テディ達の合流
シュペルノヴェイルからやってきたテディ、ルーカスはエドガーたちのいる宿屋へと訪れた。
闇組織と、シュペルノヴェイルで集めた赤魔石の、売買をする予定なのだ。
すでにイルムヒルムに来た時に、例のカフェの店長を仲介人に、売買人へと連絡を取ってもらい、夕方にはやり取りをする予定である。
宿屋を訪ねて部屋に入ると、そこには怪我をしてか、動けなくなっているフェリクスが寝かされていた。意識も混濁としているようだ。
「エドガー様。何があったのです? ユーリア様のお姿や魔力を一切感じないのですが……」
テディは焦りの表情を浮かべ、エドガーを見る。
エドガーは首を横に振りフェリクスを見つめる。
一昨日の出来事から昨晩の酒場の事まで順を追って説明した。
「油断した。焦りすぎたのだ。
相手が弱っているからとたかをくくり、ユーリアをフェリクスに任せて、情報を得る事に集中した。
その結果がこれだ。
ジョエルが町中を探しているが、全く匂いも辿れていない」
テディはその話を聞くと頷いて、笑みを深めた。
「今はラディムでしたか……。クラウディア様と何かあったのは知っていますが、詳細までは存じておりませんね……。
奴は結界や幻覚などなどの魔法が得意なはずです。
恐らくは強力な結界を張り、ユーリア様の痕跡を隠しているのでしょう……。
厄介ではありますが、探せない事もないでしょう。
しかし組織となると術者が一人だけという訳でもないでしょうからね……。少し宿屋を回ってみますよ」
「おい、俺も行くぞ! 大切な教え子を連れてかれたんだ」
黙っていたルーカスが口を開いた。
テディがルーカスを見ると、ルーカスは教え子を連れ去られた事に怒りを露わにしている。
「俺じゃあ、何の役にも立たないかもしれないが、何かしら情報を得られるかもしれない。
人は多い方がいいだろう?」
エドガーが首を横に振る。恐らくルーカスでは役不足だ。
「ルーカス殿、怒る気持ちは分かるが、奴は一枚縄では行かないのだ。
あなたはここに残って下さい。
あの男が隠したという事はもしかすると組織ぐるみで隠した可能性もある。危険だ。
結界を見抜く力がないのであれば、行かない方がいい」
テディもその意見に同意のようだ。下手に力のない者が近づけば、その場で捕まり、人質にされてしまう可能性がある。
ルーカスは拳を握りしめ、下を向く。
「ルーカス様、探知の得意な我々魔獣の領分です。
あなたは夕方までここにいて下さい。私も少しの間ですが、探してみます。
それにしても、先程から召喚魔石を使って通信しようとしているのですが、全く反応がないのです……。
あの事件があってから、ユーリア様はペンダントを身につけなくなりましたからね……。
アレがあれば一発でやり取りできたというのに……」
すると、エドガーがユーリアの荷物を持ち上げる。
「アイツはこれを酒場に置いていったよ。
部屋を移動する時に、席に置いていったままだった。
全く、召喚魔石は身近におけと言っていたのに、何をしているのだが……。
いくら酒に酔ったからといって間抜けだ」
テディがユーリアの荷物を預かり中身を見ると、そこには3つの召喚魔石が入っていた。
「本当にユーリア様は……。
まあ、ラディムの目的が何かは分かりませんが、こちらにこれがあるのはいいのか悪いのか……。奪われなくて済んだと思うほかないですね……」
テディが珍しくため息を吐くと、荷物をエドガーに返す。
「私は外に出ますので、こちらはエドガー様が持っていて下さい。
そういえばウルトが組織に連れて行かれたのですよね。
先にそちらの方からアジトを割り出しておきますか……」
エドガーが驚きの目でテディを見る。
ジョエルがそちらの方も匂いで追えず、魔力も感じられないと言っていた。
その様子をニコリと笑うと、テディは部屋を出ていった。
「俺にもっと力が有れば……」
ルーカスの呟きに、エドガーが答える。
「まあ、座りなさい。ユーリアのそばにいると深く考えると身がもたない。
アイツはだいたい周りが心配しても、本人は楽観的で平気な顔で戻ってくるもんだ。
俺も本当は外に出たいが、この都市じゃ知れた顔だ。明るいうちは変装してもあまり行動できん。
