(45) 迷宮と建国祭
アステリアの作った迷宮は、白い壁だけでできている。本来であれば魔物なども住まわせるのだが、今回それは入れていない。ただ、踏破することを目的にした迷宮だ。
アステリアはレギウスに迷宮の中の様子を説明している。
「お嬢様にバルド様が追いついて、一緒に謎を解いていますね。ああ、行き止まりに見せかけた通路をバルド様が見つけたようです。お嬢様が喜んでおられます。」
そこまで話したところで、アステリアは口をつぐんだ。レギウスからほんのりと冷気が出ている。
「もうすぐ出口まで辿り着くと思いますよ。」
慌ててそれだけ付け加えると、アステリアはちょっとだけ迷宮の出口を近くした。あまり遅いとレギウスが迷宮に入ると言い出しかねない。
「出られたわ!」
嬉しそうな顔をしてシェスタが出てくる。その後からバルドも続いた。
「なかなか凝った仕掛けがあって面白かったな。」
「ええ。まさか行き止まりに通路があるとは思いませんでしたわ。」
いまだに興奮冷めやらぬ様子で、話が盛り上がるシェスタとバルドだが、レギウスから出る冷気に二人とも気がついた。
「なんだレギウス。お前も入りたかったのか?」
「別にそんなことはない。」
むっつりとした顔でレギウスが答える。
「壊してしまうのでしたら……ギーになって私と一緒に入ります?それなら壊すことはできませんよ。」
「……いや、いい。シェスタも楽しめたようで何よりだ。」
一瞬顔がほころびかけたようにも見えたが、気のせいだったらしい。それでも少し機嫌が直ったようで、アステリアは安心した。
「なあ、レギウス。ものは相談だが、この迷宮をこの国の祭りでやってみないか?これはなかなかに面白い。」
「この迷宮を……ですか?」
驚いた様子なのはアステリアだ。
「ああ。せっかくだから屋外に設置してもっと広くするといい。隠し扉に宝を隠してもいいな。こんなものが隠されていますよ、と最初に伝えておけば、お宝目当ての奴らも集まってくる。」
「素敵!きっと評判になるわ。」
アステリアとバルド、シェスタの期待に満ちた視線を一身に集めたレギウスは、大きくため息をついた。
「いいだろう。シェスタがやりたいことにも近いようだしな。」
「私がやりたいこと……?」
シェスタが聞くと、レギウスはもまた首を傾げる。
「ギルニスの良いところを見せたいのだろう? ギルニスにはこんな楽しいものがあると思ってもらえれば、ギルニスに行ってみたいと思う物好きな奴も出てくるかもしれん。」
「確かに……。」
わざわざ新しく作らなくても、他の人にとって魅力的なものはあるはずだ。変えることばかり考えていたシェスタは恥ずかしくなった。
「本当に、私の作った迷宮なんかでよろしいのですか?」
アステリアがまだ信じられないというように呟く。
「もちろんよ!本当に楽しかったもの。それにこれは簡単なものなんでしょう?」
「ええ。場所も狭いですからね。外でしたらさらに広い迷宮を作れますよ。階段をつけて段差も作れますし。宝の隠し場所もいくつか作っても面白うございますね。」
「全部の宝を集めると、さらに良い宝が手に入る、というのも面白いかもしれんな。」
「迷宮についてはブラニー商会にも手伝ってもらうといい。」
「じゃあ、早速ブラニー商会に行かない?お買い物もしたかったし。」
「ようございますね!では早速支度をいたしましょう。」
トントン拍子に話が進み、支度のためにシェスタとアステリアは部屋へと戻っていった。
「ところで、祭りというのはいつ行われるのだ?」
レギウスの質問に、バルドが拍子抜けしたような顔になる。
「七日後に建国祭が行われる。そこに向けての国賓だと思っていたんだが、違ったのか?」
レギウスにとって他国の祭りなど全く興味のないことだったが、今は国賓だ。多少は取り繕う必要がある。
「……しばらく封印されていたのでな。その辺の細かいことは覚えていなかったのだ。」
「建国祭の日も、宮城で祝ってもらう予定だ。そこは忘れないでくれ。」
どうやら自由時間はあまりないらしい。レギウスは渋々頷いた。
そして建国祭の日。迷宮の前には長い行列ができていた。迷宮の奥底にはかつての勇者が持っていた盾が眠っているらしいとか、あちこちに隠されているオーブを集めると、願い事が叶うらしいとか、噂が尾鰭をつけて広まったからだ。
入口ではブラニー商会の人が、忙しそうにしながらも喜びの涙を流している。迷宮に入れた宝はほとんどがブラニー商会にあった在庫品だ。価値が高くて値段も高いが、欲しがる人が少ないもの。全員が手に入れられるわけではないから、これだけ客が来れば、元も取れるし、倉庫の在庫も減る。ありがたいことだらけだ。
「こんなに儲かるなんて、夢のようです!シェスタ様を今度から女神様とお呼びしたいです!」
ブラニー商会の従業員は、今やシェスタを崇め奉っている。
「女神はちょっと……。」
女神には、いい印象のないシェスタが苦笑した。アステリアはそ
の横で、客が入っていく様子を満足気に眺めている。
「こうやって皆に楽しんでもらえると、作った甲斐があります。今日で終わってしまうのが残念ですけれど。」
名残惜しそうにアステリアが言うと、シェスタがアステリアを見上げた。
「なにを言っているの?ギルニスに戻ったら、また作りましょう?今度はハイトの近くに。そうしたら、ギルニスを訪れる人も増えると思うの。」
アステリアはなんだか熱いものが胸の中に湧き出るのを感じた。しかし、それを表には出さず、シェスタにそっと囁いた。
「皆さん、船酔いにならないといいですね。」
その一言で、シェスタは思わず赤くなる。
「それはもう忘れてちょうだい。」
そう言いながらも、帰りはレギウスに一気に送ってもらうことになっているのだった。もう気持ち悪いのは懲り懲りなシェスタだった。
「そろそろ時間だ。行くぞ。」
レギウスがシェスタに声をかける。これから宮城で建国祭の祭礼が行われるのだ。シェスタとレギウスはそこで来賓として祝辞を述べることになっている。シェスタは気を引き締めて、レギウスの後に続いた。
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