(5) 悪巧み
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「鈴蘭の部屋」からは、ちょうど患者が出てくるところだった。患者は騎士団員のようだ。クラリスは気だるげにドアにもたれかかっている。
「もう怪我をしないことを祈っているわ。」
「ああ。ありがとう。しかし、君のためなら怪我をするのも仕方ないな。」
「あら。悪い人ね。」
そこまで会話をしたところで神官長に気付いた騎士団の男は、それまでの顔を一変させて真面目な顔に戻る。
「では失礼する。」
遠ざかっていく男を見送ってから、神官長は聖女の部屋へと入っていった。乱れた寝台。それだけで何があったかわかるというものだ。神官長はそこから目を背けるようにして、ソファへと身を沈めた。聖女もその前にゆったりと座る。
「王太子が明後日いらっしゃいます。『鈴蘭の聖女』に挨拶をしたいとのことです。」
スールの言葉に、自分の整えられた爪を見ながら、クラリスはこともなげに答えた。
「私が『鈴蘭の聖女』だと言えばいいのでしょう?王太子殿下にお会いできるなんて、なんて幸運なのかしら。今日から本格的にお手入れをしなければならないわね。」
事の重大さが分かっていない聖女の様子を見ながら、神官長は汗を拭く。
「嘘をついたのがわかれば、私たちだけでなく、伯爵家にも迷惑が及びます。」
『鈴蘭の聖女』ではない女に、「鈴蘭の部屋」を与えていた。その責任を問われるのは神官長である自分なのだ。王命でこの部屋を与えられていたというのであれば、軽い処分では済まないだろう。しばらく考えていた聖女が、パッと明るい顔になる。
「『鈴蘭の聖女がいなかったら、部屋を借りたのだ』ということにしたらどうなのかしら。」
「いなかった、とは……。」
クラリスの提案がよく分からず、スールは首を傾げる。
「だからね?私たちが来たときにはもう『鈴蘭の聖女』はいなかった。そういうことにしたらいいのよ。私たちは何も知らないの。」
それは悪くない提案のように神官長は思った。が、一つだけ問題がある。
「『鈴蘭の聖女』がいないという報告を私は王にしておりません。」
「それこそ、『聞いていなかった』で押し通すのが一番じゃないかしら。」
前の神官長から何も引き継ぎがされていなかったため、現在でも神殿の業務は滞りがちだ。分からなかった、と言ってもなんとかなるかも知れない。顔色が少し良くなったスールの顔を見て、クラリスはため息をついた。あまりにも小心者過ぎる。もう少しまともな人を寄越してもらおう。クラリスは心の中でそう思った。
「そもそもどうしてあの孤児が『鈴蘭の聖女』なのかしら。」
「『鈴蘭の聖女』の体には、鈴蘭の印がある、とは聞いております。……調べてみましょうか。」
「お願いね。あなただけが頼りなのよ。」
クラリスはそういうと、両手をスールの首に回して微笑んだ。こうしてお願いして聞いてくれなかった男はいないのだ。スールも真っ赤になって頷いている。笑顔のまま、スールを見送ると、クラリスはスールに触れた自分の腕を嫌そうに見た。
「ああ、汚らしい。誰か、今すぐお風呂の準備をしてちょうだい。」
そんな事はつゆ知らず、神官長は『鈴蘭の聖女』のことが書かれている文献を探した。女神コンバーラのことについて書かれた文献はたくさんあるものの、『鈴蘭の聖女』について書かれているものがなかなか見当たらない。
ないのかもしれない、と諦めかけたその時、書棚の奥に隠された文献を神官長は見つけた。
女神コンバーラは春が来たことを告げる豊穣の女神だ。
かつて、魔族がこの国に侵入してきたことがあった。強い彼らに対抗できず、人間たちは女神に救いを求めた。
女神はそれに応えて、「鈴蘭の聖女」を遣わした。彼女の手には、鈴蘭の印がついていたという。彼女はその力を使って魔族が入れないよう結界をはり、平和をもたらした。そのため神殿には、「鈴蘭の聖女」を祀るための「鈴蘭の部屋」が作られたという。
鈴蘭の聖女がいなくなった後、結界は弱まり、また魔族の侵攻を許してしまった。そのため、また『鈴蘭の聖女』を作り、結界をはり直した。それから代々『鈴蘭の聖女』が「鈴蘭の部屋」で祈りを捧げ、結界をはりなおしているという。
「つまり、『鈴蘭の聖女』が祈りを捧げることが大事だということか。」
それだけなら、あの娘を他の部屋に移動し、祈りを捧げていれば問題はない。が、『鈴蘭の聖女』には会っていないと言い張るなら、いてもらっては困る。かと言って、追放した後に見つかっても困る。
パラパラと文献を見ているうち、神官長の手はある場所で止まった。魔族と通じ、結界を解こうとした『鈴蘭の聖女』がいたというのだ。彼女の鈴蘭の印を焼いたところ、鈴蘭の印は消えた。そして新しい鈴蘭の聖女を作成することに成功した、とある。
「なるほど。あの娘の印を消せばいいのか。」
同じように魔族と通じたと嘘をいって、印を消しておけばいい。
どうせ話せない娘だ。自分たちが何をしたとしても、伝える術はない。
彼がもう少し注意深く文献を読み解けば、何かおかしいと感じたかもしれない。王太子の来訪という現実に目が眩んだ神官長は、シェスタの印を消す方法を考え始めた。
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