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マッチョエルフ英雄譚~千年間ひたすら筋トレをして究極のマッチョボディーになったエルフの伝説(サーガ)~  作者: よしぞう


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第21話 バルゲリア軍グランファルム領侵攻

第21話「バルゲリア軍グランファルム侵攻」


魔倒歴1014年 ホグオーク王国バルゲリア領


 ガルドがお世話になっているグランファルム領の隣に、バルゲリア領があった。


 ここもエルフ王国のプラウナ大樹海と国境を接していたが、近くにエルフの集落がなかったため、交易は行っていない。


 そのため、グランファルム領と違い、本当に何もない田舎だった。


 そのくせ、現在の領主は武闘派で、強力な軍を編成している。


 元々その軍隊は、魔王が降臨したため、自分の領地と領民を守るために準備をしたものだ。


 領民たちに、魔王軍に備えるためと言って重税を課し、自分自身も貴族らしい贅沢などせずに頑張ってきたのだが、その肝心の魔王軍が一向にやって来ない。


 エルフ王国のプラウナ大樹海に暗黒竜ヴァルドラゴンが出現したと聞いた時には、


「よし、やっと来たか、待ちわびたぞ!!」


 と、手を叩いて喜んだほどだ。


 それほど、領内の経済はひっ迫し、領民たちの不満も高まっていたのだ。


 しかし、嘘か本当か分からないが、ヴァルドラゴンは退治されたらしく、プラウナ大樹海は平穏そのもので、領民たちが、


「おいおい、もしかして俺たちは領主に騙されたんじゃないか?」


 と、いよいよ雲行きが怪しくなってきていた。


 そして、いよいよ領主ドゥルザック・バルゲリアは、自分の地位と命を守るために、決断をしたのだった。





「そうか、失敗したか」


 ドゥルザックの領主の館も、武闘派っぽく城塞のような外観をしており、高い城壁と戦塔に守られている。


 その塔の最上階で、バルゲリア領領主、ドゥルザック・バルゲリアは部下から報告を受けていた。


「はい、所詮は金で動く身分卑しき者たちです。グランファルムの護衛に返り討ちにあったと思われます」


 その背後に控えて報告をしているのは、数日前に街道で馬車の残骸を発見した男たちの一人だった。


「まあ良い、最初からあのような者たちのことなど、あてにはしておらぬわ」


 いかにも悪役っぽい雰囲気のドゥルザックが、自分の治める街を見下ろしつつ、そう言う。


 その服装も黒い服に獣の毛皮をまとい、貴族というよりヴァイキングの族長のようだ。


「クックックッ、楽しませてくれる」


 勝手に隣の領主の娘を襲っておいて、楽しませてくれるもなにもあったものではないが、本当のところ、彼は笑っている場合ではないのだ。


「どうなさいますか?」


「バリアントの娘を誘拐して、身代金を奪おうと考えていたが、こうなれば力ずくだ」


「では、いよいよ」


「ああ、そうだ。出陣の準備をしろ」


 彼がそう言うと、配下の男の顔に不敵な笑みが浮かんだ。


「グランファルムの領都グランは、城壁も低くて脆く、守備兵も少ないです。ドゥルザック様の軍が近付いただけで、腰を抜かして驚き、泣きながら降伏をすることでしょう」


「フンッ、国王にはグランファルム領に魔王軍が襲来したので、我々が撃退してやったと報告しておけばよい」


 ドゥルザックもバリアントも、同じホグオーク王国の一領主に過ぎない。


 何の理由もなしに、勝手に隣の領地を攻撃などしたら、下手をしたら反乱と受け取られて王国軍によって討伐をされてしまう。


 いくらドゥルザックが強力な軍隊を作ったと言っても、国王率いる王国軍には絶対に勝てない。


 こちらの兵力はせいぜい千人なのに対して、国王はその気になれば数万の軍勢を動かせるのだ。


