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マッチョエルフ英雄譚~千年間ひたすら筋トレをして究極のマッチョボディーになったエルフの伝説(サーガ)~  作者: よしぞう


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第32話 転移魔法陣

魔倒歴1016年 エルフ王国王都 美しい森の都


「ガルド王子が戻られたぞ!!」


 エルフ王国の王都、美しい森の都に見張り兵士の声が響き渡った。


 それをガルドの従妹であるウェンディー・シグルは、王城の書庫で聞いた。


「やっと帰って来たわね」


 そう言って本を閉じると、彼女は急いで自分の部屋へと戻る。


 どうやらウェンディーは、ガルドを出迎えるつもりはないようだ。


 自分の部屋のベッドの下に上半身を潜り込ませると、大きなリュックサックを引きずり出す。


 その中には、旅に必要なグッズが詰め込まれていた。


「王子が戻られただと?!」


「ああ、魔王を倒したのが本当かどうか確かめに行こう」


 廊下をそう言いつつ、城兵が駆け抜けていく。


 しかしウェンディーは部屋から出ると、彼らとは反対方向に向けて歩き始めた。


「ガルドのことだから、すぐにまた旅に出るはずよ」


 どうやら、彼女はまだ王都脱出を諦めていなかったようだ。





「今回は裸ではないのですね」


 エルフ王国女王エンドルフィン・リンドウェルが、久しぶりに会った息子に対しての第一声がそれだった。


「ただいま帰りました」


 そのようなことを、全く気にしないガルド。


 ここは王城の広間で、周囲にはガルドからの報告を聞くために、王国の重鎮たちが大勢集まっている。


「早速だけど、あなた一体どこで何をやらかしたの?」


「魔王城に行って、魔王と筋トレ仲間になりました」


「…………」


 誰も一言も発しない。


 いや、何を言えばいいのか分からないと言うべきだろう。


「ごめんなさい、ガルド。もう少し順を追って、丁寧に説明をしてちょうだい」


「分かりました」


 そこからは彼が、北の平原でワイバーンの群れに襲われたり、渓谷を塞いでいたオーガの城門を吹き飛ばしたり、魔王城に行って魔王と筋肉勝負をして勝利を収めたことを話し始めた。


「魔王はなかなか見どころのある筋肉をしていました。今頃は真面目に筋トレをしていることでしょう」


「…………」


 結局、説明を聞いた後でも、誰も一言も発しなかった。


「一つ確認なんだけど、ガルド。あなたは勇者神殿には行かなかったの?」


「いいえ、母上。魔王城からの帰りに寄ってきました」


「か、帰りに……」


「ええ。しかし、勇者の剣も鎧も盾も、全然筋トレには使えませんでした」


「それはそうでしょうね」


 親子の会話を聞いて、重鎮たちは皆こう思った。


 さすがは女王陛下だ。ガルド王子とちゃんと会話をしている。


 彼らは皆、二千年以上生きている高齢(ベテラン)エルフたちだ。


 しかし、生まれてこの方、これほど壮大なスケールの馬鹿げた話を聞いたことがなかった。


「ガルド、魔王が再び人間界への侵攻をする恐れはないのですか?」


「ありません」


「そう考える根拠は?」


「筋肉を愛する者に悪い奴はいません」


「しかし、気が変わる可能性は皆無ではありませんよね?」


「そのときは、俺が再び筋肉勝負で叩き伏せます」


「ガルド、あなたは頭の中まで筋肉のようですね」


「お褒めにあずかり、光栄至極です」


 いや、全然褒めてないから――と、重鎮たちが心の中だけで一斉にツッコミを入れる。


「とりあえず、差し迫った危機がないことは分かりました」


 エンドルフィン女王は書記官を呼ぶと、


「人間界の全ての王国に思念通話で、こう伝えなさい。『エルフ王国の勇者ガルドが魔王と交渉をした結果、和睦を結ぶことに成功した』と」


「和睦ですか?」


 重鎮の一人がそう言う。


「しょうがないでしょう。まさか筋肉比べをして負けた魔王が、筋トレのために人間界への侵攻を止めたなんて、誰が信じるのですか?」


「仰る通りです」


「それに、全く信憑性がないわけではありません。暗黒竜、炎ワーム、氷の巨人を倒したことは間違いないのですから、魔王が態勢を立て直すまで休戦を求めたとしても不思議ではありません」