都市絡みで、何か企んでるのは間違いない」
色付きの魔獣を集め、魔石を集めるのは宰相自体が話をしていた。
隣国の騎士団の団長であるエドガーの顔は広く知られている。
この都市で派手に動くわけには行かないのだ。
「そういえば、生徒達がくるという話だったが、ここの都市に集まるのは危険だと思う。
今からでも引き返せないのか?」
ルーカスは首を横に振る。
「昨晩、連絡を取った時点で、本日の昼頃にはイルムヒルムに到着するとの事でした。
恐らく、もうついているかと……。
都市内での魔獣によるやり取りは、なるべく取らない方針になっておりますので、夕方魔石のやり取りが終われば、直接私が出向きます。
事情を説明して、何かしらの理由をつけて都市内に止まるようにします。戦場に赴くよりかは安全かと……」
エドガーは難しい顔になり、何か懸念があるようだ。
「宰相の言っていた通り、色付きの魔獣の魔石を集める為だけなら問題ないが、組織の動きが分からんからな……。だが、戦場よりはマシか。
ルーカス殿は生徒達の身の安全を考た方がいい。ユーリアの事は我々に任せろ……」
「はい」
エドガーとルーカスは、未だに目が覚めないフェリクスを見守るしかなかった。
*
闇組織のアジト付近には、1匹の白猫がいた。
早々にウルトの魔力の残骸を見つけ、辿り着いた。
『いやはや、ウルトが魔法を使ったとは……。あのご老体に何があったのか……。
まあ、お陰で探す手間が省けましたよ……。それにしても簡易な隠蔽魔法だ』
扉の前に丸まり、人が出てくるのを待つ。
「ありゃ、猫型の魔獣がいるぞ? ペットが迷い込んだのか?」
チンピラが二人出てきて、白猫を見る。
「こいつ魔力微妙にしか感じねえ。どこかの飼い猫か……」
「にゃあ?」
白猫はチンピラ達の足元に擦り寄り、甘えた声を出す。
すると、チンピラは猫を抱き上げ喉を撫でる。
「お前腹減ってんのか? 色付きとはいえ弱い魔獣じゃ人につかねえと、ただの魔獣の餌にしかならねえからな……。飯分けてやるからな」
「いいんですかー? ヨウコ様勝手に猫拾っちゃって……。後からラディムさんに怒られますよ……」
「いいんだよウッツ。弱い魔獣の気持ちが痛いほど分かるぜ……。人に飼われるしか生き残れないんだ……」
ヨウコは扉を開け建物に入り階段を降りると、地下にこの都市での組織の隠れ家があった。
何個か部屋があり、キッチンのような部屋に入る。そして、ゴソゴソと食料を適当に皿に出していく。
「最近じゃ、飼い慣らしやすい魔獣を育てて、ペット化してますからね……。ま、うちの組織も手を広げている所ですけど……」
「そうなんだよな……。弱いってだけで惨めなんだぜ。好きで弱く生まれた訳じゃないのによぉ」
「にゃあ」
「そうだろう。飼えはしねえが、一回くらい飯食わせてやろうぜ、体も汚れてやがる……。飯食ったら洗ってやるか……」
飯を用意した皿を猫の前に出すと、猫は警戒しているが、ヨウコが「毒は入ってねえ」と一つ摘んで食べてみせると、食べ始めた。
「ヨウコさんって、基本魔獣に優しいですよね。他の魔獣の子供達も、大事に世話してますもんね」
「おうよ」
「残念ですね……、あの運ばれてった猪の子供達」
「仕方がねえ。俺たちは組織の一員だ。あの方の考えに間違いはねえ。それに殺す訳じゃないって聞いてるしな」
「ていうか、俺ら魔石の買い取りの仕事行かなくちゃじゃないですか……。さっさと酒場に行って場を整えとかないと、ラディムさんに怒られますよ」
ヨウコは猫の頭を撫でると「俺らが帰ってくるまでここにいろ」と、箱に布を敷いたものを用意してくれて外へと向かった。
『アイツ、魔獣だろ……。闇組織には他の魔獣も潜り込んでいると考えていいようだな』
白猫はいくつもの扉がある中で、一つの扉の前で止まる。
『ここか』
猫はジャンプして扉の取手に捕まり、そのままの勢いで扉を開けた。
すると、目の前には厳重な檻が二つ並び、魔獣が入れられている。
猫はそっと扉を閉めると、魔獣達に話しかける。
「ウルト、大丈夫でしたか? だいぶ力を消費しているようですが?」
ウルトは猫を見て驚きの声を上げる。
「テディ様。面目無いです。この老耄の力では全く開かず……」
