(48) 風呂と晩餐
勇者一行の話がどんどん長くなります……
魔王城の入り口に降ろされたザックたちは立つこともできず、へたりこんでいた。長い飛行は、思ったよりもザック達を疲れさせていた。
「……いやあ、まさかこんな体験ができるとはね。」
乾いた笑いを浮かべながら、アイズが呟く。視線はまだ空の方に彷徨っていた。
「俺たち、こんな広いところにいたんだな……。」
スリナーもしみじみと言う。
「おや、皆様大丈夫ですか?」
そこに入り口から、ニルダが現れた。ザックはぞくりとした。
さっき会った奴と強さが全く違う。思わず唾を飲み込んで尋ねる。
「誰だ、お前……。」
「先ほども自己紹介は致しましたが……。ああ、先程皆様の前におりましたのは、私の分身です。あまり遠いと難しいのですがね。お疲れのご様子ですので、まずはお風呂などいかがでしょう。その後魔王様と聖女様とご一緒に晩餐という予定になっておりますが。」
「魔王と晩餐……。」
ミューが不思議な言葉を聞いたかのように呟く。ザックも全く同意見だ。倒す相手が何故か自分たちを招待しようとしている。
「武器を取り上げることはいたしません。危険だと思ったら攻撃していただいても結構ですよ。」
にこやかに笑うニルダを見て、ザックは降参したように手を上げた。どう考えても勝てる気がしない。
「分かったよ。ミューに綺麗にしてもらってはいたが、風呂に入れるのは正直ありがたいね。」
「お風呂……。」
噛み締めるようにその言葉を呟いていたのはアイズだ。よっぽど嬉しいのだろう。
「念の為お伺いしますが、男性と女性は別々でよろしいですか?」
どういう質問だ。
「別々でお願いします!」
ミューが赤くなりながら、キッパリと答えた。
風呂に入ってさっぱりした四人は、新しい服を与えられた。貴族の着るような高級で上品な服に耐えられないのか、ザックはさっきから首元を引っ張って緩めようとしている。
ミューとアイズはお風呂で磨き上げられ、いつもよりも女っぷりが上がっている。
「こんなに髪がツヤツヤになったの、いつぶりかしら……。」
「お肌もしっとりよ。やっぱりお風呂はいいわね。」
「こんな綺麗なドレス、初めて着たわ。」
「あら、似合ってるわよ。」
どこまでも会話の終わらない二人から目を逸らすと、スリナーの姿が目に入った。元貴族だと言っていたスリナーはこの服も窮屈ではないようで、むしろむっつりと黙り込んでいる。
「ご用意が整いました。こちらへどうぞ。」
ニルダが案内したのは、思ったよりも小さな部屋だった。反対側にも扉。真ん中に大きな丸いテーブルと椅子。それだけがある。魔王と聖女はまだ来ていないらしい。
「お嬢様が皆様方とお話ししたいとのことでしたので、このような部屋になっております。どうぞ。」
勧められるままに座る。お酒を勧められたが、断った。どんな話が出て来るのか分からないのに酔っていたのでは判断が鈍る。それではとニルダが持ってきたのは、果実水だ。一口飲んで、その甘さに思わず目を見張った。
「この国には、こんな美味しい果物があるのか?」
スリナーが尋ねると、ニルダは首を振った。
「いえいえ。こちらは海の向こうのピカールという国の特産品でございます。この前ちょっとしたお礼にたくさんいただいたものですから。」
空を飛べる魔族なら、海の向こうへと行くのも容易いのだろう。ザックがそう考えていると、奥の扉が開いた。黒の真っ直ぐな髪を伸ばしたこの男が魔王だ。ザックは直感したが、立ち上がることもできなかった。あの男には今の自分では到底勝てない。それが分かってしまった。横には小柄な茶色の髪の女性が立っている。
「聖女様……。」
ミューが呟いた。その声が聞こえたのか、女性はミューの方を向いた。
「私はもう聖女ではありません。前は『鈴蘭の聖女』と呼ばれていましたけれど。」
魔王と共に座った女性はシェスタと名乗った。
「誤解があるようなので、先に言っておきますが、私は魔王様に攫われてはおりません。」
まあそうだろうな、とザックは思った。攫われたのなら、魔王と一緒に出てきたりはしないだろう。
「ではなぜ国王は聖女様を救うように命令を出したのでしょう。」
ミューの質問に、シェスタは目を伏せた。
「それは、私がずっと『鈴蘭の聖女』としてホロネリアの結界を張っていたからです。神官長様に辞めさせられるまでは。」
「辞めさせられた……?」
給仕が静かに入ってきて、食事の皿を置いていく。最初はシチューのようだ。
シチューを飲みながら聞いた聖女のこれまでは、衝撃でしかなかった。特にミューは体を震わせている。
「つまり、シェスタ様は女神に声を捧げることで国全体に結界を張っておられたたと云うことですか。」
「そのようですね。幼い頃からずっとしていたことなので、私も全く意識はしておりませんでしたが。」
「……結界がなくなった後から、全ての神殿に力の強い聖女を王都に送るよう命令が出ました。あれは、そう云うことだったのですね。」
「おそらくは。そして私の代わりを務められる者がいないと分かった国王は、私を連れ戻そうと皆様方に嘘を言ったのです。」
シチューはとろけるように美味しいが、話の重さに半分くらいしか味が分からなかった。皆のその様子を感じ取ったのか、シェスタが苦笑する。
「ごめんなさい。美味しい食事の前でする話ではなかったですね。残りの話は食事が終わってから、と云うことでよろしいですか?」
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