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(50)帰還

昨日はお休みをいただいてしまいました。


「実は、皆様が城で戦っていた頃、私は神官長の企みによって、ホロネリアの王城に転移させられました。」

 シェスタの言葉に、ザックが吐き捨てるようにいう。

「そういうことか。なぜあの男がついて来たのかよく分からなかったんだ。俺たちの監視かと思ったら、そっちが目的だったんだな。」

 その後神官長の姿を見ていない、ということは……とザックは魔王をチラリと見たが、表情を変えぬまま、悠然とお茶を飲んでいる。

「そこで私はもう一度『鈴蘭の聖女』にさせられるところだったのですが……。」

 なぜか変なところでシェスタが言い淀む。

「魔王様が助けてくれたんじゃないのか?」

 全員の目がレギウスを向くが、レギウスは肩をすくめただけだ。

「私は何もしていない。むしろ、女神から助けてもらったのが私だ。まあ、騎士団と多少戦いはしたがね。」

「はあ?」

 ミューは目をむいた。信仰の対象である女神が、シェスタに敵わない。そんなことがあるのだろうか。そう思いながらも、心の片隅ではなぜか納得している自分がいた。ホロネリア全体に結界を貼り続けていたのだ。魔力の量が異常なまでに増えてもおかしくはない。


「女神様は、信仰の力が強さの源ですから。ただでさえ結界がなくなり、神殿への敬意も落ちていた。だから私が勝てたのだと思います。」

 シェスタが恥ずかしそうに言う。

「いやいやいや……。」

 スリナーが引いている。おそらくこの中で一番強いのは魔王ではない、シェスタだ。それを全員が理解した。そんな皆の思いには気がつかないまま、シェスタは続ける。

「それで私は魔王城に戻ってきたのですが、おそらくホロネリアはかなり良くない状況だと思います。一応、皆様にはそれをお伝えしておいたほうがいいと思ったんです。」

「王城も半壊しているからな。王が生きているかも微妙なところだ。」

 誰かがごくりと唾を呑んだ。王がいなければ、魔王を討伐したところで褒美がもらえるわけがない。

 そんな状態であれば尚更だ。

 ザックは皆の顔を見る。誰もが途方に暮れた顔をしていた。

「……俺たちだけで、今後のことを話させてもらってもいいか?」

「もちろんです。皆さんはむしろ巻き込まれた立場ですので、できるだけのことはしたいと思っています。」

「明日の朝、話を聞こう。それでいいか?」

 レギウスの言葉にザックは頷いた。


「んで、どうする?」

 部屋の寝台に寝そべりながら、スリナーが聞いた。流石に女性陣の部屋に行くのは気が引けたので、ザックとスリナーの部屋に全員が集まっている。見たことのないようなふかふかのソファの端っこにミューとアイズは小さくなって座っていた。ザックはウロウロしていたが、結局立っていることに決めたのか、壁に寄りかかっていた。

「私は、神殿に行きたいです。行って本当のことが知りたい。」

 ミューが固い顔のまま言う。神殿で聖女として働いていたのだから、あの話はショックだったのだろう。

「上の方のやつは、自分に都合の悪いことは隠したがるからな。あまり期待しない方がいい。」

「それは、あなたの経験ですか?スリナー。」

 スリナーはそれに答えず、ミューたちに背中を向けた。

「ホロネリアの状況が気になるのは確かだな。俺たちがいない間にどう変わっちまったのか……。」

「結界がないと言うことは、魔物もあちこちに出ている可能性がありますね。強い魔物が出ていないといいのですが。」

 アイズの言葉にザックは押し黙る。結界があれば、と思ってしまう自分がいる。しかし、あの結界は、シェスタの話を信じるならば、シェスタの犠牲の上で成り立っていたのだ。それを今まで通りやってくれとはザックには言えない。ミューが膝の上の手をギュッと握りしめた。


「今までが平和すぎたのです。私たちは聖女様の力を当たり前のように使っていた。それをおかしいと思わなければならなかったんです。」

 重苦しい空気が部屋中に満ちた。

 過去には戻れない。それなら、現在をなんとかするしかない。そのために自分は冒険者を始めたんじゃなかったのか。

 ザックは壁から背中を離し、皆に言う。

「だからってこのままホロネリアが滅びるのを見ているのも嫌じゃやないか?多分俺たちがここにいたいと言ったら、あの聖女様は置いてくれると思うが。」


「そうね。そもそも国を救うためにここに来たんだものね。」

 アイズも何かを吹っ切ったようだ。


「俺たちじゃないと、多分魔物の討伐は難しいだろうからな。」

 スリナーも寝台から起き上がってザックのところにやってきた。

「よし。じゃあ、一度ホロネリアに帰ろう。状況を確認して、自分たちのできることを探すんだ。」

「了解!」

 全員の声が揃った。


 翌朝、ザックはレギウスとシェスタに、ホロネリアに帰ることを告げた。シェスタは頷いてそれを受け入れた。

「わかりました。私はあの国を出た人間ですから手伝いはできませんが。」

 そう言いながら、シェスタは銀色の細長い笛をザックに渡した。

「これは?」

「吹けば有翼人が来てくれます。あなたたちを行きたいところに連れて行ってくれるように頼んでおきます。ただ、彼らに危害を与えないでくださいね。彼らはただの商人ですから。」

 おそらくここに連れてきてくれた有翼人たちだろう。

「ありがとうございます。」

 ザックはレギウスとシェスタに頭を下げた。他の三人もそれに倣う。

「せっかくだから、行きたいところまで飛ばしてやろう。どこがいい?」

 レギウスが言うと、ザックたちが立っている場所に魔法陣が現れた。

「では、王都まで。」

「分かった。」

 レギウスが指を振ると、魔法陣は光で溢れ、光の粒子がザックたちを包み込んだ。あまりの眩しさに、ザックたちは目を瞑る。

 恐る恐る目を開けたザックたちが見たのは、壊れたままのホロネリアの王城だった。








読んでくださり、ありがとうございます。

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