第9話 マッチョ勇者の誕生
「さて、ヴァルドラゴンよ」
怯えた子犬のように丸くなりガタガタと震えている暗黒竜ヴァルドラゴン
ガルドがその前に立ち、ポージングをしつつその名を呼んだ。
「は、はい!!」
漆黒のドラゴンが巨体をビクッとさせつつ、顔を上げる。
「貴様がなぜ負けたか分かるか?」
「あ、あなた様に、力で及ばなかったからです」
涙目になったドラゴンがそう答える。
「それは違うぞ」
「どういうことでしょう?」
「貴様はトレーニングが足りなかったから俺に負けたのだ」
「トレーニング?」
「そうだ。筋肉を鍛えろ。そうすれば精神も鍛えられ、無敵になれる」
「筋肉?」
もちろんドラゴンも手足や翼、尻尾がある以上、それらを動かすには筋肉が必要だ。
しかし、それをわざわざ鍛えるようなことはしない。
「お前は、俺の筋肉と魔剣ドラゴンスレイヤーによって敗れたのだ!!」
「そ、そうだったのか?!!」
ガガーンッ!! と暗黒竜ヴァルドラゴンが驚愕する。
ちなみに、周囲にいるエルフ達は、何と反応したら良いのか分からず途方に暮れていた。
「貴様も真に無敵になりたければ、筋トレをしろ!!」
「わ、分かりました。我は頑張ります!!」
こうして暗黒竜改め、筋肉竜ヴァルドラゴンが誕生することになったのだった。
ちなみに彼はガルド・リンドウェルに心酔し、二度と人族を襲うことはなくなったので、結果オーライと言えなくもなかったが。
「母上、ご安心ください。肉体の神マッチョーダの加護の下、暗黒竜を討伐いたしました」
「えっ、あ、ああ、そうね。ご苦労様」
どうしても釈然としないエンドルフィン女王が、曖昧に返事をする。
ガルド王子が暗黒竜ヴァルドラゴンをたった一人で討伐したという噂は、あっという間にエルフ王国王都・美しい森の都にも広まった。
「ヴォイドアビスで修行をしたガルド様が、暗黒竜を討伐したそうだ」
「たった一人で? 本当か、それは?」
「ああ、間違いない。その証拠に、王都から出陣した軍勢は一人も犠牲者が出ていないそうだ」
「凄い。一体どのような修行をされたのだろう?」
「元勇者のエンドルフィン女王のように、魔法の修行をされたに違いない」
人々がそう言い合い、新たな勇者、ガルド王子の帰還を待ちわびている。
王都のエルフ達は、ガルドに花びらのシャワーを浴びせるために、精霊魔術で花を急成長させ、凱旋を祝う祭りの準備を始めた。
そして、暗黒竜ヴァルドラゴンが退治されてから三日後、そのガルド・リンドウェルが女王達と共に王都に戻ってきた。
「来たぞ!!」
「ガルド王子万歳!! 女王陛下万歳!!」
「新たな英雄に、万能神ナーデミーアーレの加護あれ!!」
王都のメインストリートに一行が差し掛かると、集まっていた群衆が一斉にそう言いつつ、花びらを降らせた。
しかし、その声は、ガルドの姿を直接目にした者達から順番に収まっていく。
「えっ、あれが王子? オーガの間違いじゃなくて?」
細身で美しい外見をしたエルフ達とは違い、大柄な体型をしている。
今は外套を羽織っているためマッチョボディーは隠れているが、フードは外しているので顔は見えていた。
もしそうでなければ、彼がエルフの王子だと誰も信じなかっただろう。
とりあえず、一行が通り過ぎると、王都の民達は気を取り直してお祭り騒ぎを始めた。
長寿ゆえに刺激の少ない生活を送るエルフ達にとって、こういう機会は滅多にない。
なんにせよ、こうして筋肉勇者ガルド・リンドウェルの戦いと冒険の日々は幕を開けたのだった。
彼が目指すのは世界平和か、それとも完璧なマッチョボディーを手に入れることか、それを知る者はこの段階では誰もいなかった。




