(51)進むべき道
やっと王太子出せました。
「どうなってるんだ、こりゃあ……」
ザック達が降り立ったのは、王城の正門前だ。ここを通った覚えがある。王城の上の部分はすっぱりと切れたようになくなっている。
「おいおい、道路の真ん中にいたら、邪魔だろう!」
瓦礫を台車に載せた職人らしき男が、ザック達を見て怒鳴った。
「あ、ああ。済まない。」
ザック達が道の端に避けると、男は忙しそうに台車を走らせていった。
「近衛兵はいないのか?」
王城ならば必ずいるはずだ。スリナーが辺りを見回すが、姿は見当たらない。
「すみません。私は神殿に行ってきたいと思います。」
ミューが眼下に広がる街の方を向いて言う。街はここから見た限りでは特に変わった様子はない。
「分かった。ついでに宿を取っておいてくれないか。」
以前ここに来た時の宿の名前をザックはミューに伝える。ミューは頷くと、街へと降りていった。
「とりあえず、偉い人を探してみるか。」
ザック達はそのまま王城の中に入る。あちこちに穴の開いた石畳がずっと続き、職人らしき男が何人も忙しそうに動き回っている。
「その瓦礫を小さくしたら、外に運べ。そっちの石畳の補修も急げよ。」
その中で指示を出していた男を見つけてザックは近づいて行った。
「忙しいところすまないが、ここで何が起こったのか教えちゃくれないか。」
「ああ?」
男はイラっとした顔でザック達を睨んだ。
「どうもこうもねえ。魔族が襲ってきたと思ったら城が壊れたんだよ。騎士団は瓦礫の下敷きになるし、国王陛下は、ショックが大き過ぎたらしくてな……」
そこまで話で、不敬になると思ったらしい。男は一旦言葉を止めて咳払いをする。そのあと何食わぬ顔で付け加えた。
「今は王太子殿下が指揮を取ってるよ。」
「王太子殿下は何処にいらっしゃるのだ?」
スリナーの言葉に男は城へと顎をしゃくった。
「城の中にいるよ。会えるかどうかは知らんがな。」
城の入り口には流石に近衛兵が立っていた。
「我々は王の命により、ギルニスへと行った者だ。報告したいことがあって訪れたが、王太子殿下にお会いすることは可能だろうか。」
ザックの話を不審そうに聞いていた近衛兵は、不審そうな顔をしていたが、奥に話を通すと、急に態度が変わった。
「王太子殿下がお会いになるそうだ。」
ザック達が通されたのは、王城の一室。王太子はうず高く積まれた書類の中で、仕事をしていた。ザック達がきてもお構いなしだ。
「仕事をしたままですまない。私一人でできる仕事の量を超えていてな。君たちは、聖女を連れ戻しに行った勇者一行だろう?」
ザック達は王太子が仕事をしている机の前に跪いた。下を向いている王太子の表情は分からない。
「はい。聖女様にお会いすることができました。」
その一言で、王太子の手が止まり、王太子の顔がザック達の方を見る。随分やつれて見える。
「そうか。聖女様にお会いしたのか。息災でいらしたか?」
王太子なのに随分聖女に対して恭しい言葉を使ってくる。
「はい。お元気でいらっしゃいました。」
その言葉に、王太子は大きく頷いた。
「そうか。それならばいい。我々は、聖女様に対し、ひどいことを行なってしまったからな。委細は聞いているか?」
「……聖女様の口からは。」
ひょっとするとホロネリア側の言い分もあるのかもしれない。そう思ってザックはそう言ってみたが、王太子はまた頷いただけだった。
「もう聖女様を頼ることはしない。私はそう決めている。女神様もしばらくはご降臨されないだろう。自分たちで責任を取らなければな。」
「……しばらく国を離れておりましたゆえ、現在の状況がわからないのです。教えていただけますか?」
王太子は、ふうっとため息をついて、上を見上げた。
