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マッチョエルフ英雄譚~千年間ひたすら筋トレをして究極のマッチョボディーになったエルフの伝説(サーガ)~  作者: よしぞう


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第27話 決戦魔王城!マッスルハートビート!!

魔倒歴1015年 魔王城


「報告します!!」


 そう言いつつ、コウモリのような翼を生やした魔族が、魔王の間に舞い降りて来た。


 そして、玉座に座る魔王の前に着地すると、頭を下げる。


「いかがした?」


「今、魔王城の正門前にエルフの勇者が来て、魔王様に会わせろと申しております」


「ほほう。で、勇者のパーティーは何人だ?」


 過去の戦いでは、百人を超えることもあったらしく、それはもうパーティーと言うより勇者軍だ。


「そ、それが一人です」


「一人だと?」


 魔王の間に集まっている上級魔族たちが一斉にざわめく。


「もしかして、投降するつもりでは?」


「ぶ、武器は、勇者の剣や鎧や盾は持っているのか?」


「勇者神殿を見張っていたオーガたちもやられたと言うではないか!!」


 そう問い詰められたが、伝令兵は首を左右に振ると、


「鎧や盾は持っておりません。ただ、両手で大きなダンベルを持っております」


 と報告をした。


「ダ、ダンベル?」


 全員がキョトンとした表情になる。


「面白い、それでこそ筋肉勇者だ」


 魔王が不敵に笑った。


「良いだろう、ここへ案内しろ」


「よろしいのですか? 相手は暗黒竜たちをたった一人で倒したエルフの勇者ですぞ」


「フンッ、では追い返すか? わざわざ一人で訪ねて来た勇者に恐れをなして」


「そ、それは……」


「魔王様、魔王城にいる全ての魔族と魔獣で一斉に襲い掛かりましょう。そうすれば必ず勝てます」


 一人の上級魔族がそう言うと、魔王がギロッと睨みつけた。


「いざとなればそうすれば良い。しかし、まず会ってみようではないか」


「魔王様……」


「どれほどの筋肉をしているのか、見せてもらおう」





 しばらくして、ガルドが魔王城の広間にやって来た。


 過去には何度も勇者と魔王による決戦の場となり、屍で埋め尽くされて来たのだが、今回はまだ一滴の血も流されていない。


「貴様が、エルフの勇者か?」


 魔王がそう言うと、ガルドがフードをずらして顔を出した。


「その通り、俺がエルフ王国女王の息子、ガルド・リンドウェルだ」


「一人で乗り込んで来るとは、清々しいほどの愚か者だな」


 そう言うと、魔王が玉座から立ち上がる。


 身長はガルドとほとんど同じだ。


「我が、人間界にとっての脅威にして、この世界を統べる魔王である」


「そうか。まあ、世界は好きにすれば良いが、筋肉では俺が勝ちだ」


 ガルドの勇者以前に、人間族としていろいろと問題がある発言に、上級魔族たちが騒めく。


「今のはどういう意味だ?」


「世界は好きにすれば良いと言ったような気がするが」


「きんにく? もしかして、それは何かの暗号か?」


 ちなみにガルドは、両手にグラビティ・ツインを持ったまま、この部屋に連れて来られていた。


 通常なら魔王の前に案内される前に武器は全て取り上げられるのだが、どう見ても筋トレ道具のダンベルにしか見えなかったからだ。





「魔王よ、貴様に筋肉勝負を申し込む」


「えっ、何勝負?」


「筋肉勝負とは、やはり人間界の暗号なのか?」


 さらに混乱する上級魔族たち。


 しかし、魔王には彼の望みが分かっていた。


 筋肉を愛する者に、人間族も魔族もない。


「良いだろう」


 そう言うと、甲冑の留め具に手を伸ばし、それを一つずつ外していく。


 少しずつ逞しい褐色の肌があらわになっていく。


「おおっ、魔王様」


「何と逞しくてお美しいお姿」


 それを見た上級魔族たちが、尊いとばかりにうっとりとした表情で見つめている。


 最後にすね当てを外すと、黒いブーメランパンツ一枚だけという格好になった魔王が、フッと前髪をかき上げた。


 魔族ならではの美しさと言うか、格好良さがある。


「どうだ、エルフの勇者よ」


 そして、そう言うとフロント・ダブルバイセップスのポーズをとって、ニカッと笑った。


「オオッ、魔王様最高!!」


 大喝采の上級魔族たち。


 しかしガルドは、


「何だ、はるばるこんな北の果てまで来たというのに、がっかりだ」


 そう言うと溜息をつき、両手に持っていたグラビティ・ツインを床の上に落とす。


 それは地響きを立てつつ床にめり込んだ。


「何だと?」


 そして、外套に手を掛けると、バッとそれを脱ぎ捨てた。


 上級魔族たちが魔王に向けていた歓声とは全く違う声で驚く。


「な、何だと……」


 驚いているのは魔王も同じだ。


 ガルドが千年かけて鍛え上げた超絶マッチョボディー、おまけにそれが日に焼けて褐色になっている。


 彼も魔王に対抗するように、フロント・ダブルバイセップスのポーズをとった。


