表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/8

(5) 悪巧み

リアクション、ブクマ、ありがとうございます。

とてもやる気になりました。頑張ります。

「鈴蘭の部屋」からは、ちょうど患者が出てくるところだった。患者は騎士団員のようだ。クラリスは気だるげにドアにもたれかかっている。

「もう怪我をしないことを祈っているわ。」

「ああ。ありがとう。しかし、君のためなら怪我をするのも仕方ないな。」

「あら。悪い人ね。」

 そこまで会話をしたところで神官長に気付いた騎士団の男は、それまでの顔を一変させて真面目な顔に戻る。

「では失礼する。」

 遠ざかっていく男を見送ってから、神官長は聖女の部屋へと入っていった。乱れた寝台。それだけで何があったかわかるというものだ。神官長はそこから目を背けるようにして、ソファへと身を沈めた。聖女もその前にゆったりと座る。


「王太子が明後日いらっしゃいます。『鈴蘭の聖女』に挨拶をしたいとのことです。」

 スールの言葉に、自分の整えられた爪を見ながら、クラリスはこともなげに答えた。


「私が『鈴蘭の聖女』だと言えばいいのでしょう?王太子殿下にお会いできるなんて、なんて幸運なのかしら。今日から本格的にお手入れをしなければならないわね。」


 事の重大さが分かっていない聖女の様子を見ながら、神官長は汗を拭く。


「嘘をついたのがわかれば、私たちだけでなく、伯爵家にも迷惑が及びます。」


『鈴蘭の聖女』ではない女に、「鈴蘭の部屋」を与えていた。その責任を問われるのは神官長である自分なのだ。王命でこの部屋を与えられていたというのであれば、軽い処分では済まないだろう。しばらく考えていた聖女が、パッと明るい顔になる。


「『鈴蘭の聖女がいなかったら、部屋を借りたのだ』ということにしたらどうなのかしら。」

「いなかった、とは……。」

 クラリスの提案がよく分からず、スールは首を傾げる。


「だからね?私たちが来たときにはもう『鈴蘭の聖女』はいなかった。そういうことにしたらいいのよ。私たちは何も知らないの。」


 それは悪くない提案のように神官長は思った。が、一つだけ問題がある。

「『鈴蘭の聖女』がいないという報告を私は王にしておりません。」

「それこそ、『聞いていなかった』で押し通すのが一番じゃないかしら。」

 前の神官長から何も引き継ぎがされていなかったため、現在でも神殿の業務は滞りがちだ。分からなかった、と言ってもなんとかなるかも知れない。顔色が少し良くなったスールの顔を見て、クラリスはため息をついた。あまりにも小心者過ぎる。もう少しまともな人を寄越してもらおう。クラリスは心の中でそう思った。


「そもそもどうしてあの孤児が『鈴蘭の聖女』なのかしら。」

「『鈴蘭の聖女』の体には、鈴蘭の印がある、とは聞いております。……調べてみましょうか。」


「お願いね。あなただけが頼りなのよ。」

 クラリスはそういうと、両手をスールの首に回して微笑んだ。こうしてお願いして聞いてくれなかった男はいないのだ。スールも真っ赤になって頷いている。笑顔のまま、スールを見送ると、クラリスはスールに触れた自分の腕を嫌そうに見た。


「ああ、汚らしい。誰か、今すぐお風呂の準備をしてちょうだい。」



 そんな事はつゆ知らず、神官長は『鈴蘭の聖女』のことが書かれている文献を探した。女神コンバーラのことについて書かれた文献はたくさんあるものの、『鈴蘭の聖女』について書かれているものがなかなか見当たらない。

 ないのかもしれない、と諦めかけたその時、書棚の奥に隠された文献を神官長は見つけた。



 女神コンバーラは春が来たことを告げる豊穣の女神だ。

 かつて、魔族がこの国に侵入してきたことがあった。強い彼らに対抗できず、人間たちは女神に救いを求めた。

 女神はそれに応えて、「鈴蘭の聖女」を遣わした。彼女の手には、鈴蘭の印がついていたという。彼女はその力を使って魔族が入れないよう結界をはり、平和をもたらした。そのため神殿には、「鈴蘭の聖女」を祀るための「鈴蘭の部屋」が作られたという。


 鈴蘭の聖女がいなくなった後、結界は弱まり、また魔族の侵攻を許してしまった。そのため、また『鈴蘭の聖女』を作り、結界をはり直した。それから代々『鈴蘭の聖女』が「鈴蘭の部屋」で祈りを捧げ、結界をはりなおしているという。


「つまり、『鈴蘭の聖女』が祈りを捧げることが大事だということか。」

 それだけなら、あの娘を他の部屋に移動し、祈りを捧げていれば問題はない。が、『鈴蘭の聖女』には会っていないと言い張るなら、いてもらっては困る。かと言って、追放した後に見つかっても困る。


 パラパラと文献を見ているうち、神官長の手はある場所で止まった。魔族と通じ、結界を解こうとした『鈴蘭の聖女』がいたというのだ。彼女の鈴蘭の印を焼いたところ、鈴蘭の印は消えた。そして新しい鈴蘭の聖女を作成することに成功した、とある。


「なるほど。あの娘の印を消せばいいのか。」

 同じように魔族と通じたと嘘をいって、印を消しておけばいい。

 どうせ話せない娘だ。自分たちが何をしたとしても、伝える術はない。


 彼がもう少し注意深く文献を読み解けば、何かおかしいと感じたかもしれない。王太子の来訪という現実に目が眩んだ神官長は、シェスタの印を消す方法を考え始めた。


読んでくださり、ありがとうございます。

「続きが気になる」「面白い」「早く読みたい」など思われましたら、下記にあるブックマーク登録・レビュー・評価(広告の下にある☆☆☆☆☆→★★★★★)、リアクションなどしていただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