(46)勇者と魔物
建国祭の祭礼も終わり、シェスタ達がギルニスへと帰る日がやってきた。アステリアは昨日から荷物の整理に大わらわだ。自分たちが買ったものに加え、バルドやブラニー商会から、迷宮のお礼だとたくさんのものを貰ったからである。
オルソンと大量の荷物はこれから船で帰国することになる。
迎賓館にはバルドやオルソンがやってきていた。
「また来年の建国祭にも来るといい。アステリアも連れてな。来年も迷宮を作ってくれと、今からあちこちで要望が出ているのだ。」
「それは私が責任を持って執り行わせていただきます。」
オルソンが恭しく頭を下げる。頭の中ではきっと金貨がジャラジャラと落ちていく音が聞こえているに違いない。
レギウスがふんと鼻を鳴らす。
「ギルニスでも迷宮を作るからな。待てない客はそっちにくればいいのだ。」
「たくさんお客が来てくださるよう、張り切らないといけないですね。」
シェスタがにこやかに答えると、バルドは大笑いした。
「シェスタ殿もギルニスを背負って立つ気になったと見えるな。これはうかうかしていられん。」
「バルド様のようになれるよう、精進します。」
くい、とシェスタの腕が引かれる。レギウスだ。
「そろそろ戻るぞ。」
「はい。皆様、お世話になりました。」
シェスタがお辞儀をすると、バルドが手をひらひらと振った。
「また来るといい。なんならレギウス抜きで……。」
言葉の途中でピカールの風景は消え、魔王城の自分の部屋へと切り替わった。
「魔王様。まだ挨拶の途中でしたよ。」
アステリアが言うと、レギウスはそっぽを向いた。
「……あいつの話は長いからな。それよりもお茶だ。」
レギウスがそれだけ言うと、ソファへと座った。
「かしこまりました。」
アステリアがお茶の準備をするために部屋を出た。
シェスタも座って自分の部屋を見回す。いない間にもちゃんと掃除をしてくれていたのが分かる。懐かしい景色だ。思えばかれこれ一ヶ月ほど旅に出ていたのだな、とシェスタは思った。それと同時に肌寒さが襲ってくる。ピカールは一年中夏だが、こちらは冬なのだ。向こうの服では寒すぎる。シェスタは慌てて衣装部屋に行くと、羽織るものを持ってきて肩にかけた。
そこに扉を叩く音が聞こえた。どうやらニルダがレギウス達の帰還を察知したらしい。
「入れ。」
レギウスの言葉の後、ニルダが入ってくる。
「おかえりなさいませ。ピカールはいかがでしたか?」
「とても楽しかったわ。ニルダを連れて行けなくて残念だったもの。せっかくだから今度は城ごとピカールに行くというのはどうかしら。」
シェスタの提案にニルダは苦笑する。
「流石に城ごとですと、外交的にまずいのではないかと思われます。それに留守番がいないのも何かあった時に困りますからね。」
「お茶の準備が整いました。ああ、ニルダ。変わったことはなかったかい?」
アステリアも見知った顔に久しぶりに会ったのが嬉しかったのか、ニルダを見て顔を綻ばせる。
「何もなかった……と言いたいところなのですが。」
「どうした?」
レギウスの一言に、ニルダはチラリとシェスタを見る。
「ゲオルグが敗れました。勇者の一行がこちらに向かっています。」
ゲオルグはニルダから生まれた偽の魔王城の本体であり、今まで勇者達を城の中に閉じ込めていたらしい。そのことをシェスタは初めて聞かされた。というか、女神を撃退した後、勇者のことをすっかり忘れていたのだ。
「よくあの城から出られたものだな。人間の割には大したものだ。」
レギウスがお茶を飲みながら感心したように言う。しかし、シェスタには気になっていることがあった。
「その、神官長は……。」
シェスタが恐る恐る尋ねる。自分を転移させた神官長が生きているとなれば、何をしてくるか分かったものではない。今は負ける気はしないけれど。
「ああ。あの後魔物にやられてしまったようですよ。」
ニルダがさらりと言う言葉に、シェスタは複雑な気持ちになりながらも密かに安堵した。
「勇者達は城の中の魔物を全て倒し、ゲオルグの核を見つけて破壊したそうです。城の中での成長が著しく、ゲオルグの罠が役に立たずに瞬殺されたとか。彼らは食糧の代わりに魔物を食べて生き延びたそうですよ。」
ニルダがゲオルグから送られてきた情報を説明した。
「魔物って食べられるの?」
シェスタが首を傾げる。魔物が食べられるとは聞いたことがない。
「毒のあったり、臭みがひどくて食べられないものもおりますが、美味しいものもおりますよ。美味しい魔物がいると知られたら、人間も魔物を見る目が変わるかもしれませんね。」
ただでさえホロネリアは食糧危機だ。魔物が食べられると知ったら、すぐにでも討伐が始まるだろう。
「お嬢様の食事にも使われておりますよ。シチューに入っていた肉は魔物です。」
「え?」
ほろほろと口の中でほどけていく肉が美味しくて、シェスタのお気に入りだったシチューに魔物が入っていたとは。その味を思い出して、シェスタは思わずごくんと唾を飲んだ。
「思い出したら、シチューが食べたくなったわ。」
「では、今日の夕食はシチューにいたしましょう。料理人に伝えておきますね。」
ニルダが咳払いをする。話がそれてしまっていた。
「ところで、勇者達の扱いはどのように……。」
「そうだな。せっかくだからこの城にご招待するとしよう。どんな強者になったのか、見てみたいからな。」
レギウスは不敵に笑った。




