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ラディムの悪戯

 部屋を出て宿の食堂と思しき所の入口に、見知った顔があった。



「ヴィオラ先生?」



 私服姿ではあったが、保健室の先生がいる。



「あら、メガネをかけてないけど、ユーリアかしら? ここの宿に泊まっているの? ルーカスから聞いているけど、今はシュペルノベイルにいるんじゃなかったのかしら?」



 ユーリアはなんと答えていいか分からなかったので、とりあえず、知り合いに会った事にする。



「ここに知り合いいた。だからここの宿いる。

 お腹空いた。だから来た」



 何も知らないヴィオラは、何も疑いなく話している。



「あら、そう? それにしてもいつもよりボーイッシュな服装ね……」


「服汚した。借り物」



 ヴィオラは特に深く考えなかったようで、そのまま一緒の席で食事しないか誘われる。


「食べる……」


 席に着くと、食事が運ばれてくる。久々の温かい食事だ。

 ユーリアがもぐもぐ食べているとヴィオラは笑い。服の件で話しかける。



「ユーリア食事が終わったら、私の洋服で良かったら貸すわ……。そっちの方がサイズが合うでしょうから」


「うん」


「あれ、ユーリアさん。お部屋から出てきてたのですね。私もこちらで一緒にお食事いいですかー?」


 

 ラディムが奴隷商の3倍増しの爽やかさで、食堂にやってきた。手には紙袋が何個か見える。

 全く闇の組織の一員には見えない。

 ユーリアの隣の席に座ると、夕食を注文した。



「私はラディムと言います。ユーリアさんのお母様の知り合いなんです」



 ヴィオラは優しく微笑むと、ラディムに自己紹介する。



「私はヴィオラといいます。ユーリアの通っている学園の、主に保健室に在中していますわ」


 

 ラディムの食事が運ばれてきて、ラディムが食べ始める。



「いや。男が女モノの服を買うのはかなり抵抗がありましたが、なんとか一式揃えましたよ」


「別にいい。どんな服?」



 ユーリアは紙袋の中を、コソッと覗こうとする。



「それはお部屋に帰ってから、見てください。それにしてもよくその格好で出てきましたね。昨晩汚してしまった原因は私にありますし、仕事を優先して、服を買ってくるのが遅れてしまいましたが……」



 ラディムはユーリアの胸元を指を差す。

 恐らく胸を布で潰している事を言っているのだろう。



「私も驚いたのですよ……。全くユーリアはいつも中性的な格好であまり見た目を気にしないとは言え、女の子がそんな格好で出歩くなんて……。服が汚れたからと言うので、この後に私の洋服を貸そうかと話していたところだったのです……」