「出陣の準備をさせろ。兵と兵糧が揃い次第、グランファルム領に侵攻する」


 ドゥルザックがそう言いつつ、両手を広げて天を仰いだ。


「このままでは魔王軍が攻めて来る前に、俺は破滅だ。そんなことだけは絶対に避けなければ」


 グランファルムにとっては、本当にいい迷惑である。





魔倒歴1014年 グランファルム領都グラン


 ガルドが筋トレを兼ねて城壁の補修をし始めて、一か月がたった。


 そして、彼は毎日筋トレに行く前に、職人街の武器工房に立ち寄っている。


「本当に、これで良いのか?」


 武器職人のドワーフ、グログ・アイアンジョーが、ガルドに依頼された武器を指さしつつそう言った。


 そこには完成した二つの武器……というか、金属の塊がある。


 なにせ、依頼された武器がかなり特殊で、知らない人が見たら、まず武器とは思わないような形状をしているからだ。


 当然、グログ自身も、このような物を作ったことは一度もなかった。


「素晴らしい出来だ」


「そ、そうか。それなら良いのだが」


 暗黒竜ヴァルドラゴンを倒したエルフの勇者に武器を作れるのだから、これほど名誉なことはない。


 ちなみに、ガルドは暗黒竜以外に、炎ワームや氷の巨人も倒しているのだが、本人が一切口にしないので、この領都の人たちは誰もそのことを知らない。


 なんにせよ、そのような英雄に武器を作ることこそ、武器職人にとって人生の目標のようなものだ。


 だというのに最初、この武器の依頼を受けた時、あまりやる気にならなかった。


 領主からの依頼書を持っていなければ、正直言って断っていただろう。


 しかし、最近はだんだんと楽しくなってきた。


「こんな物、依頼でもされなければ絶対に作らないからな。まあ、良い勉強をさせてもらったよ」


「そうか、それは良かった」


「しかし、これをどうやって使うんだ?」


「見れば分かるだろう?」


「いや、全然分からん」


 そのような会話をしていると、職人街の通りを、





「道を開けろ、伝令だ!!」


 伝令の兵士がそう言いつつ、領主の館に向けて駆け抜けて行った。


「あんなに慌てて、何かあったのか?」


 グログが窓を開けて、その背中を見送りつつそう言う。


「あれは、城門の兵士だな」


 もしかしたら、魔獣が出現したのかもしれない。


「様子を見てくる」


 ガルドがそう言うと、武器工房から外に出た。


 そして、伝令の兵士が走って来た方向に向けて顔を向けた。





魔倒歴1014年 グランファルム領都グラン


 グランファルム領都の南側は穀倉地帯になっている。


 ガルドがやってきた北側と違い、開けた地形が広がり、軍勢を展開するのに適した地形だ。


 という訳で、バルゲリア軍はその南側から、領都グランに迫って来た。


「ドゥルザック様、見えました。グランです」


 バルゲリア軍を指揮する将軍がそう言うと、前方を指さした。


 青々とした小麦畑の先に、町全体を取り囲む城壁が見える。


「そうか、久しぶりだな」


 過去に何度か訪れたことがあるドゥルザックがそう言った。


 しかし、何か違和感を感じて目を細めると、首を傾げた。


「5年ほど前に来た時と、何か雰囲気が変わったような気がするな」


「そう言えば、そうですな……」


 将軍もそれに気付いたらしく、額に手を当て、目を凝らす。


 そして、二人同時に違和感の正体に気付いた。


「あれ? あんなに立派な城壁だったっけ?」


「い、いえ。グランの城壁は、あまり高くない上に、古くてかなり脆くなっていたはずです」


 バルゲリア軍は、領都グランの城壁を越えるために、長い梯子を作って運んで来ている。


 その長さは3mほどで、民家の2階に届く程度だ。


