせてお怒りモードだ。
ユーリアは布団から出ると、昨日買ってもらった服を見る。
「何これ、すごく可愛い。ウィッグの色に合わせてくれたのかなー。でも地毛にも合うか……。ラディム意外とセンスあるじゃん」
紙袋をガサガサやって、服を着替えようとするとラディムがやってくる。
「大人しくしててって言ったのに。ユーリアは、それまだ着なくていいよ。デザートと宿代分の魔力貰うんだから……」
そういうとラディムは後ろから、肩辺りに歯を立て血を舐める。
「やっ、肩は痛い……。てか、これ宿代なの?」
寝ぼけている目でラディムはユーリアを見て、今度は首に歯を立てる。
「これ服代」
「ラディムそんなに噛まないでよ。痛い! 一箇所からでいいでしょ?」
ラディムは欠伸をして頭を掻く。
「痛みに耐える顔っていいじゃん。苦痛を感じた時の人間の顔って最高だよねー。ほら、寝よ」
ユーリアはラディムに引っ張られて再び布団に入る。
ラディムはユーリアを尻尾で抱える。
「これ朝の迷惑代。しばらくは抱き枕だよ」
「はいはい、分かったわよ。目が覚めるまで寝なさいよ……」
そういうユーリアも寝てしまい、二度寝から起きた時にはお昼近くになっていた。
ユーリアが起きた時にはすでにラディムはおらず、書き置きに『お別れです。ご自由に皆さんの元へお帰り下さい。また次回会える事を楽しみにしています』と書かれていた。
魔力を取るだけとって置いてかれた気分である。
朝食は用意されていたので、それを食べる。
ユーリアは服を着替えて、宿を後にした。エドガーの所に行って謝ろう。
宿を出ると街の中が少し騒がしい。
兵士たちが街の中を行き交い、周りの魔力を軽く探知してみると先日までちらほらいたはずの魔力持ちが感じられない。
ユーリアは焦りを感じながら、エドガーのいる宿へと向かう。
エドガーのいたはずの宿からはテディとフェリクスの魔力しか感じられなかった。
急いで宿の部屋に入ってみると、やはり部屋には2人しかいなかった。
「皆ごめん。私が二度寝したせいで……。テディー!心細かったよー」
テディに抱きつくと頭を撫でてくれる。フェリクスも心配してくれていたようで、安堵の表情を浮かべた。
「ユーリア様お帰りなさい。ご無事で何よりです。ウルトからラディムという輩に囚われていると言われていましたが、お元気そうで……。しかし、あの男の匂いが体中からしますね。それに血の匂いも」
テディは鼻をスンスンさせると、嫌な顔をする。
「あ、そういえば朝方魔力を取られたの。二箇所も噛むことないよね……。なんだか宿屋にいる間は全く不安なんて感じなかったのにあの宿を出た途端、今の状況を思い出したんだ……」
テディはお風呂に行く用意をして、ユーリアに差し出す。
「とりあえず、一旦傷を癒していただいて、お風呂に入ってください。話はそれからです」
テディに促されシャワーを浴びてくる。
テディに頭を乾かしてもらっている間にいろいろと今まであったことを聞いた。
まず昨日の午後から猪の血の匂いがし始め、それが深夜には森まで届いたこと。
そして、深夜にはウルトとアモンを檻から救い出し、アモンはウルトに乗り仲間達の元へと戻ったこと。
朝方魔力持ち達が集められ魔獣討伐の号令が出され、現在移動中であること。
エドガーとジョエルは討伐隊の中に紛れ出立したこと。
ヴァルヴィストの生徒達には今回の救援要請が危険な事をルーカスが伝え、現在宿屋に留まっていることが教えられる。
フェリクスの傷も癒え、体調も元に戻りつつあることを聞いた。
「恐らくユーリア様はラディムに精神を干渉されていたのではないかと思います。
あの者はそう言った小賢しい魔法に長けておりますので……。ユーリア様のご不安な気持ちを忘れさせ、邪魔されないように事が進むまで囚われていたのだと思いますよ。
もうすでに、人、魔獣の陣営が迫りつつある中で妨害する事は困難ですからね……」
ユーリアは自分の無念さに頭を抱えた。