 ヴィオラがため息混じりで話をすると、ラディムもため息をつく。



「本当にそのようですね……。鈍感ではないかと薄々気づいてはいたのですが……。これはひどい」


「服置いてあったから、これでいいかと思って。お腹も減った」



 ユーリアがもぐもぐ食べ続けていると、二人ともため息をつく。ラディムのお小言が続く。



「あれは、いつまでもバスローブ姿ではいられないと思い、私の服を置いたまでです。

 まさか、外に出るとは思いませんでしたよ。

 もう少し恥じらいを持った方が、いいのではないですか? お母様がご存命でしたら、ご心配されますよ」



 その言葉にヴィオラが反応する。



「待ってバスローブって、それに一式揃えたって言いましたよね? まさか……。噂のユーリアの故郷の……」


 ラディムは口元に人差し指を当てると、ウィンクをする。



「噂はよく分かりませんが、だいたい女性の体は一目見ればサイズは分かりますよ」



 ヴィオラはまあと頰に手を当て、ユーリアは首を傾げるも食事を続ける。

 学園で自分の噂はあまり聞かないのだが、何のことであろう。



「まあ、お忍びで会ってるようなものですから、この事は学園の方にはご内密に……」



 ラディムの言葉にユーリアは頷く。また下手な噂を立てられるのはごめんだ。

 ユーリアは食事を終えると、ラディムたちが食べ終わるのを待つ。



「ユーリアさん。口元にソースが付いていますよ」


 ラディムはソースを拭いぺろっと指を舐めた。

 その様子をこっそり見ていた女子生徒から、きゃあという小さな悲鳴が起こる。



「ラディム、余計な事しないでこっちで拭けばいい」



 ユーリアはナプキンで口を拭っていると、ラディムは笑い出す。



「余計な事と言われましても、ソースがお顔に付いているのは恥ずかしいではないですか……。こっちにも付いているようですよ」



 今度は頬にキスしてくる。女子生徒だけでなくヴィオラからも悲鳴が漏れる。

 男子生徒の視線もこちらを向いている。



「ラディム!」



 ユーリアはプンプンと怒り、席を立とうとするが、ラディムに手を引かれ強制的に座らされる。

 その後は手を握られ、捕獲された。



「ユーリアさん、もうちょっとで食べ終わりますから、怒らないで下さい」


「はあ、ユーリア、大人しくしていなさい。他の人の目もあるからあまり目立たない方がいいわ。あなたって気付いてないかも知れないし……」


「そうですよ。いい子にしてたらデザートも買ってきてますから、二人で部屋で食べましょうね」



 皆からの視線を感じながら、ラディムが食べ終わるのを待つ事となった。


 ラディムは上機嫌だが、ヴィオラは先ほどから目を泳がせている。それに気付いたのかラディムはユーリアの帽子を取り、髪を下させる。



「ああ、これですか? これで目立たないでしょう」


「ラディム何?」



 ユーリアは不機嫌な目でラディムを睨むが、ヴィオラはユーリアの髪の方に驚いている。



「ユーリア、あなたの目って……。それにそんな髪型だったの?いつもは茶髪の短めの……」



 変な所でばらされてしまった。ユーリアはヴィオラに地毛を見られ、目の色まで素顔を見られてしまった。慌てて帽子を取り返そうとするが、ラディムは返してくれなかった。



「学園では害虫をつけないよう自分を隠しているようですね……。女は恋して美しくなるというのに、もったいない」



 ユーリアはふいっと顔を背ける。こんな所で暴露される必要はない。


 学園の女子達は何かコソコソと話始めるは、男子達は唖然とした後、視線を合わせなくなるわで面倒だ。



「先生絶対に私だって言わないでください。知り合いって事で……。ゴタゴタになるのは嫌です」



 ラディムはニヤニヤと笑いだすが、ヴィオラは頷く。



「ルーカスとイーヴァルの噂の相手があなたって確信が持てたわよ。ルーカスを問い詰めなくちゃね……」



 変な所に火種が撒かれたが、ルーカスのことは知らない。



「部屋に戻る」



 ラディムも食事を終えたようなので、その場から立ち上がる。



「ヴィオラ先生またね。くれぐれも内密に……」


「ええ。分かりましたわ。ではいい夏休みを」




 ユーリアがさっさと歩いていくと、ラディムも後を追ってくる。後ろから覆うように抱きついてきた。まだ食堂の入口付近だ。

 バッチリ、ヴィオラにも生徒にも見られている。



「そんなに怒らないで下さいよ。学園での生活が面白くなりそうじゃないですか」



 ユーリアは手を振り解き、部屋に向かって歩きだす。


 部屋に入ろうとドアに手を伸ばすとラディムがユーリアを止める。



「この部屋には私以外は入れないと言ったいましたよね。全くあんな格好で出ていって、知り合いや私に会っていなかったらどうしていたのですか……」



 ユーリアは完璧に忘れていた。出られるのだから入れると、頭が勝手に理解していたのだ。

 ラディムがドアノブに手を伸ばし部屋に入る。



「とりあえず、ご飯食べることしか考えてなかったからなー。暗がりなら特に絡まれずに帰れてたと思うよ」



 ユーリアは撒いていた布を解いて、締め付け感から解放されるとラディムがテーブルの上へと用意したデザートへと手を伸ばし、食べ始める。

 その姿を見てラディムはため息をつく。



「私は今あなたを軟禁している状況にあるのですが、それを分かっていますか?

