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マッチョエルフ英雄譚~千年間ひたすら筋トレをして究極のマッチョボディーになったエルフの伝説(サーガ)~  作者: よしぞう


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第38話 愛に時間を

魔倒歴1016年 エルダー王国王都


 エルダー王国テレーダ高原の療養所にいるジュリエッタの婚約者ロンダが騎士に就任したとき、騎士団長からこう言われた。


「いいか、お前は騎士には向いていない。もし家が平民だったら、追い出していたところだ」


 下級とはいえ、一応貴族だから、仕方なく騎士にしてやったという意味だ。


 もし、彼が騎士になれずに追い出されていたら、彼の家は騎士の地位を剥奪されてしまう。


「もし魔王軍の侵攻が始まっていたら、俺はお前を追い出していただろう。たとえ平民に落ちても、死ぬよりはマシだからな」





 千年ごとに繰り返される魔王降誕と、それに続く人間界への侵攻。


 当然、ここエルダー王国も戦場となり、多くの騎士たちが命を散らすことは避けられなかった。


 現に、千年前の戦いでは騎士団がほぼ壊滅し、王国の民も半数が魔族や魔獣によって命を奪われたと聞いている。


 王国が滅びなかったのは、生き残った騎士の中に勇者がいたからだ。


 その勇者が兵士たちを率いて戦い、そのおかげで王国は辛うじて滅亡せずに済んだと言われている。


 その後、次の魔王降誕に備えて軍備を整えてきたが、残念なことに、千年という時間は人間にとって長すぎた。


 途中で王家が分裂して内乱状態になったり、はぐれ魔獣を相手に苦戦したりして、せっかく整えた軍備が削られてしまったのだ。


 それでもエルダー王国は、今回の魔王軍の侵攻に備えて騎士団を増強していた。


 ところが、突然、魔王から「人間界への侵攻はやめた」という親書が届いたのである。


 もちろん、誰もが「そんなものは嘘だ。罠に違いない」と考え、信じようとはしなかった。


 しかし、その親書には誓約の呪いがかけられていた。書かれた内容を破った場合、書いた本人がダメージを受けるというものだ。


 すべての王国に同じ親書を配っている以上、それを破れば魔王は相当なダメージを受けることになる。最悪の場合、約束を守らなかったせいで命を失う可能性すらあった。


 魔王が瀕死の状態になれば、どのみち魔界は統率を失い、人間界への侵攻どころではなくなるはずだ。


「じゃあ、本当なのか?」


 人々は、そう考え始めていた。


 そして、戦いにならないのであれば、弱いロンダを騎士団に入れてもよいだろうと、騎士団長は考えたわけだ。


「ありがとうございます。本当に、いろいろと気を使っていただいて助かります」


「まあ、お前は真面目だからな。時間さえかければ、人並みの騎士にはなれるだろう」


 騎士団長はそう言うと、ロンダの肩に手を置いた。


「さあ、許嫁のところに行って、騎士になった姿を見せてやれ」


「よろしいのですか?」


「当たり前だ。これも、馬で長距離を移動する訓練だと思え」


 そう言われたロンダは、深々とお辞儀をすると、騎士団長の前から駆け出していった。





魔倒歴1016年 エルダー王国 テレーダ高原


 騎士団の制服を着たロンダが、馬を走らせてテレーダ高原へやって来た。


 今の時期、高原は雨や霧が多い。しかし、彼の日頃の行いが良かったためか、今のところ晴天が続いている。


「まだ暖かくて助かったな」


 一応、雨が降ったときに備えて外套を持ってきていたが、それはずっと鞍に縛りつけられたままだった。


 療養所までは、ほぼ一本道のため、迷うことはない。


「彼女に会うのは三カ月ぶりだな」


 何しろ、片道三週間もかかるのだ。そうそう会いに行くことはできない。


 療養所の正門前に到着すると、ロンダは門を叩いた。


 すぐに門番が出てきたので、自分の名前と、誰に面会しに来たのかを告げる。


「どうぞ、お入りください」


 門番はそう言うと、門を開けてくれた。


 いつ来ても、ここは静かで独特な雰囲気に包まれている。


 それはまるで神殿のようでもあり、墓地のようでもあった。


 入所者のほとんどが、生きて二度とここから外に出ることはないからだろう。


 次に外へ出るときは棺に納められ、裏門から墓地へと運ばれていくのだ。


 敷地内に入ると、ロンダは馬を預け、ジュリエッタの部屋を目指した。


 ここには平民も貴族も療養に来ているが、身分や支払った料金によって扱いが変わる。


 そもそも、貧しい平民は入所することすらできない。


 その点、彼女の両親は金に糸目をつけなかったため、日当たりの良い個室があてがわれていた。


 そのドアの前に立つと、ロンダはノックをし、返事を待ってから中に入った。


