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マッチョエルフ英雄譚~千年間ひたすら筋トレをして究極のマッチョボディーになったエルフの伝説(サーガ)~  作者: よしぞう


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第43話 Muscle Charge!

魔倒歴1017年 チューダ王国王城


 春になった。


 暖かい風が城下を吹き抜け、色とりどりの花々が道端で咲いている。市場には冬用の保存食ではなく、新鮮な食材が並び、防寒着を脱いだ人々が笑顔で行き来していた。


「クソッ、死ななかったか」


 しかし、チューダ王国第二王子、バズー・ムーサは、春の爽やかさなど微塵も感じさせない表情でそう呟いていた。


 そう、彼は兄のタットウィズ・ムーサが、今年の冬の寒さに耐えられないと勝手に考えていたのだ。


 しかし、山奥の別荘から、彼が望む知らせは届かなかった。


「こうなっては仕方がない」


 根が小心者で、何事も自分の思いどおりにならないと気が済まない彼は、さっそく次の手を実行に移すことにした。





 アルコール中毒で、いつ二度と目覚めなくなっても不思議ではない父親のもとへと急ぐ。


 寝室に入ると、揮発したアルコールが目に染みるような錯覚に陥った。


 それほどまでに、アルコール臭が室内に充満しているのだ。


 豪華な天蓋付きのベッドの上に、彼の父親が横たわっていた。


 ベッドサイドには空になった酒瓶が転がり、枕元や布団にも、こぼれた酒が染みを作っている。


「父上」


 知らない人間が見たら、ミイラとしか思えない姿だ。しかし、辛うじて生きてはいる。


「おぉ、バズーか……」


 真っ赤に充血した目を開けると、アルコールで焼けた喉から、かすれた声が絞り出された。


「残念なお知らせがあります」


「いかがした?」


「兄上が、父上のことをアルコールに溺れた愚かな王だと、悪口を言いふらしているのです」


「そうか……」


 もちろん、タットウィズはそのようなことを一言も口にしていない。


 しかし、今の国王の姿を見て、そう思わない人間はいないだろう。


「国王陛下に対する不敬です。実の兄とはいえ、許されることではありません」


「そうか……」


「さらに、昨年落命した弟のナマウィズも、実は兄上によって暗殺されたことが判明しました」


「そうか……」


「誠に残念ではございますが、兄を捕らえ、裁きを受けさせることをお許しください」


「そうか……ところで、酒を飲ませてくれ。思うように手が動かんのだ」


「分かりました」


 バズー・ムーサはそう返事をすると、侍従を呼んだ。


「王が酒をお望みだ」


 そう告げると、自分は部屋から出ていった。


「フフフ、タットウィズ。冬の間にさっさと死んでおけばよかったものを。そうすれば、罪人として裁かれるのではなく、悲劇の王子として生涯を終えることができたというのに」


