ルーカス先生の昔話と晩酌とお泊まり
ルーカスの仕事が終わるまでは、イーヴァルと学園の中を散歩しながらお喋りしていた。
久々の普通の言葉遣いの会話は楽しかった。
シェルトの小さい時の話や、この学園に入った時の話など昔話をしてもらった。
シェルトは小さな頃からイーヴァルに振り回されていたようだ。
イーヴァルのイタズラの後始末に奔走させられる姿が想像できて、とても愉快だった。
イーヴァルは決してユーリアの昔の話を聞き出そうとはしなかった。
理由を聞いたら「女の子は秘密が多い方が魅力的でしょ。話したくなったら話してほしいな」と言われた。
ルーカスと合流したところで、テディに連絡を取ると、今あの2人は拠点としている宿屋にいるらしい。
イーヴァル先輩には付き合ってくれた事、助けてくれた事のお礼を言い、ルーカスの家へと向かった。
途中で今晩の夕食の買い出しをする。
「お前は飯作れるのか?」と聞かれたが、作れるけど、食べる方が好きと答えた。
今晩はルーカスの手料理が食べられそうだ。
食べてばかりでは悪いので簡単スイーツを作ろうとしたら、ツマミがいいと言われたので、ツマミを作る事となった。
ルーカスの家はマンションの様なしっかりとした作りの高級感溢れる住まいだった。ヴィオラもこのマンションに住んでいるらしい。
*
お宅に入ると中にはシンプルな家具が置かれ、きちんと掃除が行き届いていた。
「お前顔に出てるぞ」
顔に出ていただろうか、意外なのだ。もっと乱雑に洗濯物なんかが放置されてるのかと思えば、急な来客なのに部屋が綺麗なのだ。
皿も洗ったものが置かれていて、自炊しているのがわかる。
「俺はメシ作ってるからシャワーでも浴びてこい。少しは気分が晴れるだろう」
そういうとパジャマとタオルを貸してくれた。
お言葉に甘えてお風呂を借りる。
お風呂から上がるといい匂いがした。何かを炒める音がジュウジュウと聞こえる。
「先生、料理も上手なんですね……。なんで彼女いないんでしょう。
こんなに家事ができて……嫁がいてもおかしくないのに」
「うるせぇ! 仕事が忙しいんだよ」
ユーリアが近づくと手でパタパタと追い払われる。
「風邪引くからちゃんと髪拭いてそこのソファ座っておけ!」
ユーリアは髪をふく。
もちろん、じっとしている気はない。お家探索だ。見てはいけないものを探るのだ。
ルーカスの秘密はいくらあってもいい気がする。
パタパタといろいろな引き出しを開けていると、料理が出来上がったようで、テーブルの上に何種類か料理が並べてある。
「俺も風呂入ってるから、先にメシ食ってろ。これ以上漁るな」
そう言い残すと浴室へ向かう。
ご飯はあったかいうちが美味しいが、探索を優先させたい。
パタパタあけても何も出てこない。やっぱり寝室に隠されているに違いない。
コソッと音を立てないように寝室へ行く。
寝室のベッドの下や引き出しを見たが何もない。
きっと枕の下だと思い、枕を持ち上げると一枚の写真が出てきた。
無邪気な顔をして笑う女性だった。
これは一番見てはいけないやつと思い、無かったことにしようとすると、扉が開く音がした。
腰にタオルを巻いただけで急いで風呂から上がってきたのが分かる。
「ユーリア、漁るなと言ったよな。それは没収だ」
ベットの上にいるので逃げられない。即座に写真を返上する。
「すみません。見てはいけないものを見つけようとしたら、本当に見てはいけないものを見てしまいました。忘れます」
ルーカスは近づいてきて、拳骨を落とすのかと思えば、軽く頭を撫でられるだけで終わる。
「分かればいい。早くベッドから降りてリビングに行く事。せっかく作ったメシが冷めちまっただろ」
今度は額にデコピンを食らった。
「はいー」
「着替えるから覗くなよ。絶対に……」
「分かってますよ」
顔を赤らめて脱兎のごとく寝室から退散する。
しかし絶対に覗くなと言われると……考えは読まれていたようで、コツンと頭を突かれる。
「お前は男の着替えを除く趣味でもあるのか?」
「いえ、ございません。ただ、絶対に覗くなは振りにしか思えなくて……」
「早く飯を食え」
「はい」
*
今度こそ大人しくソファに座った。
