(8)魔王の帰還
申し訳ありません。昨日更新できませんでした。
シェスタを抱き抱えたままレギウスは魔王城の玉座の間へと転移した。まずは自分が帰ったことを知らせねばならぬ。
しかし、かつて自分のものだった玉座には、見たことのない奴が座っており、周りにはその部下らしき者たちがかしずいていた。急に現れたレギウスの姿に全員が驚いている。
まずは、城の掃除が必要だ。レギウスはそう判断した。
「誰だあ?」
どこを見ているか分からない魚人が自分の方に向かってきたのを、レギウスは指だけで吹き飛ばした。
「それは私の椅子だ。返してもらおうか。」
レギウスの言葉に、玉座に座っていた魔人は目を鋭くさせた。
「まさか、封印されていた魔王……なのか?」
「その通りだ。」
「ふん。封印されるような愚か者の座る席はない。とっとと消えてもらおう!」
その場の全員が立ち上がり、レギウスの方へと向かってきたが、大したことはない。レギウスが指を鳴らすと、全員城の外へと追い出され、あっという間に玉座の間には誰もいなくなった。レギウスは悠然と玉座に座った。後始末はこれからゆっくり時間をかけて行えばいいのだ。
問題は、腕の中にいるシェスタだ。とりあえず魔王城に連れてきたのはいいのだが、どうしたらいいのか分からない。レギウスは誰かを世話したことなどなかった。
「世話……そうか、使用人を呼べばいいのか。」
魔王城にも使用人くらいいるはずだ。レギウスは城中の魔族に玉座の間に集まるよう招集をかけた。これでこない奴らは、追放すればいい。
30を数える間に、わらわらと魔族たちが集まってきた。その中の一人、長い白髪を垂らし、燕尾服を着た男が近づいてきて、一礼した。
「新しい魔王様にご挨拶申し上げます。私はこの城の執事を致しておりますニルダと申します。何なりとお申し付けください。」
「この女……シェスタの世話を頼む。」
レギウスからシェスタを預けられたニルダは首を傾げる。
「シェスタ様……。人族の女性でございますね。世話、と申しますと、失礼ながら、魔王城に住まわせるおつもりでしょうか。」
他に行き場所もないだろう。そう思ったレギウスは頷く。
「そうだな。色々世話になったゆえ、丁重にな。シェスタに何かあった時は、お前たちの命もないと思え。」
「なるほど。承知いたしました。」
ニルダの灰色の目がきらりと光った。
「では大急ぎで魔王様の隣の部屋を準備させます。火傷もしておられる様子。治癒石を取り寄せましょう。」
「頼むぞ。私は国の様子を見てくる。」
自分が再び魔王となったことを知らせなければならぬ。
レギウスはそういうと、魔王城から姿を消した。
ニルダは腕の中で気を失っている娘を見た。人族の中でもかなり若い方だろう。茶色の髪は長く垂らしているが艶がなく、食事が足りていなかたのか、ひどく軽い。まるで虐げられていたような……。そう考えてニルダはハッとした。ひょっとしてこの娘は封印されていた魔王を自分の身を挺して守ってくれていたのだろうか。だからこんなにも痩せ衰えているのだ。しかも首には痛々しい火傷がある。きっと魔王の居場所を吐けと拷問をされたのだ!
(くっ……なんてことだ。この方は魔族の恩人に違いない!)
ニルダは少し想像力が豊かだった。
「ニルダ様。私たちは一体どうしたらいいんですかい?」
集められたまま、何をすればいいか分からない他の使用人たちが聞いてくる。ニルダはくるりと後ろを振り向いた。
「いいか。この方はシェスタ様。魔王様の恩人であらせられます。何かあれば私たちの首が飛びます。心して世話をするように。まずは部屋の準備を!それから食事の支度!翼のあるものは治癒石を取って来るように!」
「は、はいいい!」
使用人たちはあたふたと玉座の間から出ていく。その中の一人、ミノタウロス族の女を一人呼び止めた。
「すまないが、代わりに部屋まで運んでくれ。魔王様の奥方になられるかもしれないお方だ。私が触れているのは憚られる。」
「あらあらあら。それは良いお話でございますねえ。よろしいですとも!」
すぐに引き受けたミノタウロス族の女は、抱き上げたシェスタの軽さに眉を顰める。
「なんて軽さでしょう……これはしばらく休養が必要でございますね。どんな病気にも効くという、迷宮の奥にある薬も取り寄せてみましょう。」
「部屋の準備が整いました!」
そう言われたニルダとミノタウロス族の女は、魔王の私室の隣の部屋へとシェスタを運び、天蓋つきのベッドにそっと横たえた。そこへバタバタと羽ばたきながらハーピーが戻ってくる。
「治癒石を取ってきたよ!」
「ご苦労。」
治癒石はドラゴンの巣の近くにできる、傷を癒す石だ。魔族が怪我をした時にはそれを使うことが多い。果たして人間に効くかどうか。ニルダが治癒石を首の火傷に近づけると、治癒石が虹色に光り、光の粒が火傷へと吸い込まれていく。治癒石の輝きが失くなる頃には、首の火傷は綺麗になっていた。ニルダ達は知らないことだが、その下にあったはずの鈴蘭の印も既にない。
「これで、一安心だな。」
ニルダとミノタウロス族の女は頷きあった。
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