 しかし、今近付いている領都グランの城壁は、高さが倍以上ある。


 それはつまり、幅もそれだけ広くなっているということだ。


「何だか、物凄く頑丈そうなのだが」


 さらに、その城壁の上には等間隔で石像が設置されていた。


「あれは、神像……肉体の神マッチョーダのようですね」


「マッチョーダだと? あの信者は少ないが、妙に暑苦しいことで有名な奴か」


 そう、城壁の上には、暑苦しい笑顔で暑苦しいポーズを取っている、ムキムキボディーの石像が並んでいる。


「斥候が戻ってきました」


 事前に偵察のために先行させていた斥候兵たちが、駆け寄ってくるのが見えた。


 人数は10人ほどで、全員農民の格好をしている。


「報告いたします!! 領都グランはあの高い城壁で囲まれていて、手薄な場所はありません!!」


「何だと?!」


 これでは、城壁を越えることができない。


「どうなさいますか、一時撤退しますか?」


 将軍にそう聞かれ、ドゥルザックの顔が忌々しげに歪んだ。


 そのようなことをしたら、間違いなく自分は領主の座を追われる。


 この侵攻は、彼と彼の領地にとって、生き残るために必ず成功させなければならないのだ。


 かといって、城壁の上まで届かない梯子しかないのでは、兵士たちに多大な損害が出ることを覚悟して、城壁をよじ登らせなければならない。


「領都グランの兵士は、すべてかき集めても百人もいないでしょう。しかし、領民たちまで動員すればかなりの人数になります」


 なにせ、人口は5千人もいるのだ。剣や槍は使えなくても、城壁の上から石を投げ落としたり、農耕用の鋤や鍬でも立派な武器になる。


 勝てないとまでは思わないが、バルゲリア軍もかなりの損害を被ることになるだろう。


「急いで、攻城用の武器を作らせろ。攻撃はそれからだ」


「分かりました」


 こうして、バルゲリア軍は領都グランの南側に陣を敷き、近くの森の木を伐り出して攻城兵器を作ることになったのだった。





 迫り来るバルゲリア軍に領都グランの城門の見張りの兵士が気付くと、大慌てで畑で農作業をしていた農民たちを城門の内側に避難させ、門を閉じた。


 それと同時に、領主のもとに伝令を出して緊急事態を伝えている。


「な、何だと?! バルゲリアの軍勢が南側に?!」


「はい、兵力は約千人で、陣を張っています!!」


 領主のバリアント・バルモントは館の中庭で、騎士たちと力を合わせて、微妙に位置がずれてしまった先祖の像を何とか元の位置に戻そうと頑張っているところだった。


「何だか色々と追い詰められていると聞いてはいたが、まさか我が領地を狙って来るとは……」


 本来であれば、すぐに王都に使いを出して、国王にバルゲリア領主ドゥルザックの蛮行を伝え、討伐軍を派遣してもらうところだが、とてもではないが間に合わない。


 国王軍が到着するには最低でも一か月はかかる。それまでにここ領都グランは攻め落とされ、バリアントと娘のエアリースの首が城門の上に晒されていることだろう。


 その後は、ドゥルザックが嘘で嘘を塗り固めたような虚偽の報告をして、バリアントが反逆を企んでいたため、先手を打ってこれを討伐したなどと報告するに違いない。


「急いで兵を配置につかせよ。あと、領民からも兵を集めよ」


 バリアントが勇者像の台座に両手をついてゼェゼェと肩で息をしている騎士団長に向けてそう命じた。


「し、承知いたしました」


 彼は姿勢を正してそう返事をすると、騎士たちを引き連れて駆け出して行く。





 実は、バリアント・バルモントは、ドゥルザックが自分の領地を狙っていることをすでに知っていた。


 一か月前に、彼の娘のエアリースを狙った野盗の一人が持っていた短剣を調べたところ、ドゥルザックが治めるバルゲリア領の武器職人が制作した物だと判明していたからだ。


