第14話 アイスノース山脈登攀
村長達が壁際に張り付いて、ガルドに向けて斧や薪を手に持って構えている。
「オーガだ、エルフ顔のオーガだ!!」
「た、助けてくれぇ~!!」
オーガはドラゴンなどに比べればかなり格下だが、それでも普通の人間では太刀打ちできない、戦闘力が高く狂暴な魔族である。
勇者や兵士でも、10人ほどが一斉に襲い掛からなければ、返り討ちにされてしまう。
ましてや、普通の村人A達が5人しかいない現状では、皆殺し確定だ。
「俺はオーガではない」
「嘘をつくな!!」
「分かった。では、証拠を見せてやろう」
そう言うと、ガルドが小麦色に焼けたマッチョボディーで、
「フンッ!!」
と気合を入れると、サイドチェストのポーズをとった。
もちろん、白い歯を見せてニカッと笑うことも忘れない。
「ギャアアアアア!! やっぱりオーガだ!! 変態のオーガだぁあああ!!」
村人達のパニック度がさらに上がった。
結局、彼等が落ち着くまでに5分ほどかかった。
「さ、先ほどは失礼いたしました」
村長がそう言って、ガルドに向けて頭を下げる。
「いや、だんだんと慣れてきたから大丈夫だ」
嫌な慣れである。
「そ、それでガルド様は、本当にアイスノース山脈を一人で登るおつもりなのですか?」
「ああ。トレーニ……グランシエールを倒さなければ、精霊力のバランスが崩れてしまい、このままでは大陸は人間族が住めなくなる」
今、トレーニングって言いそうにならなかったか?
ああ、俺にもそう聞こえた。
と、村人達が囁き合っているが、それは無視をする。
「そ、そのような、恐ろしいことに?」
村長が驚いてそう言う。
しかし、あり得ない話ではない。
現実に、この村をはじめ、アイスノース山脈周辺は異常気象のため、大ピンチに陥っているのだから。
「分かりました。途中までで良ければ、村から案内をつけましょう」
村長がそう言うと、ガルドが、
「それは助かる」
と答えた。
魔倒歴1013年 アイスノース山脈
村長の家で一泊すると、ガルド・リンドウェルは、二人の村人に案内されて、アイスノース山脈の登攀を始めた。
激しい吹雪は収まることを知らず、冬や山に慣れている村人ですら、まともに歩けない状態だった。
それでも、
「危険と思ったら引き返せ」
と言われ、村の中でも山登りの経験が豊富で、体力のある若者が選ばれている。
しかし、その二人が夕方には村に戻ってきた。
「どうした、二人とも。そんなに厳しかったのか?」
驚いた村長がそう問いただしつつ、一番目立つはずのガルドの姿を探す。
「あの筋肉エルフ王子はどうした? まさか、遭難したのか?」
例えそうなっても不思議はない。
そもそもエルフは人間より精霊に近い存在であり、肉体的にはそれほど強靭ではないのだ。
もっとも、ガルドの外見を見る限り、通常のエルフの定義からかなりかけ離れていたが。
「そ、それが……」
全身雪まみれで、髪の毛や睫毛まで凍らせた案内の二人が、言いにくそうにしている。
「いいから正直に答えろ。例え遭難したとしても、お前達の責任じゃない。あんな軽装――外套の下は革のブーメランパンツ1枚――でアイスノース山脈に挑む方が無謀なのだから」
村長がそう言うと、二人が交互にポツポツと話し始めた。
ガルドと二人の村人は、吹雪の中、山の斜面を登って行った。
少しでも距離が離れると、お互いを見失うため、3人は体を紐で結びつけている。
「くそっ、普段なら目をつぶっていても歩けるのに、真っ白で何も見えない!!」
「寒くて、手足が凍りそうだ!!」
二人は何度もガルドに、無茶だ、引き返そう、と言ったが、彼は、
「この程度、俺の筋肉の前ではそよ風と同じだ」
と言って、スタスタと歩いて行く。
現に、村を出てからはガルドが先頭で、二人はロープで引きずられるようにして進んでいた。
「あんた、寒くないのか?」
「大丈夫だ」
そう言うと、ガルドが猛吹雪の中、外套の前を開いた。
普通の人間が同様の行為をすれば、数分で低体温症になり、凍死するような自殺行為だ。
しかし――。
「ええっ?!」
案内の二人が驚く。
ガルドの体からは、暖かそうな湯気が出ていたのだ。
「全身の筋肉を細かく振動させて体を温めているから平気だ」
「そ、そんなことができるのか?!」
もちろん、どれだけ体を鍛えても、普通の人間にできることではない。
「まさか、二人はできないのか?」
「できるわけないだろう!!」
その後、ガルドに「もう良いから村へ帰れ」と言われ、二人は引き返してきたのだった。
「あの筋肉エルフに案内なんか必要ない」
「ああ、あの人は魔族より魔族っぽい」
「そ、そうか……」
なんにせよ、もうできることはない。
あるとすれば、ガルド・リンドウェルが生きて帰って来ることを祈るぐらいだ。