猫はスンスンと周囲の匂いを嗅ぐと、魔力のぶつかりの痕跡を見つけたのか、顔を少ししかめる。
「ラディムとかいう者に魔法を喰らったのか……。
若干だが、ユーリア様の魔力を感じるという事は、あの男、ユーリア様の魔力を奪っているのだな……」
アモンが頭を掻き、テディを見てウルトに問いかけた。
「この猫知り合いなのか?」
「これ、アモン。失礼してはいかん。白虎様じゃ。ユーリア様の命で、よくこのお姿になっておられるのじゃ」
アモンは口を開けて驚いている。猿のままだが、感情が分かってしまう。
「白虎にどんな格好させてんだよ。あの嬢ちゃんは……。子供の姿ならまだしも別な種族の姿って……」
「赤猿の長殿、そこはお気になさらずに、いろいろこの姿の方が動きやすいのですよ。今も可哀想な猫として餌をもらいここに潜入できましたから。割とこの姿は気に入っているのです」
唖然としているアモンを尻目に、ウルトがテディに話しかけた。
「テディ様、ユーリア様が心配です。どうやら、ラディムに軟禁されているようで、精神干渉を行われているようなのです。
どこまでもつのか……」
その言葉に我に返ったのか、アモンがキーキー言い始める。
「それよか、猪達の子供の血を使ってアイツらは猪達を誘導する気でいるようだ。
俺の娘も何らかの形で……」
テディが尻尾を左右に振る。そして、上を見上げて2匹を交互に見る。
「双方場所を特定しなければなりませんね……。ユーリア様なら大丈夫でしょう。
精神を干渉されようともラディム程度では壊す事はできません。
というよりも、全く抵抗する事をしないでしょうから、ただただ自分の記憶を覗かれるでしょうね。
問題は猪か……。あれらは血の匂いがすれば頭に血が上ってこちらに来るでしょうね……。
そして、それに他の魔獣達も後を追ってという陣形が崩れた形で人間達と相対するようになる。
魔獣側の方が不利ですね」
テディの言葉にアモンは俯く。仲間達が次々に倒れていく姿を、想像してしまったのだ。
「しかしながら、テディ様。ユーリア様の記憶と言っても、奴が知りたいのはクラウディア様のご遺体や魔石のありかなのです。
奴にもし場所がバレれば悪用されかねない……」
テディが一瞬目を閉じた。それから目を見開くとウルトを睨みつける。
「ユーリア様の記憶にはそれらの記憶はない。
下手に刺激しなければ、異常は起こらないだろう……。その辺は私がきちんと確認しますので、あなた方はこの件は今後誰にも話してはなりません。
いいですね……。クラウディア様の件はユーリア様にとってとても繊細な事なのです。下手に事故の事を思い出してしまえば、それこそ精神が崩壊します。とりあえず猪の匂いを見つけますか……」
ウルトが尾を丸めると、テディは背を向けて扉に向かう。
「私はこれから予定がありますから、人が寝入った夜にまたお迎えにきますね。
それともずっとこちらにいますか? その方がもしかするとラディムの話が聞けるかもしれませんが……」
「いや、遠慮する。あの頭がいかれた奴の話は聞きたくない。一刻も早くこの場を出て娘を探したい。この檻を今すぐ開けてくれないか?」
アモンの訴えにテディは答えず、そのまま扉を出て建物の中から出て行った。
テディは猪の痕跡を見つけようと、街の中を歩いてみたが、一切ない。
もしかすると、最初からこの都市の中には連れ込んでいないのかもしれない。
猿の娘の匂いは、逆にいろいろな所からしすぎて絞れない。相当出歩かせているようだ。
本人自体の匂いは隠されているため分からない。
『手詰まりか……。とりあえずルーカス様と合流だな』
白猫はエドガーの宿泊している宿屋へと向かった。
ユーリアはだるい体を起こし、テーブルを見る。
男物の服は用意されていて。バスローブだけでいるよりは、マシそうなのでYシャツを失敬する。
しばらくはラディムの残していった、結界の魔法陣の穴埋め問題をしたりして暇潰ししていたが、どうもお腹がペコペコだ。
ズボンも目一杯紐を締めて裾をまくり上げ、大きめの帽子にまとめあげた髪を入れ込み、食堂に出ようと扉に手をかけた。
まだ不十分だ。布を胸に巻き潰す。これでよっぽどいいだろうと部屋を出る。




