第12話 討伐完了
キャラバンのリーダーは、マジネ河流域の領主が募集した、炎ワーム・マグマバジリスク討伐隊に加わっていた。
彼のキャラバンの護衛として雇っていた傭兵達も、20人中半数がこの隊に参加をしている。
ちなみに、残りの傭兵達はキャラバンの荷物の警護のために残してきた。
「間もなく、マジネ山脈の麓だ。皆、油断をするなよ!!」
この討伐隊は、領主自らが指揮をとっている。
その彼が、ラクダの背に跨ったままそう言った。
マグマバジリスク討伐隊の兵力は300人程度で、全員がラクダに乗っている。
伝説級の魔獣と戦うには、明らかに戦力不足だったが、彼等は先遣隊だ。
今も領内では討伐隊主力の募集が続けられており、そちらは数千人規模になる予定だった。
本来であれば、一人でも多くの兵力を集め、攻城兵器を揃えてからマジネ山脈を目指すべきだった。
しかし、とてもそれまで待つことができない。
マジネ河が完全に干上がると、領内に住むほとんどの人間が生きていけないのだ。
この時も、討伐隊はそのマジネ河の流れに沿って、ここまでやって来た。
「いよいよだな」
キャラバンのリーダーが、眼前にそそり立つ山脈の岩だらけの斜面を見上げた。
その時――。
「お、おい、見ろ!!」
一人の兵士が大きな声でそう言った。
それを聞いた討伐隊のメンバーが、驚いて川の方に顔を向ける。
そして、全員が目を見開いた。
今の今までチョロチョロとしか流れていなかったマジネ河の水量が、どんどん増えていたのだ。
「これは、どういうことだ?」
領主がラクダの背から降りて、川岸に近付いた。
そして手袋を脱ぐと、恐る恐る水面に触れる。
「冷たい。普通の水だ」
そして、そう言った。
それを聞いて、他の討伐隊のメンバーも次々と川に駆け寄り、その水に手を伸ばす。
「本当だ、水量が戻ったぞ!!」
「で、でも、何故だ?」
そして、今度は自分達が目指していた山の方に向き直る。
「魔獣が去ったのか?」
「それとも、実は勘違いだったとか?」
誰も、マグマバジリスクが倒されたとは考えていない。
ここには、魔獣を倒せるような軍勢は他にはないからだ。
その時、視力の良い一人の傭兵が目を凝らして、
「何か、山を下りて来るぞ!!」
と、叫んだ。
それを聞いた領主が、
「全員、武器を取れ!!」
と、叫んだ。
300人の討伐隊が全員武器を構え、陣形を組む。
「弓だ! あと、魔法を使える者を隊列の内側に入れろ!!」
彼等の中には、攻撃魔法や支援魔法が使える魔術師と、回復魔法が使える神官や僧侶も数人混ざっている。
魔獣と戦うには、彼等の力が不可欠なのだ。
そして、知能の高い魔獣はそのことがよく分かっているので、魔術を使える者を真っ先に狙ってくる。
全員が武器や盾を構えて、山の方を睨みつけた。
すると、岩だらけの急斜面を、何と表現したらよいか分からない一人と一匹が、並んで歩いて降りて来る。
「お、おい、あれって……」
「ああ、マグマバジリスクじゃないのか?」
「あいつは人間か? オーガか?」
それは、ガルド・リンドウェルとマグマバジリスクだった。
距離が近くなるに従い、筋肉の塊のような男が、信じられないことにエルフだと分かる。
「なんて筋肉だ。あと、何で裸なんだ?」
ガルドが愛用していた外套は燃えてしまった。
しかし、理由は分からないが、彼が身に着けている革のブーメランパンツは無事だったので、全裸ではない。
「止まれ!!」
領主がガルドに向けてそう怒鳴った。
それを聞いて、彼とマグマバジリスクが足を止める。
「お前は何者だ?!」
「見て分からないか?」
「分かるわけないだろう!!」
そう言われ、ガルドが隣に立つマグマバジリスクと顔を見合わせる。
何故そんなことを言われているのか分からない、と首を傾げ合う。
しかし、名前を問われたのなら、名乗らないわけにはいかない。
「俺はエルフだ。エルフ王国女王エンドルフィン・リンドウェルの息子、ガルド・リンドウェルだ!!」
「な、何だと? エルフということすら怪しいのに、王子だと?!」
討伐隊がざわつく。
「えっと、ガルド王子、その隣にいるのは炎ワーム・マグマバジリスクではないのか?!」
領主が、色々な疑問に目をつぶり、最も重要な質問をした。
「その通りだ」
「何故、一緒に山を下りて来た? エルフ族は魔王側に寝返ったのか?!」
要するに、お前達はグルなのか? と質問をしているのだ。
しかし、ガルドの回答は彼等の予想を軽く越えていた。
「俺が倒したからだ」
「ええ~っ?!!」
これには全員が驚いた。
最強クラスの魔獣を、たった一人で倒したと言うのだから当然だろう。
「だから安心して良い。こいつはもう我々に害をもたらさない」
「ほ、本当なのか?!」
炎ワーム・マグマバジリスクと言えば、伝説級の魔獣である。
本来であれば、複数の勇者が集まったパーティーが死ぬ気で戦って、勝てるかどうかというレベルのボスキャラだ。
しかし……。
「では、行くぞ」
ガルドがそう言って歩き出すと、マグマバジリスクが、
「そういうことなんで、失礼します」
と思念波で言って、彼の後ろをついて行った。
「ええ~っ……」
本来であれば、呼び止めなければならないのだろうが、それができるような人間は、この場にはいなかった。