「やあ、ジュリエッタ」


 ドアを開けて室内に入ると、ジュリエッタはベッドに横になり、窓の外を眺めていた。


「えっ、ロンダ?」


 そう言って、彼女は彼の方に顔を向けた。


「その服は?」


「うん。この間の手紙に書いただろう? 僕は正式に騎士団員になったんだ。これは、その制服だよ」


 そう言うと、ロンダはベッドに近づき、くるりと回って見せた。


「どうしても、ジュリエッタに見せたくて」


「すごく格好いい。素敵よ」


 真っ青だった彼女の頬に、かすかに赤みが差した。


「具合はどうだい?」


「最近は少し良くなってきたの」


 ジュリエッタはそう言ったが、とても言葉どおりに信じることはできなかった。


 入所してから一年半以上がたつが、最初の頃は、まだ自分で歩いて散歩することができた。


 しかし、今ではベッドの上で体を起こすだけでも辛そうだった。





 その後、ロンダは自分が騎士見習いをしていた頃の失敗談を、面白おかしく彼女に話した。


 決して自慢話や成功談はしない。


「ウフフフ、可笑しい」


「いや、まったくお恥ずかしい限りだよ」


 そのとき、彼の視線が窓の外へ向けられた。


 そこには、紅葉した大きな木が見える。


「綺麗な木だね」


「ええ、本当に」


 葉の落ちる木は、少々縁起が悪い。


 日に日に舞い落ちて減っていく葉が、人間の生命力に例えられることが多いからだ。


 元気なら、春になって新芽が芽吹く姿を見て、再生や復活をイメージできるのだろうが。


「来年の春、俺はまたここに来るよ」


「えっ?」


「そうしたら、あの木の下で一緒にお茶を飲みながら、本を読もう」


 ロンダがそう言うと、ジュリエッタの紫色の瞳が潤んだ。


「そうだ。初めて会ったときに一緒に読んだ本を持ってくるよ」


「あ、あれは……子供向けの童話よ」


「別にいいじゃないか」


 そう言ってロンダが笑うと、ジュリエッタも微笑んだ。





 長時間面会するとジュリエッタが疲れてしまうため、ロンダは一時間ほどおしゃべりをしてから療養所を後にした。


 もっとずっと一緒にいたかった。


 しかし、自分のせいで彼女の容体が悪くなってしまっては、お見舞いに来た意味がない。


 最後にもう一度、来年の春にまた来ると約束して、彼はジュリエッタの病室を出たのだった。


「ああ、神様……どうか彼女に奇跡を」


 怪我人や病人の回復を祈るときは、大地の神や豊穣の神に祈るのが良いと聞いたことがある。


 しかし、今の彼は、ジュリエッタを助けてくれるなら、邪神にだって手を合わせてもいいと考えていた。


 馬の背にまたがり、一本道を下っていく。


 今日は近くの街の宿屋に泊まる予定だ。


 そのとき、前方から一人の男が歩いてくるのが見えた。


 外套をまとい、顔も目深にかぶったフードで隠れていて見えないが、かなり大柄だ。


「まるで、噂に聞くオーガみたいだな」


 そう思ったが、いくらなんでも、このような場所に魔族がいるわけがない。


 二人は同じ街道ですれ違い、そのまま互いに離れていった。





魔倒歴1016年 エルダー王国王都


 ロンダが王都に帰ってしばらくたった頃、事件が発生した。


 西の国境付近に盗賊団が住みつき、周囲の村や行商人を襲い始めたのだ。


 すぐに周辺の警備兵たちが討伐に向かったが、返り討ちに遭い、多くの犠牲者を出してしまった。


 そこで、王国最強の戦力である騎士団に出動命令が下された。


 ロンダにとっては初めての戦闘であり、とても緊張していた。


「相手が盗賊だからといって、油断をするなよ!!」


 騎士団長がそう言うと、全員が「オウッ!!」と返事をした。


「今回の出陣では、最低でも一カ月は戻ってこられない。準備は万端に整えておけ」


 そしてエルダー王国騎士団は王都を後にした。


 しかし、その出陣とほとんど入れ違いに、一通の手紙が届けられた。


「騎士のロンダさん、手紙ですよ」


 誰もいない騎士団の隊舎に、配達員の声が虚しく響く。


 さらに、同じ頃、王都にある大きな商家にも手紙が届いていた。


「旦那様と奥様宛てに手紙が届いています」


 配達員から手紙を受け取った従業員が、番頭にそう報告すると、


「何だって? 誰からだ?」


「テレーダ高原の療養所からです」


「ああ、ジュリエッタお嬢様からだな。私が預かっておくよ」


 と、番頭は答えた。


 実は、ジュリエッタの両親は隣国へ商談に出かけていた。


 もし、このとき、手紙がジュリエッタ本人からではなく、療養所からの緊急の知らせだと知っていたら、彼はあらゆる手段を駆使して二人に連絡を取っていただろう。


 しかし、彼はジュリエッタから両親に宛てた、いつもの手紙だと思い込んでしまったため、対応が遅れた。





 一カ月後、最初にそれに気づいたのはロンダだった。


