(6)神殿追放
ちょっと痛い話になります。
苦手な方はお気をつけくださいませ。
洗濯が終わったシェスタは、今日もいつものように黒うさぎを可愛がっていた。最近は餌を食べた後、抱き上げても逃げ出さなくなった。膝に載せてひたすら撫でた後、ぎゅうっと抱きしめて頬擦りする。
(あの子は今どこにいるのかしら。私の黒うさぎさん)
気になるのは、自分の宝物だったぬいぐるみだ。だいぶ汚れていたから、捨てられてしまったのかもしれない。そう思うとシェスタは寂しくなる。
(お前があのうさぎさんだったらいいんだけどね。ぬいぐるみが動くようにはならないわよね)
心の中では話かけているが、声にはならないシェスタには、撫でることしかできない。
ぴくり、とうさぎの耳が何かに反応して動いた。次の瞬間、シェスタの膝から飛び降りてどこかに行ってしまった。
(どうしたのかしら……)
不思議に思っているシェスタの耳に、数名の足音が聞こえてきた。現れたのは、神官の男たちだ。
「いたぞ!」
シェスタを見つけた男たちは、シェスタを捕まえると、神殿の奥へとつれて行く。
(今度は何をされるの……?)
逃げ出したくても、両腕を掴まれ、動けない。シェスタはそのまま「鈴蘭の部屋」へと連れて来られた。扉が閉まる。中にはスールとクラリスがいた。
クラリスは近づくと、シェスタの銀の首輪を外した。その下にある鈴蘭の印を見つけて、眉を顰めた。
「ふうん。本当に印がついているのね。」
「ああ。……シェスタ。君には聖女をやめてもらうことになった。」
神官長に言われた言葉に、シェスタは瞬きをした。
聖女というのはやめられるのだろうか。そもそも今の自分はただの使用人になっている。やめられるものならさっさとやめたいとシェスタは思った。うさぎともふもふしていられるなら、それだけでいい。
「明日王太子殿下が「鈴蘭の聖女」に挨拶に見えるそうだ。お前のようなみすぼらしいものが王太子に会うなど、神殿の恥でしかない。」
何をしに王太子が挨拶にくるのだろう。シェスタには見当もつかない。
「癒しの魔法も結界魔法も使えない役立たずがいるなんて、恥ずかしくて見せられませんわ。」
ねえ、と問いかけるようにシェスタを見る目に耐えられず、シェスタは俯いた。自分はここで「鈴蘭の聖女」の像に祈ることが仕事だったけれど、それはどうでもいいことだったのだ。今は像があった場所に、聖女の持ち物の宝石が美しく飾られている。
「最近、面白いものを見つけてね。」
神官長は棒に黒い鉄の塊がついているものを取り出した。あれは一体なんなのだろう。考えているうちに、神官達がシェスタの体を取り押さえた。神官は近くの暖炉に黒い鉄の塊の部分を入れる。しばらくすると、それが赤くなってきた。
「昔、罪を犯した聖女に、これで焼印を入れて、聖女の印を失わせたと書物に書いてあったのだよ。君のその印も、取り除いてあげようじゃないか。」
聖女をやめたいとは思ったが、そのやり方は嫌だ。逃げようにも神官達に取り押さえられ、動くことすらできない。ポロポロと涙を流すシェスタをバカにしたように、伯爵令嬢は笑う。
「優しいでしょう?魔族と通じた罪を犯したお前を殺さずに追放だけしてあげるんだから。」
魔族と通じた?どうやって?口の聞けないシェスタは反論すらできない。
「声が出ないとは便利だな。猿轡を噛ませる必要もない。」
なんの話だ。
ぐっと頭が後ろへと引っ張られ、喉がさらされる。何かが触れたその瞬間、激しすぎる痛みに、シェスタは意識を手放した。
ぐったりとなったシェスタの喉からスールは焼印を離した。クラリスは肉の焼けこげた匂いに顔を顰めている。鈴蘭の印が真っ黒に焼けこげ、見えなくなっていることを確認して、二人は目を合わせて笑った。
その時だった。
ガラスの割れるような音が、どこからか聞こえてきた。
「なんだ?」
「どこからだ?」
神官たちも慌てふためき、鈴蘭の部屋の扉を開け、外の様子を窺う。その時、部屋に黒いうさぎが飛び込んできた。うさぎはまっすぐにシェスタのところへやってきて、鈴蘭の印があった場所をクンクンと嗅いでいる。
「なんだあ?」
神官の一人が外へと追い出そうとした瞬間、ウサギは噴煙と共に、禍々しくも美しい青年の姿へと変わった。黒くまっすぐな髪は艶やかに腰まで伸ばされている。黒曜のような切れ長の目も闇夜のようで美しい。唇だけが酷く赤くて、目が離せなくなる。彼は妖艶にクラリスに微笑んだ。それだけで、クラリスはへたり、とその場に座り込んでしまった。
「礼を言おう。お前のおかげで元の姿に戻れたのだからな。」
「私のおかげ……?」
うっとりと男を見ながら尋ねるクラリスに男は頷いた。
「ああ、もちろんだとも。わざわざ魔王である私の封印を解いてくれたのだからな。だから、お前の望みを叶えてやろう。……この娘はもらっていく。」
男はシェスタを軽々と抱き上げた。
「魔王……?まさか、行方不明になっていたのはこの娘が封印していたからなのか?」
青くなったスールがつぶやいた。
青年はそれには答えず、片手だけでシェスタを支え、もう片方の手でパチリと指を鳴らした。煙のように二人の姿が消える。
「ま、魔王……?」
「どういうことよ……?」
あっという間の出来事に、呆然としていると、神官たちが慌てた様子でやってきた。
「大変です!この国を守っていた結界が全てなくなったそうです!」
「魔物があちこちで現れ、住民たちが庇護を求めています。対処をお願いします!」
「……し、知らないわ!私のせいじゃない!私は何も知らなかったの!」
事の重大さがやっとわかったのか、クラリスはスールから離れるように後ずさった。
「あんたが、封印を消したのよ!全部あんたが悪いの!わかったわね!」
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