 彼はこの後、書記官長を呼び、実の兄を捕らえて国王に対する不敬罪と第三王子暗殺の罪で処罰する、という命令書を書かせた。そして最後に、国王の印を押させる。


 これにより、第一王子タットウィズ・ムーサは、王命によって罪人として裁かれることが確定したのだ。


 彼は騎士団長を呼ぶと、


「騎士団を集めよ! これより反逆者を捕らえに行くぞ!!」


 と命じたのだった。





魔倒歴1017年 チューダ王国山奥


 バズー・ムーサは、五十騎の騎士を自ら率いて、山奥の山荘へ向かっていた。


 真っ黒な馬にまたがり、自らは白銀の鎧に真紅のマントを身にまとっている。


 これはすべて演出のためだった。


 第二王子が、反逆者である第一王子を捕らえ、王都へ凱旋する。


 その隊列を見た民衆は、彼こそが正当な王位継承者だと認め、喝采を上げることだろう。


「もっと早く、こうしておくべきだったのだ」


 彼がそう言ったとき、森の中の一本道の先に、屋敷の屋根が見えてきた。


「いいか、屋敷にいるのは病人と、へっぽこな護衛が二人、あとは召使いが一人だけだ!! 我々の姿を見たら森の中に逃げ込むかもしれんが、絶対に逃がすなよ!!」


 彼がそう言うと、騎士たちが「ハッ!!」と返事をした。


 その中には、彼の右腕である騎士団長もいる。


 五十騎の騎士たちも、身長が高く、見栄えのよい者ばかりを集めていた。





 そのとき、先頭を進む騎士が何かを見つけ、前方を指さした。


「バズー様!!」


「どうした?」


「屋敷の前に、何かあります!!」


「何だと?」


 それを聞いて、バズーと騎士団長が隊列の先頭に進み出た。


 確かに、屋敷の門の前に、四体の筋骨隆々とした白い彫像が並べられていた。


 それぞれ、筋肉美を誇示するようなポーズを取っている。


「何だ、あの悪趣味な像は?」


 兄のタットウィズを幽閉する前に、一度だけここを訪れたことがあったが、そのときは門の前にあのようなものはなかった。


「兄上が、誰かに作らせたのか?」


 タットウィズ王子は、どちらかといえば花や小動物を愛する、女性的な感性の持ち主だったはずだ。


 しかし、長い幽閉生活の間に、好みが変わったのかもしれない。


「まあ、いい」


 とりあえず、そのまま馬を進ませ、門へと近づいていく。


「何となく、どこかで見たことがある顔だな。あと、何だ、あの一体は。あれだけオーガみたいだぞ」


 そのとき、門が少しだけ開き、侍女のアイが出てきた。


「おい、兄上はどこだ? 我々は王命により、反逆者を捕らえに来た!!」


 バズー王子が、芝居がかった仕草と声でそう言った。


「庇い立てすれば、貴様も同罪だぞ!!」


 もしかしたら、彼女が一人で出てきたのは時間を稼ぐためで、今こうしている間に、屋敷の裏からタットウィズを逃がしているのではないか。


 バズー王子はそう考えたのだ。


 しかし、アイは、


「えっと、目の前においでです」


 と、なぜか申し訳なさそうな表情で答えた。


「何だと?」


「タットウィズ王子は、こちらで皆さまをお待ちしていました」


「……はぁ?」


 何を言っているんだ、こいつは?