この2日、自分は本当に何もせず宿屋にいた。いくら精神干渉をされてるとは言え、ただラディムの言いなりになっていた。
悔やまれる事が多すぎる。
「フェリクスもごめんね。心配かけたよね。体大丈夫?」
ユーリアはフェリクスと額をくっつけて魔力の流れを確認する。
「少し乱れがあるけれど、大丈夫そうだね」
フェリクスはずっと眉間にシワを寄せたままだ。
「ユーリア様、お守りする事が出来ず申し訳ありませんでした。私の油断からこのような事態になるとは思ってもみませんでした。本当に申し訳ありません」
フェリクスは丸一日、目を覚さなかったと聞いたところだ。自分は何もされていなかったのだ。フェリクスが悔やむ事はない。
朝方出立したのであれば、人間の陣営はもう配置されている筈だ。
魔獣もそろそろ到達している可能性が高い。
「フェリクスあなたはここに残る? まだ体が回復しきっていないわ」
フェリクスは首を横に振り、強い眼差しでユーリアを見た。
「いえ、主人が戦場に赴くと分かっていてこの場にいるわけには行きません。ご一緒させて下さい」
フェリクスの言葉にユーリアは首を縦に振り、テディを見た。
「テディ出立の準備を!」
テディは微笑むとユーリアのウェストポーチを手渡す。
「すでに用意はできておりますよ。ユーリア様がいらっしゃる宿についてはルーカス様からお伺いしましたから、街から組織の者が動くのを待っていたのです。ちょうどいなくなったところで、ユーリア様の魔力を感じましたので、こちらでお待ちしていたのです」
「そう、それでは参ります」
ユーリアはテディに抱き上げられ、フェリクスは鳥型をとり空へと飛び立つ。
*
人間側の陣営についた時にはもうすでに戦いは始まっていた。
赤い猪達が突っ込み、人間達も多く負傷しているようだ。
他の魔獣も入り乱れ、負傷している。
ウルトの姿はないが、アモンは猿達の戦闘に達戦っているようだ。
戦いを未然に防ぐ事は出来なかった。
だが、ユーリアは頭を捻る。この戦乱をうまく鎮める方法はないものかと……。
「ユーリア様どうなさいますか?人に背いた魔獣達を一掃するのであればそれでもいいですし、魔獣達を陥れた人間を駆逐するのも悪くありませんね。
お互いに領分が超えています。どちらか消して共倒れになるよりかは片方だけ潰すのがいいかと思いますが……」
テディは不敵に笑う。ユーリアはどちらも選べない。悩んでるうちにも負傷者は増えていく。
そんな中、都市の方から魔力を感じた。
遠方でも感じるほどの魔力を放つという事は都市でも魔獣が現れたという事だろうか……。
テディが都市の方角を見て魔力を集中させる。
「ユーリア様どうやら都市の方でも戦いが起きているようですね……。
恐らくは最初に感じた攻撃が都市を護衛する騎士団のものでしょう。
そして、そのもの達の魔力が一瞬で吸収されたように思います……」
「キメラ……」
テディはユーリアの言葉に深く頷く。
こちらでは人間と魔獣が戦い、都市ではキメラが暴れ回っている。
早くこちらの魔力持ちを集めて、応援に行かなくては都市の方も危ない。
「フェリクス体に負担になると思うけど、力を貸して頂戴!この地を守る守護の魔獣として……」
「私の事など気にしなくても大丈夫です。ユーリア様のお力にならせて下さい」
テディが笑みを深めた。
「ユーリア様は本当にお優しいですね……。その手で行きますか」
「だって、ここに集まってる人たちは皆騙されているんだよ。
お互いに領分を超えたくて超えたんじゃない。なら、止めるしかない。
テディは魔獣の子供達の身の安全を確保して、皆こちらに注目してるでしょうから、その時に魔力探知を最大出力で! そこからは隠密として動き、組織から子供達を回収して!」
「了解いたしました……。魔力探知は不要です。目ぼしいところはすでに調査済みですので……」
テディはフェリクスの背中にユーリアを乗せると、都市の方へと飛んでいった。
ユーリアはフェリクスの背を優しく撫でると目を閉じる。
「フェリクス本当にごめん!」