 その瞬間、全身の筋肉が黄金色の光を発し、上級魔族たちが両手で目を押さえて顔を背ける。


「ま、眩しい!!」


「なんなのだ、この光は!!」


 その声にガルドがフッと笑う。


「分からないか。これは肉体の神マッチョーダの祝福の後光だ」


 もちろん、肉体の神は彼にそのような物は与えていないが。


「マッチョーダだと、あのコアな信者しかいないローカル神か……」


「どうした魔王よ。貴様を降誕させた邪神など、偉大なるマッチョーダの前では、肉離れを起こした脹脛のようなものだぞ」


 よく分からない例えだ。


 しかし、それは彼にとって最大の侮辱だった。


「おのれ、13代目の魔王であるディアブロ・エディケーターが、貴様ごときに敗れるわけにはいかぬ」


 そう言うと、全身の筋肉に魔力を注ぎ込み、両手を上に突き上げる。


「筋肉拡大(マッスル・アンプリフィケーション)!!」


 そう言うと、彼の魔術が発動した。


 全身の筋肉が膨れ上がり、ガルドと互角になる。


「見よ、これこそが魔界を統べる筋肉だ」


「ほほぅ、面白い。そんな隠し芸を持っていたとはな」


 暑苦しい二人の超マッチョのせいで、魔王の間の室内温度が上がっていく。


「勝負だ、魔王!!」


「望むところだ、勇者よ!!」


 二人が同時にそう叫ぶと、動いた。


 フロント・ラットスプレッドのポーズをとる。それは正面から広背筋を大きく広げるポーズで、室温がさらに跳ね上がった。


「やるな」


「まだまだ、これからだ」


 二人が同時に真横に身体を向け、胸筋や腕、肩の筋肉を強調するサイド・チェストのポーズをとる。


 二人の筋肉から陽炎が立ち上りはじめた。


「どうした魔王、笑顔が引きつっているぞ」


「クッ、この程度で」


 次は、モスト・マスキュラー。少し前傾姿勢をとり、全身の筋肉量や迫力を最大限にアピールするポーズだ。


「いいぞ、これこそ筋肉の躍動だ!!」


 ガルドがそう歓声を上げると、彼の筋肉から圧力波が発せられ、周囲にいた上級魔族たちが吹き飛ばされた。


 そして、一番近く、それも真正面からそれを受けた魔王が、


「グハァアアアアア!!」


 と血を吐きつつ仰け反って倒れる。


「な、なんという破壊力。我が立っていられなくなるとは……」


 歴史上、これほど何と表現すれば良いか分からない勇者と魔王の決戦はなかっただろう。


 そして、これを最後にしてほしい。


 後にマッスルハートビートと呼ばれる戦いは、ガルド・リンドウェルの勝利で幕を閉じた。


「魔王よ、貴様の筋肉は所詮、魔力で底上げされたものに過ぎない。千年もの間、寝る間も惜しんで筋トレをしてきた俺に勝てるはずがない」


「せ、千年も……」


 この世界に降誕してから13年しかたっていない魔王ディアブロ・エディケーターでは、最初から太刀打ちできるはずがなかったということだ。


「負けた……完敗だ」


 ガクッと魔王が膝をついた。


「あ、あの、魔王様……」


「なんでしたら、我々で一斉に……」


 ひっくり返りはしたが、魔王も上級魔族たちもほぼ無傷である。


 しかし、魔王はうなだれたまま頭を左右に振った。


「我らでは、その男に勝てぬ」


「そうでしょうか……」


「ああ、我の筋肉がそう言っている」


「そうですか、筋肉が言っていますか……」


 上級魔族たちは、それ以上何も言えなくなった。


 なにせ彼らは、全員で束になって襲い掛かっても魔王には勝てないのだ。


 その魔王が敗北を認めた以上、もうどうしようもない。


「魔王よ」


 そう言うと、ガルドが彼に歩み寄り、その肩に手を乗せた。


「諦める必要はない」


「何?」


「筋肉は一日にしてならず。そして、鍛えれば鍛えるほど太く強くなる」


「エルフの勇者……」


「ガルドと呼んでくれ。これからはお前も全てを筋トレに費やせば良いだけだ」


「ガ、ガルド……」


 魔王の瞳が涙で潤む。


「人間界侵攻などしている暇があったら、筋トレをしろ」


「そうだな」


 それを聞いて、上級魔族たちの顔色が青くなる。※もともと青い肌の上級魔族の顔は赤くなる。


「ガルド・リンドウェル、俺はもっと筋トレをする。そして、いつか必ずお前を越えるボディービルダーになってみせる」


 そんな物にならなくて良いです、と上級魔族たちの表情が語っている。


「そうか、良いだろう。俺も楽しみにしているぞ」


 そう言うと、二人がガシッと熱く握手を交わした。





 突如、人間界の各地で行われていた魔王軍による侵攻がピタリと止まった。


 もともと小競り合い程度の戦いしか発生していなかったため、


「いよいよ本格的な侵攻が始まるのか?!」


 と、人間界側が警戒をして守備を固めたが、


 しかし、魔王軍は、そのまま魔界に向けて撤退してしまった。


 人間界の各王国は、それを自分たちを誘い込む罠だと判断し、魔界への逆侵攻などはしていない。


 それぞれの国の国境にある城や砦の守りを固め、魔王軍の再襲来に備えたのだった。

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