 それに無防備にも程があります」



 ユーリアは頷き、デザートを堪能する。



「分かってるよー。何かといって部屋に居させるんだもん。ヴィオラ先生達に会った時点で助けを求めちゃえば巻き込まれるでしょ! 逃げるなら自力にしないとね……。決して食欲を優先した訳じゃないから!」



 ユーリアの表情に説得力がないので、ラディムも諦めたようだ。


 ラディムは自分もデザートを食べ始めた。



「ラディムなんで抱きついたのよ。ヴィオラ先生に完全に誤解されたじゃない?

 夏休みが終わって顔を合わせた時の事を考えると恐ろしいんだけど……」



 ラディムがこそっと「抱きつく前から疑われていますけどね……」と呟くが、ユーリアには聞こえていなかった。



「今何か言った?」


「いえ、私は面白そうで何よりじゃないですかと言っただけですよ……。

あなたの正体がバレればいいよってくる男性もいらっしゃるのでは?

本当に見た目はお美しい……。恋愛から逃れるなんて無理なんですよ。

 この世に男と女がいる限り、皆経験していくものです」



 記憶を覗かれていたことに、恥ずかしさが再燃したユーリアは、ラディムを睨みつける。



「ラディムは本当性格悪いよね。そうやって人が嫌なことを的確に着いてくるんだから……」



 文句を言いながらも食べる手は止めない。デザートに罪はないのだ。



「それは褒め言葉と受け止めておきますね。私は人が困っているのを見る事が、一番の至福の時ですから」



 ユーリアが顔をムスッとさせてるとラディムが頰を突きながら、話しかけてくる。



「とりあえず今日は寝てください。夜の街は危ない。下手な男があなたに絡んで被害者が増えるのはよくない。

私ならのらりくらりと、あなたの仲間達から逃れられますが、並の魔力持ちでは酷い目に合わされるでしょうね……」


「待って、私の心配じゃないの?」



 ユーリアの言葉にラディムは腹を抱えて笑う。



「私をここまで弱らせる魔力をお持ちなのに、声を掛けた男のほうが可愛そうじゃないですか……。それにあなたの魔法が発動した時点で、お仲間が駆けつけるでしょうね……」



 ユーリアはそれはそうかも知れないと思った。丸一日は離れている。恐らく探している。

 デザートを食べている場合では無いのだ。



「ラディム。私デザート食べてる場合じゃなかった」



 ラディムはそっとユーリアの口元に触れるとクリームを拭う。



「いいですか。今晩はゆっくり休んで明日お説教を受けてください。

 今から夜通しお説教されるよりいいでしょう?

 デザートを食べ終えたのならお風呂に入って寝ましょう」


「お説教イヤー!そうしよっかな。どうせ怒られるなら今日くらいはいいかー」



 ユーリアはラディムに従い、明日の朝、朝食後にエドガーのいる宿に帰る事とした。



「ねね。ラディム。獣型になろうよー。洗ってあげるよ! いつもテディは洗ってあげてるんだよー!」



 ラディムは頭を抱え、手を払う。



「お風呂くらい一人で入ってください。テディとは違います」



 ユーリアは口を尖らせて一人で風呂に入りに行った。


 ラディムは一人呟く。



「ユーリアの危機感のなさはテディとやらのせいだな……」



 ユーリアが先に寝て、ラディムは寝付いたユーリアとベットに入る。



「全く、体は大人なのだから少しは慎みを持ちなさい。クラウディア様……。父親の心境というのでしょうか……。あなたの娘は危ないですよ……。今は敵なんですけどね……」


 明日の分の魔力を補充し、尻尾でユーリアをくるむ。


「明日は忙しくなりますからね……。今日はゆっくりお休みください。ユーリアさん」


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