 バズー王子や騎士たちが首を傾げる。


 そのとき、ピシッ、という音が聞こえた。


「何の音だ?」


 周囲を見回すと、白い彫像の表面にひびが入っている。


 さらに、そのひびがどんどん全身へと広がっていった。


「な、な、何だ、これは?!」


 怯える馬の手綱を引いて落ち着かせながら、バズー王子が叫んだ。


 彼の目の前で、彫像の表面が剥がれ落ち、筋骨隆々とした男たちが姿を現した。


 全員、肌が小麦色に焼け、ブーメランパンツ一枚という姿だ。


 そして、その顔は――。


「あ、兄上?!」


 そう、あの病弱で、いつ死んでもおかしくなかった第一王子、タットウィズ・ムーサだったのだ。


 さらに、彼の護衛騎士であるタンヤとブーチも、筋骨隆々とした体になっていた。


 そして、一際立派なマッチョボディーを誇る男は、金髪の美形で、耳の先端が尖っていた。


「ま、まさか、お前は勇者ガルド?!!」


「イェ~ス」


 四人はそう言いながら、一斉にフロント・ダブルバイセップスのポーズを取った。


 彼らの体は、結晶化した汗に覆われていたのだ。


「久しぶりだな、弟よ」


 顔以外は別人になってしまったタットウィズが、ニカッと白い歯を見せて笑いながら言った。


「な、何が、何があったんだ?」


「なぁに、少し体を鍛えただけだよ」


「鍛えたって……」


「ハッハァ~! どうだ、見違えただろう?」


 タットウィズはポーズを変えながら言った。


「見違えたというより、別人だな……」


「そうだな。まさに生まれ変わった気分だよ」


 四人のマッチョの後ろで、侍女のアイがハンカチで汗を拭きながら、何とも言えない表情を浮かべていた。


「それで、弟よ。何をしに来たんだ?」


「そ、そうだ! 兄上、いや、タットウィズ・ムーサ! 貴様を国家反逆罪で捕らえに来たのだ!!」


「ほほう、この私が国家反逆罪だと?」


「父上に対する不敬、そしてナマウィズ・ムーサ暗殺!!」


 そう言って、バズー王子は国王の印が押された令状を広げて見せた。


「国王陛下の命令だ!!」


 従わなければ、この場で命を奪われても文句は言えない。


 本来であれば、濡れ衣だ、そんなことはしていない、と涙を流して叫ぶところだろう。


 しかし、タットウィズは、


「とんだ茶番だ」


 と、ポージングをし、大胸筋を左右交互にピクピクと動かしながら言った。


「な、何だと?!」


「今、お前が言ったことが、すべて嘘だと言っているのだ」


「あ、兄上、これをよく見ろ! 国王の王印が押されているのだぞ! 王の命令に逆らうつもりか?!」


「以前の私なら、涙を流して命乞いをしていただろう。しかし、今は違う」


「何が違うと言うんだ?」


「私は自分の筋肉に従う!!」


「……えっ? 何に従うって?」


「私は肉体神マッチョーダの信者として、筋肉の声にのみ従う。私に命令をしたいのであれば、私より大胸筋を鍛えてからにするのだな」


「…………」


 バズー・ムーサは周囲を見回し、一番話が通じそうな侍女のアイに、すがるような目を向けた。


「兄上は、何を言っているのだ?」


「えっと、自分より肉体的に劣る者には従わない、とおっしゃりたいようです」


「ええ~っ……」


 あの頼りなかった二人の護衛騎士たちも、ポージングをしたままピクリとも動かない。


 何より不気味なのは、魔王を討伐したエルフの勇者、ガルド・リンドウェルだ。


「ゆ、勇者よ。あなたが原因か?」


「俺は、彼の強くなりたいという願いを叶えただけだ」


「それにしても、たった一冬の間に、こんなふうになるのか?」


「筋肉に不可能はない」


 駄目だ。一番話が通じないのは、こいつだ。


「兄上、王命に従えないというのであれば、この場で命を失うことになるぞ」


 バズー王子の背後には、完全武装した五十騎の騎士がいる。


「面白い。やってみろ」


 タットウィズ・ムーサがそう言うと、彼の左右にタンヤとブーチが近づいてきた。


「あれをやるのか?」


 それを見て、ガルドがそう尋ねると、


「はい、アニキ!!」


 三人が声を揃えて返事をした。


「ア、アニキ?」


 耳慣れない言葉に驚くバズー王子。


 その様子を見て、騎士団長が何かを感じ取った。


「危険です、バズー様! お下がりください!」


「どうした、騎士団長? こいつらは丸腰だぞ」


 何せ、武器どころか、ブーメランパンツ一丁という姿だ。


 そのとき――。


「筋肉突撃(マッスル・チャージ)!!」


 タットウィズ王子がそう叫び、その直後、三人のマッチョが物凄い勢いで走り出した。


 ウギャアアアア!!


 まず、先頭にいたバズーが乗っていた馬もろとも吹き飛ばされ、さらに、そのまま騎士団の面々が次々と跳ね飛ばされていく。


 唯一、騎士団長だけは馬から飛び降り、道から外れて森の中に転がり込むことで、攻撃を避けることができた。


 しかし、それ以外の四十九人の騎士たちは、全員が馬もろとも宙を舞い、地面や森の中へと落下していった。


「うむ、見事だ」


 その馬鹿馬鹿しい光景を、ガルドだけは満足げに微笑みながら見つめていた。


 騎士団の最後尾まで突き抜けると、三人は急ブレーキをかけて止まった。


 そして、ポージングをしながら振り返る。


 当然だが、立っている者は一人もいない。


 ただ、全員が鎧を身に着けていたため、派手に吹き飛んだ割には、大した怪我はしていないようだった。


 全員、激痛に呻き声を上げながら、起き上がろうとしている。


「タンヤ、ブーチ」


「はい、王子」


「もう一度行くぞ」


「承りました」


 三人が再び肩を組むと、姿勢を低くした。


 それを見た騎士たちが、「ヒィッ」と小さく悲鳴を上げる。


「筋肉突撃(マッスル・チャージ)!!」


 そこへ向かって、三人が再びダッシュした。


 再び、騎士たちの体が、馬が、手に持っていた槍や剣が宙を舞う。


「まるで魔獣と戦っているようだ……」


 ただ一人、無傷だった騎士団長が森から駆け出すと、情けない格好で地面に転がっているバズー・ムーサを助け起こした。


「騎士団長……」


「お逃げください、王子」


「し、しかし、それではお前が……」


「私は騎士です。命がけで主をお守りする義務があります」


 そう言った直後、マッスル・チャージが彼らのところに到達した。


 格好いい台詞も何もかも、まとめて吹き飛ばされる。


「ヒョエエエエ~!」


 情けない悲鳴を上げた騎士団長は、地面に頭から落下し、そのまま意識を失った。


 彼に庇われたバズー王子も似たような状況で、侍女アイの傍らを飛び抜けると、屋敷の門に激突して止まった。


「あ、あの、大丈夫ですか?」


 一応、声をかけてみるが、白目を剥いて失神している。


「どうですか、アニキ?!」


 二度のマッスル・チャージで騎士団を蹴散らしたタットウィズ王子たちが、ガルドの前で不動の姿勢を取った。


「素晴らしかった。やはり筋肉は最強だ」


 彼がそう言って褒めると、四人は勝利のポーズとばかりにサイドチェストのポージングを披露した。


「ほら、やっぱり酷いことになった……」


 そんな彼らを冷めた目で見つめながら、侍女のアイが溜息をついてそう言ったのだった。

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