 それを調べたのは、ドワーフの武器職人グログ・アイアンジョーで、彼は武器の刃を見ると、それがどのようなハンマーの打ち方をされて鍛えられた物か分かるのだった。


 そして、それはバルゲリアの武器職人の手によるものだと見抜いていた。


 ちなみに、捕らわれた野盗たちの処分については、


「私に任せてほしい」


 とガルドが言ったので任せたところ、


「罪を償うには、筋肉を鍛えるのが一番だ」


 と、意味不明なことを言い出し、彼らを毎日城壁の補修につき合わせていた。


 本来であれば、野盗は捕まれば例外なく全員死刑である。


 命が助かっただけでもありがたいと思えと言いたいところだが、待っていたのは死刑よりも過酷な筋トレだった。


 そして、彼らは――主にガルドだが――わずか一か月で、領都グランの城壁を補修どころか、改修までしてしまったのだ。


 なお、城壁の上に100mごとに設置されている肉体神マッチョーダの石像は、ガルドが何の道具も使わずに素手で制作している。


 コアな信者しかいないことで有名な肉体神がズラリと並ぶその光景は、街全体が神殿になったようなイメージだが、誰も文句は言えなかった。


 あと、わずか一か月で囚人たちの肉体は鍛え上げられ、今ではガルドのことをアニキと呼んで信奉している。


「また、何か仕掛けてくると思っていたが、まさか、軍勢を率いて攻め込んで来るとは……」


 バリアント・バルモントが、何と愚かな、と口の中で呟く。


 そこへ、今度はガルドがやって来た。


 いつもの外套姿で、スタスタと歩いて来ると、ちょっと邪魔だな、とばかりに途中にあった勇者像を片手で動かして、元の位置に戻す。


「領主殿」


「おおっ、ガルド殿!!」


 初めの頃は、近付くだけで暑苦しくて思わず仰け反ってしまったものだが、最近はかなり慣れてきた。


 もっとも、娘のエアリースはまだ無理らしく、顔を合わせるたびに気を失っているが。


「南の城門まで行って確認をして来たが、あれはどこの軍勢だ?」


「ああ、あれは隣の領地のドゥルザック・バルゲリアのものだ」


「隣の領地ということは、同じ王に仕える者同士ではないのか?」


「その通りだが……」


 そのあとバリアントは、手短に隣のバルゲリア領について説明をした。


 魔王が降臨した後、その侵攻に備えて軍備を増強したが、いまだに魔王軍は攻めて来ず、領内の財政は火の車どころか燃え尽きようとしていること。


 そして、エルフとの交易で裕福とまではいかないが、それなりに潤っているこのグランファルム領を狙っていたことなど。


「そうだったのか」


「確かに、本当に魔王が降臨したのかと疑いたくなるほど、奴らの侵攻は遅々として進んでいない。特にここはエルフ王国が盾になってくれているため、比較的安全な地だ。暗黒竜がプラウナ大樹海に出たのをガルド殿が退治したことは聞いたが」


「あと、灼熱のスカルノ砂漠にはマグマバジリスクが、アイスノース山脈には氷の巨人が出現していたがな」


「それも所詮は噂だ。現に、それ以降何の情報も入って来ない」


「あれなら私が両方とも退治した」


「そうか、退治したのかって……ええっ?!!」


「マグマバジリスクは、なかなか見どころがあるので、王都・美しい森の都で暗黒竜と共に筋トレをしている」


「き、筋トレって……」


 普通なら質の悪い冗談だと笑い飛ばすか、不謹慎だと言って怒るところだが、この男ならやりかねない。


 そして、この男なら千人の軍勢など笑いながら蹴散らせるのではないか? と思った。


「と、とりあえず、話し合いをしよう。戦うのはその後だ」


 バリアント・バルモントは、千人のバルゲリア軍を蹴散らした後、降伏した千人の敵兵たちと筋トレしているガルドの姿を想像しつつ、そう言った。

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