第7話 死闘?暗黒竜ヴァルドラゴン!!
魔倒歴1013年 エルフ王国プラウナ大樹海
死と破壊の象徴というべき漆黒のドラゴンが、プラウナ大樹海の上空に姿を現した。
「エルフも随分と愚かだな」
彼――ドラゴンに雄も雌もないが――が、そう呟く。
上空をゆっくりと旋回しつつ、広大な樹海を見下ろしていると、各集落に武装をしたエルフ達の姿が見えた。
勝てないと分かっていても、暗黒竜ヴァルドラゴンと一戦交えようというのだ。
エルフは弓の名手が多いことで有名だが、どれほど命中率が高くても、ドラゴンの鱗に掠り傷一つつけることはできない。
それは魔法や、攻城戦用のバリスタ、投石器であっても同じだ。
「どのみち、奴等の武器の射程よりも我のブレスの方が遠くまで届くというのに」
そう呟いてから、プラウナ大樹海の中央でホバリングし、広範囲に響き渡るように思念波を飛ばす。
「愚かなエルフどもよ、約束通り、この大樹海ともども焼き尽くしてくれる!!」
その瞬間、大樹海中から鳥が一斉に飛び立ち、獣や虫達が逃げ出した。
その時、
「黙れ、空飛ぶ大蜥蜴め!!」
足下の集落から男の声が聞こえてきた。
「何だと?」
そう言いつつギロリと睨みつけた。
すると、集落の中央にある広場に、一人の大柄な男の姿があった。
さらに、何か巨大な物体が物凄い速度で飛んできて、暗黒竜の頭部に直撃する。
「グゥオオオオオ!!」
無敵のドラゴンもさすがに耐えきれずに咆哮を上げつつ、地面に落下した。
バキバキバキと木々を薙ぎ払いながら巨体が大樹海に叩きつけられ、大量の土煙が上がる。
「おのれ、この我を地面に落とすとは……なんたる屈辱だ!!」
暗黒竜ヴァルドラゴンが頭を振りつつ起き上がる。
そこは、先ほどの集落から1kmほど離れた場所だった。
「何?!」
目の前に、巨漢の男が立っている。
そして何よりも異様なのは、彼が手に持っている物体だった。
直径が3m近くある大きな岩を、片手で持っていたのだ。
いや、違う……。
「そ、それは……ドラゴンスレイヤーか?!」
そう、その巨漢の男、ガルド・リンドウェルが持っているのは、岩に突き刺さったままの竜殺しの魔剣、ドラゴンスレイヤーだったのだ。
彼は剣を抜くことはできなかったのだが、剣が突き刺さっていた岩ごと抜くことには成功していた。
竜殺しの魔剣が、まるで巨大なたこ焼きに刺さった爪楊枝のようだ。
さらに言うと、先ほど暗黒竜ヴァルドラゴンに直撃して叩き落としたのは、そのたこ焼き状態のドラゴンスレイヤーだった。
彼は、それを全力で投げつけてきたのだ。
「フッ、フフフ、ハァ~ッハハハハ、何と惨めな。貴様では、その忌々しい剣を抜くことができなかったようだな」
暗黒竜が愉快そうに笑った。
「残念だったな。我を唯一倒せる魔剣が抜けなかったとは」
もう、恐れることはないとばかりに、ヴァルドラゴンがガルドを見下ろす。
その直後、
バキッ!!
ガルドが、ドラゴンスレイヤーが突き刺さった岩をヴァルドラゴンの顔面目掛けて投げつけた。
それは先ほど同様、超剛速球状態で、避けることはできない。
頭部に直撃を受けた暗黒竜が大きく仰け反ると、再び地面の上に倒れる。
「無駄だ、封印されたままのドラゴンスレイヤーでは、我の鱗は傷一つつかぬ!!」
ゴキッ!!
三度、岩がドラゴンに命中する。
「無駄だと言っているだろう!!」
ボキッ!!
「や、止めんか、無駄だと言っているのが分からんのか!!」
バギッ!!
確かにこれは、ただ単純に岩をぶつけているだけだ。
そして、ただの岩ではドラゴンの鱗は貫けない。しかし、その衝撃は脳や内臓に届いていた。
バキッ、ボキッ、グキッ、とガルドは、岩に突き刺さったままのドラゴンスレイヤーの柄を掴むと、ひたすら暗黒竜を殴り続ける。
その度にドラゴンの巨体は仰け反り、転倒した。
「ひぃ、止めて、お願い、痛い、痛い!!」
ついに泣きが入った。
しかし、ガルドは攻撃を止めない。
隙を与えれば暗黒竜がブレスを吐くかもしれないからだ。
ここからでも、集落までその攻撃は届く。そして、そこには大勢のエルフ達がいる。
力一杯フルスイングをしたところ、ドラゴンスレイヤーが柄の付け根から折れてしまった。
「脆弱な剣だ」
まさか、ドラゴンスレイヤーを作ったドワーフ達も、このような使い方をされるとは予想していなかったことだろう。
ガルドは柄をポイッと捨てると、岩を直接掴んで、ヴァルドラゴンを殴り続けた。
それはもう、思わず目を背けたくなるほど一方的な暴力だった。
攻撃に耐えきれなくなった暗黒竜ヴァルドラゴンが飛んで逃げようとするが、ガルドはそれを許さない。
「フンッ!!」
岩を投げ飛ばすと、頭に直撃を受けたドラゴンが、もんどりうってひっくり返る。
そして、さらに岩を拾い上げ、殴り続ける。
「ヒィイイイ!!」
ヴァルドラゴンは蹲ると、両手で頭を抱えて泣き叫んでいる。
その牙が折れ、口から血を吐く。
「あ、あの、ガルド様、もうその辺で……」
それまで少し離れた場所から様子をうかがっていた集落の長老が近付いて来て、恐る恐るそう声をかけた。
「うん? そうか」
そう言うと、ガルドがドラゴンの血まみれになっている岩を足下にポイと投げ捨てる。
すると、ドスンと重たい音がして、地面が震えた。
その岩も、元の半分ほどの大きさになっている。
「さすがは、ドラゴンスレイヤーだ」
「い、いや、それは、その、何と申しましょうか……」
ドラゴンスレイヤーは全く関係ない――とは、この状態ではとても口にできなかった。
そして長老は、少し前まで自分達を焼き殺そうとしていた暗黒竜ヴァルドラゴンに目を向けた。
すっかり怯えた子犬のようになり、涙を流して蹲り、震えている。
神代に生まれて以来、これほど痛くて怖い目に遭ったことがなかったのだろう。
「あ、あの、大丈夫か?」
思わず、そう声をかけた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
可哀想なことに、延々とそう謝り続けている。