 無事に盗賊団討伐の任務を終え、王都に戻ってきたところ、療養所から自分宛てに届いていた手紙を受け取ったのだ。


 喜んで中身を読んだ彼は、愕然とした。


「ジュリエッタが?!」


 それは彼女本人からの手紙ではなく、看護師からのものだった。内容は、ジュリエッタの体調が悪化したという知らせだった。


『ジュリエッタ様は発作を起こすことが多くなり、医師からも病状が悪化していると言われました。もう長くはもたないだろうと』


 それを読み終えると、ロンダは騎士団長のもとへ向かった。


 今すぐ彼女のもとへ行かなければならない。その許しを得るためだ。


「騎士団長、お願いがあります!!」


 遠征を終えたばかりで残務処理をしていたところに、ロンダが血相を変えて駆け込んできたので、騎士団長は驚いた。


 今回の盗賊団討伐では、数回にわたって戦闘が行われた。しかし、そのときですら、彼がここまで険しい表情をしているのを見たことがなかった。


「ど、どうした、ロンダ?」


「彼女が、ジュリエッタが危険な状態なのです」


「テレーダ高原で療養しているお嬢様のことか?」


「はい。私が遠征に出ている間に、このような手紙が届いていました」


 そう言うと、ロンダは、強く握りしめたために皺だらけになった手紙を差し出した。


 それを受け取って内容を確かめた騎士団長の表情が険しくなった。


「そうか。お前は行きたいのだな?」


「はい、お願いいたします!!」


 普段は、とても騎士とは思えないほど温和で、ニコニコと笑みを浮かべている彼が、魔物を前にしたときのように殺気立った表情になっている。


 おそらく、止めても無駄だろう。


 そのようなことをしたら、即座に退団届を出して飛び出していきかねない。


 家名を守るため、自分に不向きだと分かっていながら騎士になったというのに、その貴族としての地位を失うことすら厭わないのだ。


「分かった、行ってこい」


「騎士団長!!」


「しかし、万が一間に合わなくても、後を追おうなどとは考えるなよ」


「…………」


「必ず帰ってくる。それが条件だ」


「分かりました。お約束します」


 ロンダがそう答えると、騎士団長は、


「さあ、急げ」


 と言って、彼を送り出した。





 ロンダは急いだ。


 馬にあまり無理はさせたくなかったが、今回ばかりは自制が利かない。


 昼も夜も馬を走らせ続け、馬が疲労したときだけ、その場で休養を取った。


 草原の真ん中で、森の奥で、彼は地面に横になって仮眠を取った。


 食料は村や街を通りかかったときに買い、馬にまたがったまま食べている。


「お願いだから、間に合ってくれ」


 何度も祈るように、そう呟いた。


 ジュリエッタの誕生日が近づいていた。


 王都の医師から、成人まで生きられないだろうと言われた、その期限だ。


「君が成人したら、その日にプロポーズをしようと思っていたんだ」


 たとえ短い間であっても、彼女を幸せにしたかった。


 こんなことなら、騎士になどならなければよかった。


 平民に身を落としてもいいから、彼女のそばにいるべきだったと後悔する。





 森の中の道を進んでいたとき、突然、目の前に三人の男たちが立ちはだかった。


「止まれ!!」


 ショートソードや斧で武装した野盗たちだった。


「死にたくなければ、有り金を全部置いていけ!!」


 馬を止めたロンダに向かって、男たちが凄んできた。


 正直なところ、彼は金を渡してもいいから先を急ぎたいと考えていた。


 しかし、


「あと、馬も置いていけ!!」


 と言われた瞬間、戦う覚悟を決めた。


 馬を降りると、剣を抜く。


「そこをどけ」


 自分でも驚くほど乱暴な台詞が口から出た。


「面白い。殺せ!!」


 三人の野盗たちが襲いかかってきた。


 このとき、ロンダは自分でも驚くほど冷静だった。


 騎士団最弱と言われ、散々馬鹿にされていた彼が、野盗たちの攻撃を紙一重でかわし、すかさず反撃する。


 肉を切り裂き、骨まで叩き折る感触が手に伝わってきた。


 絶叫とともに鮮血が飛び散り、野盗の一人が倒れる。


 怯んだ二人目に、そのままの勢いで襲いかかり、腹部を切り裂いた。


 内臓がこぼれ落ち、野盗は自らがまき散らした臓物の上に崩れ落ちた。


 三人目は逃げ出そうとしたが、背後からロンダの剣に串刺しにされた。


「ハァ、ハァ、ハァ……」


 肩で息をしながら、ロンダは三人の野盗の亡骸を見下ろした。


 その表情からは、戦闘を生き延びた安堵感も、勝利の高揚感も、野盗とは言え人の命を奪ったことへの戸惑いや罪悪感も浮かんでいない。


「急がないと」


 そう呟くと、再び馬にまたがり、テレーダ高原の療養所を目指したのだった。

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