少し冷めたご飯を食べる。冷めてはいるが絶品であった。ルーカス先生は意外と万能なのかもしれない。
「うまいか?」
寝巻きに着替えたルーカスがタオルで頭をゴシゴシしながらこちらに来る。ちなみにソファは一つしかないので2人で座る。
「はい、先生は万能なんだと感じました。こんな美味しい料理食べたらまた来たくなっちゃいます」
「もう来なくていい。お前はそう不用意な言葉を使うから、諍いを起こして平穏じゃなくなるんだよ」
今度は頰を摘まれる。満面の笑みで褒めたのにおかしい。
ルーカスの多彩な攻撃のオンパレードだ。
黙々とご飯を食べ、あっという間にお腹いっぱいになった。
ルーカスはまだ食べているようなので、簡単おつまみをつくる。
お酒のセットと一緒にテーブルへ出す。
私はジュースだ。
「先生かんぱぁーい。お仕事お疲れ様でした」
「あ、ああ。酒は今日は飲む気は無かったんだが、少しくらいいいか。このツマミうまいなー」
このメニューは故郷の師匠直伝の酒のツマミである。飲んべえが認めた、飲んべえのためのツマミである。当然酒を飲む人には美味しい。
グラスが空けばグラスにソーダ割りを作ってあげる。買ってきたものに炭酸があったので先生の好みなのだと思う。
「お前お酌慣れてないか?」
「ああ、前に陛下の知り合いのとこでバーテンダーとか、ウェイトレスやってたからお酒の作り方くらい分かりますよ。濃さ大丈夫ですか?」
「濃さはこのくらいでいい。その歳でどんな仕事をしているんだ」
ため息混じりにカランカランとグラスを振り一口酒を飲んだ。
「陛下は私にいろいろな経験を積ませたいようです。色々なところに潜り込ませて貰いました。
私の趣味でもあるのでウィンウィンです」
「お前たまた秘密漏れてるぞ……。12のガキに諜報活動ってどんな国なんだ」
ユーリアは遠い目になり故郷での話を少し話す。
「陛下はお優しい方なのですよ。私が陛下にお願いしたのです。あなたの手足にお使い下さいと。
それで、魔力を使って体を無理矢理成長させ、今の姿となり、1年間ほどは色々なところで諜報活動していました」
「何があったんだ。話せる事なら話してくれ」
「父の命の恩人なのです。幼い私だけでは父を救う事は出来ませんでした。母を亡くしていたのでもう家族は失いたくなかったのです」
「そうか。その気持ちは分かる」
ルーカスは胸に手を当てる、挨拶の時のような手の当て方ではなく。心に手を当てているようだ。
「先生も家族を失ったのですか?」
「ああ、大事な女性だった」
今度はルーカスが昔話を始める。
「俺もまだ若かった、この学園を卒業してから国へ帰り騎士団へと入った。その時に出会ってな。色々衝突したりしていたが、そのうちお互い離れられなくなった。
結婚も約束した矢先だ。命令で国の紛争地域への鎮圧で2人とも出兵した。部隊が違くてな……。守りきれなかった。絶望のあまり騎士団を退団し途方に暮れていたところに学園長から声がかかってここにいる。もう、5年だ。
今だに写真を持ってるし、今だにあの時の夢を見る……かっこ悪いよな……」
「先生はまだその方の事想っていらっしゃるのですね……かっこ悪い事じゃないですよ。
カッコいいと思います。1人の女性を愛し続けている。それって簡単な事じゃないですよ。
人の記憶は薄れていく中で想い続けられるなんで、その女性も良い方だったのですね」
「良いか。いつも怒られてたな。少々気が荒くてな。いつまで、ダラダラやってるのきちんと仕事しなさいって……。仲良くなっても変わらなかったな」
先生は俯く、暗い雰囲気をなんとか打破しようとユーリアは頭を捻る。
「じゃあ、先生私彼女さんになりきってあげますね」
ルーカスは驚いた表情をして、こちらを見て「ああ」と笑って頷いてくれた。
「では……。いつまでダラダラ昔の事を考えているの! いつまでもウジウジしていないで目の前の仕事をしなさい! 昔を悔いるのではなくバネとして生徒たちと向き合いなさい! それが教師っていう仕事でしょ! とかですかね……」
すると、急にルーカスがきつく抱きしめてきた。
「ユーリアすまない。少しだけこのまま肩貸してくれ……」
グスッと鼻をすする音がする。泣いているのだろう。ルーカスの背中をトントンとしてさすってあげる。