「国中に瘴気が溢れ、魔物が出現している。神殿の神官と聖女達だけでは追いつかなくてな。騎士団のほとんども魔物退治に出している。瘴気のせいか、農作物の出来が悪い。このままでは今年の冬は……。」
王太子は言葉を切ると首を振り、目頭を指で押さえた。ホロネリアはかなり危機的状況なのだ。
ザック達の目の前だったと気づいた王太子は弱々しく笑みを浮かべた。
「せっかくギルニスへ行ってもらったのに申し訳ないが、今その方たちに出せる報酬がないのだ。何か渡せるものでもあればよかったのだがな。何かあったら便宜を図るゆえ、その時は城に来てもらいたい。ああ、そうだ。」
王太子は自分の胸ポケットに入っているハンカチを取り出すと、ザックへと手を伸ばした。ザックが恭しく受け取ると、そこには王家の紋章が刻まれていた。
「これを持っていれば、近衛兵もすぐに通してくれるはずだ。」
「ありがとうございます。ではこれで……」
他に言葉が見つからないまま、ザック達が退席しようとすると、と文官らしき男が、書類を抱えて入ってきた。
「王太子殿下、隣国から、農作物の交易についての書類が届いております。」
「わかった。すぐに目を通す。」
王太子は書類を受け取ると、すぐに目を通し始めた。休む暇もないのだろう。それでも真摯にこの国の未来を思っていることは伝わってきた。
ザック達は黙って、王城を出ることにした。
夜。ミューが取った宿に、全員が集合した。
「ミュー。神殿の様子はどうだった?」
ミューは何かを吹っ切ったような顔をしていた。
「王都の神殿は、聖女様を虐げていたのです。おかげでほとんどの者が神殿を追われていました。今は地方から集められた神官と聖女達が民の救済に動いていました。
」
ミューが胸元から聖女の像を取り出す。鈴蘭を持った白い聖女の像だ。
「それは?」
「シェスタ様がお祈りを捧げていた像だそうです。聖女様が入れられていた物置部屋に置いてあったとか。」
ミューは大事そうに、その像を机の上に置く。
「聖女様はこの像に、幼い頃からずっと祈りを捧げていたそうです。私は、むしろこの国を守ってこられたシェスタ様に祈りを捧げたい。そう思ってもらってきました。」
「なるほど。お前の信仰はシェスタ様に捧げられるわけだな。」
「ええ。」
自分の進むべき道を決めたということだろう。それで吹っ切れた顔をしていたのか。
「私は……王太子殿下を支えたいと思う。明日もう一度王城に行って来ようと思う。」
そう言ったのはスリナーだ。
「そういえば、お前は元貴族だったな。」
「ああ。何かしらできることはあるはずだ。」
「そうか。」
ザックはスリナーに王太子から貰ったハンカチを渡した。
残るのは、ザックとアイズの二人だ。しかし、ザックもまた、自分の道を考えていた。
「俺は、魔物退治に行こうと思うんだ。今の俺ならそうそう負けはしないだろうからな。」
あの城で一年戦えたのだ。普通の魔物にやられることはない。
元々ザックは冒険者だった。それが自分には一番しっくりくる気がした。
「仕方ないから、私も一緒に行ってやるよ。ついでに美味しい魔物の見分け方でも教えてやったらいい。少しは冬の食糧の足しになるだろう。」
アイズが手を上げる。
「一緒に来てくれるとはありがたいな。」
「それは、私も思っていた。王太子殿下にも明日奏上するつもりだ。」
スリナーも言う。スリナーの言葉であれば王太子も聞いてくれるかもしれない。
「私も、一緒に行きます。戦いにではなく、魔物に襲われた人々を助けに。」
ミューも立ち上がった。
「決まりだな。」
ザックはみんなの顔を見て頷いた。
次回はシェスタ視点に戻ります。
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