 ただし、気を付けないと、調子に乗った人間族側が、今がチャンスとばかりに魔界に対して逆侵攻を仕掛ける可能性もある。


 それを防ぐために、エルフ王国が交渉をしたことにしたのだ。


 もし勢いに乗って魔界に侵攻などしたら、それはエルフ王国の顔を潰すことになる。


 もちろん、各国は勝手にそのような交渉をしたエルフ王国を責めるかもしれないが、そもそも魔王の三つの下僕を倒したのもガルドなので、文句は言わせない。


「もし我々の威光を無視するなら、ガルドをけしかけると言ってやりなさい」


 ある意味、魔王すら恐れるエルフの勇者が敵に回る。これは恐怖以外の何ものでもないだろう。


「あまりこういうやり方は好きではないのですが、仕方がありません」


 それを聞いて重鎮たちが一斉に立ち上がると、彼女に対して深々と頭を下げた。


 こんな出鱈目な状況だというのに、彼女は冷静に丸く収めようとしている。


 そのようなことができるのは、大陸広しといえどもエルフ王国女王エンドルフィン・リンドウェル一人だけだろう。


「では、私は筋トレの旅を続けます」


 そんな彼女の苦労を全く意に介さず、ガルドがそう言うと、スタスタと歩き出した。


「待ちなさい、ガルド。どこに行くつもりなのですか? 魔王討伐は(一応)終わったのですよ」


 そう呼び止められると、ガルドが振り返り、意外そうな表情になった。


「母上、私は元々筋肉修行をするために旅に出たのですよ。魔王討伐はそのついでです」


「…………言われてみれば、そうだったわね」


「では、行ってまいります」


 そう言うと、ガルドが再び歩き出す。


「まだ見ぬ筋肉が私を呼んでいるのです」


「ガルド……筋肉はしゃべらないわよ」


 遠ざかる大きな背中に向けて、エンドルフィン女王がしみじみとそう言ったのだった。





魔倒歴1016年 エルフ王国王都 美しい森の都


 ガルドは王都、美しい森の都の南側にある転移魔法陣の施設へと向かった。


 そこは石造りの砦のような頑丈な建物で、その地下には、瞬間移動できる魔法陣が描かれている。


 そして、その出入り口は王城並みの厳重な警戒が行われている。


 大陸中にエルフが同じような施設を造っており、一瞬で目的地に着くことができる、とても便利なものだが、逆に悪用されれば、いきなり王都に他国の軍勢や魔獣が送り込まれてくる可能性もあるからだ。


 それを防ぐために厳重に警備をされているのだが、それ以外にも悪用防止の警戒システムが何重にも準備されていた。





 まず、その転移の魔法陣は、一人ずつしか使えなくなっている。


 それならば、どこかの転移施設が敵に奪われても、いきなり大勢の兵士を送り込んでくることはできない。


 あと、転移魔法陣は常時起動していない。


 使用する前に、先方に思念通話の水晶や鏡などで、


「今から、〇〇がそっちに行くから、転移魔法陣を起動するように」


 と、伝える必要があるのだ。


 同じように、悪用されそうになったら、


「こちらは、〇〇の転移魔法陣。ここは敵に占領をされた。今後、ここからの転移者は受け入れを拒否せよ」


 と、連絡をすることもできる。


 もし出口である転移施設が受け入れを拒否した場合、強引に転移魔法を起動しても、決して目的地まで飛ぶことはできない。


 全然違う場所に弾き飛ばされるか、最悪の場合、異世界に転移してしまう可能性すらある。


「ガルド王子、先ほど戻られたばかりなのに、もう出発されるのですか?」


 王都の転移魔法陣担当の魔術師が、彼の姿を見てそう言った。


「ああ、母上への報告は終わったからな」


「もっとゆっくりと休まれればよろしいのに」


「筋肉が俺を呼んでいるのだ」


「そ、そうですか」


 そう言うと、衛兵が施設の頑丈な扉を開け、魔術師とガルドが中に入っていった。


「それで、今度はどちらに?」


「そうだな。灼熱のスカルノ砂漠より南に飛ばしてもらおう」


「分かりました」


 そう言うと、魔術師が金庫を開けて、そこから地図を取り出した。


 これはまさにトップシークレットで、そこには大陸中にある転移魔法陣の位置が書き込まれている。


「どこになさいますか?」


 そう言われ、ガルドは少し考え込み、一番南の転移魔法陣を指さした。


「ここにしよう」


「承知しました。では、魔法陣の中にお入りください」


 彼にそう言われ、ガルドはグラビティ・ツインを持ったまま、素人には何が何やらサッパリ分からない複雑な模様の魔法陣の中央に立った。


「衛兵、これ以降、何者も魔法陣の中に立ち入らせてはならんぞ」


 魔術師がそう言うと、ハッと返事をして、兵士たちがガルドが入った魔法陣を取り囲み、外側を警戒した。


「では、参ります」


 魔術師がそう言って、魔法陣制御用の杖を手に持った。


 そして呪文の詠唱に入ると、魔法陣がほのかに光り出す。


 足元からの光に照らし出されたガルドは、石像のような感じになっている。


 その彼の肩に、パラパラと砂ぼこりが落ちてきた。


「?」


 そして顔を上げると、天井に影が張り付いている。


「何だあれは?」


 彼がそう言ったとき、天井に銀髪のエルフの姿が現れた。


 それは彼の従妹のウェンディー・シグルだった。


 魔術で姿を消して天井に張り付いていたのだが、影は消せなかったのだ。


 そして、この魔術は誰かに気付かれると解けてしまう。


「見つかった!!」


 そう言うと、ウェンディーは魔法陣に向けて飛び降りた。


 それに気付いた魔術師が、


「い、いかん、誰か止めろ!!」


 と叫ぶが、もう遅い。


 転移の魔術が起動して地下室内が眩しい光に包まれた。

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