「ルーカス先生。いっぱい泣いてください。私もこうやってテディに泣かせて貰いましたから、悲しい時には強がるのではなく、涙を流すのも大事ですよ」
優しくルーカスの背を撫でる。ルーカスの手に力が篭る。
声が漏れないよう必死に泣き続けていた。
しばらくすると、手に込めていた力を緩め、体を離した。目が赤い。スッとユーリアの頰に手を伸ばし、いつの間にか流れていた涙を拭ってくれていた。
「お前が泣く事ないだろ?」
「ルーカス先生の気持ちを考えていたら、母が亡くなった時の気持ちとか思い出しちゃったりして、余計に悲しくなっちゃいました」
ふんと鼻で笑うと、ユーリアを胸に抱きしめ、頭を撫でてくれる。
「こうしてると落ち着くんだろう? いっぱい泣いていいぞ」
ルーカスはユーリアの気が済むまで胸を貸した。
寝間着が濡れてしまったので、着替えなくてはいけないくらいだ。
「先生すみません。服を濡らしてしまって……」
「いいよ。俺も泣かせてもらったしな。そろそろ寝なさい。俺のベッドを使っていい。もう少し飲んでから寝るよ」
「先生はどこで寝るんですか?」
ルーカスは頭を掻くとソファを指差した。
「俺はここで寝るからいい。騎士をしていたんだ床でだってどこでも寝れるぞ? それともユーリアは悲しくて一人で寝れないのか?」
また、目元を拭ってくれて、優しく微笑む。
「はい、いつもこういう時はテディがそばにいてくれたので……。でも大丈夫です。一人で寝れます」
すると、ルーカスがユーリアを抱っこして寝室まで運んでくれる。
「ほら、いい子だから寝なさい」
ベッドに寝かされ、布団をかけられ、頭を撫でられる。
「お前が寝るまではそばにいてやるから、安心して寝なさい。おやすみ」
ベッドの縁に腰をかけるとユーリアの頰に手を当ててもう片方の手で手を握ってくれる。
「おやすみなさい」
ユーリアは微笑んで目を瞑ると、あっという間に寝てしまった。泣いて疲れてしまったのであろう。
ルーカスは微笑んでユーリアの額に口づけすると寝室を出る。
*
「ミア、とんでもない魔性がいるぞ……」
そっと写真を手にして酒を飲み直すのであった。
*
次の日ユーリアは眼が覚めると頭が少しクラクラした。昨日の夜の事をつまみを出した頃から覚えていない。寝室を出ると先生がキッチンにいた。
「先生おはようございます」
「ああ、おはよう。昨日は眠れたか?顔洗うならこのタオル使ってくれ」
ルーカスは手を洗うと、新しいタオルを出してくれた。
「先生あの……聞きたい事があるんですけど……」
「なんだ?」
「私昨日の夜何かしでかしました?途中から記憶が無くて……」
ルーカスは目を見開く。それから額を抑える。
「まさか、酒飲んだのか?」
「いやー、先生のお酒どんな味かなって思ってちょっとだけツマミに入れただけですよ。流石に未成年なのに堂々とは飲めません。加熱したから問題ないじゃないですか」
「普通は問題ない。俺はあの猫に言われて料理に酒入れなかったんだぞ。自分の体質くらい理解してくれ……どこから記憶にないんだ?」
ユーリアは少し顎に手を当てて考える。
「乾杯したとこと、前にウェイトレスのバイトやってたって話は覚えてて、なんとなくお代わりを先生に作ってあげたような気がするのですが、そこからは全く……」
「ほぼ、最初からじゃねえかよ。料理に酒を勝手に入れるな。お前は未成年なんだから、絶対酒飲むな。そして、今後一生飲むな。
本当にそのうち被害者が出るぞ!」
「被害者って……私そんなに酒癖悪いですか?」
「酒癖というよりも……お前結構秘密ポロポロ話してたぞ。口が軽くなりすぎる」
「ひえっ、私何話しちゃってたんですか?」
「教えん。飲むなよ」
ルーカスから怒られ、顔を洗いに行く。
ユーリアが洗面所に行くのを見てポツリとルーカスが呟く。
「覚えていないのはいいのか悪いのか……。とりあえず、教師と生徒の立場は変わらないならいいか」
ユーリアは秘密もポロポロ口でこぼしてしまったが、顔を洗った時にコンタクトまでポロポロ落としてしまい。実は目が水色とピンクのオッドアイである事が、ルーカスにバレてしまうのであった。
ルーカスは「お前は、秘密の尽きない女だな」と笑って頭を撫でてくれた。




