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(44)アステリアと迷宮

シェスタの手伝いがしたいと、アステリアが動き始めました。

 アステリアの乗った船がそろそろ到着すると聞いて、シェスタは船着場に来ていた。かなり近くまで来ていた船の上にアステリアを見つけ、シェスタは大きく手を振った。それに気づいたアステリアも大きく手を振りかえす。


 階段から降りてきたアステリアに、シェスタは抱きついた。


「アステリア、待っていたのよ。」


「お待たせいたしました。お嬢様方がいらっしゃらない船の上はもう暇で暇で……。」


「今日からは一緒に町を回りましょう?楽しいものがたくさんあるのよ。買い物もしましょうね。」


「もちろんですとも。ところで、魔王様は一緒にはいらっしゃらないのですか?」


 アステリアが周りを確認するが、レギウスの姿はない。


「魔王様は、今頃ピカールの城を直しているはずです。」

「城を直す……?」


 アステリアの疑問をそのままに、シェスタは迎賓館へと向かって歩き出した。国賓待遇になったため、そちらに宿泊することになったのだ。


「みろよ、あれがシェスタ様だ。」

「あの美しさで、魔王様よりもお強いとか。」

「しっ。怒らせると恐ろしい魔法を使われるらしいぞ。」


 周りの視線が何故かシェスタに集まっている。珍しい客がいる、という感じよりも少し恐れているような顔だ。

「お嬢様?私がいない間に、一体何があったんです……?」



「……なるほど。晩餐会でそんなことがあったのですね。」

 迎賓館に到着し、荷物の片付けが終わったアステリアは、シェスタにお茶を入れながら、話を聞いた。ピカール特産の果物の香りがするお茶だ。


「甘い匂い。果物を少し入れるだけでこんなにも変わるのね。」


 カップを手に取り、うっとりとした顔でシェスタはお茶の香りを楽しんだ。アステリアも嬉しそうだ。


「ええ。ブレンドしても面白そうです。ぜひたくさん買って帰りましょう。」

「もちろん。ニルダの好きそうなものも探しましょうね。」


 アステリアの入れたお茶を楽みながら、シェスタは魔族の国、ギルニスのことを考えてしまう。


「ねえ、アステリア。アステリアはギルニスがピカールのようになって欲しいと思う?美味しいものがたくさんあって、寒い冬もなくて、色とりどりの花が咲くの。」


「そうですねえ……。」


 アステリアはしばらく考え込んだ。


「突然そんなになったら、喜ぶよりも驚いてしまうでしょうね。」

「でも、なったら嬉しい?私、ギルニスを良くする方法を考えたいの。」

「良くする、とは?」

「そうね。ギルニスに住んでいる魔族達が、自分たちの国を自慢できるようにしたいわ。」


 自分の国の良いところを嬉しそうに話すバルドや他の種族の顔がシェスタには印象的だったのだ。


「私が魔王城に来る前の話はいたしましたか?」

「聞いたことがないわ。どんなところにいたの?」


 アステリアの昔の話に、シェスタは目を輝かせた。


「私はそれまで、地下に作った迷宮の中で番人をしていたんですよ。宝を見つけては迷宮の一番奥にせっせとため込んでいたんです。迷い込んできた旅人が一番奥にたどり着けるのか、それを眺めているのが楽しくてねえ。」


 自分の迷宮が踏破されてしまうのか、それとも迷わせて自分の勝利となるのか。そのゾクゾクする駆け引きがアステリアはたまらなく好きだった。ただ、迷宮に来る旅人がいなくなったから、レギウスに言われて魔王城に来たのだ。


 辿り着けなかった旅人の持ち物はそのまま迷宮の宝にしていたのだが、そこについてはアステリアは沈黙を保った。そのくらいの役得はあってもいいと思うが、シェスタに嫌な顔をされるのは嫌だからだ。シェスタは黙って話を聞いている。


「そこには別に美味しいものも、花もいらなかったですね。お嬢様が喜ぶなら花も美味しいものも、いくらでもご用意いたしますけど、魔族がみんなそれが好きかというと、そんなことはないと思うんですよ。」


「そうね。好きなものって、皆違うものね。ありがとう、アステリア。考え直してみるわ。」


 そう言って笑うシェスタの顔が少し気落ちしているように見えて、アステリアは慌てた。


「もちろん、魔王城の周りをそうしたって、誰も怒りはしませんよ。魔王様の縄張りで何をしようが、それは魔王様の勝手ですから。ほら、料理人達も安く野菜が手に入ったと喜んでたじゃないですか。」


「ええ。でも一つ分からないことがあるの。」

 シェスタが真面目な顔になったので、アステリアは思わずごくりと息を呑んだ。

「なんですか?」


「迷宮ってなに?」



 壊してしまった宮城の天井を直してバルドと共に迎賓館に戻ってきたレギウスは、呆気に取られた。大広間の前でアステリアが怒っていて、シェスタがそれを宥めている。


「お嬢様はずるいです!それじゃつまらないじゃないですか!」

「ごめんなさい。口に出したらつい……。次は口に出さないようにするから。ね?」

「次にやったらもう出しませんからね?」


「どうしたんだ?」


 レギウスの声に二人はレギウス達をみると、慌てて礼をした。


「これは失礼いたしました。まさか、バルド様までお見えとは。」

「よいよい。シェスタ殿のご機嫌伺いに参っただけだ。ところで侍女がシェスタ殿に怒っていたように見えたが、何事か?」


 侍女が仕える者に怒るのは本来あり得ないことだ。慌ててシェスタが弁明する。


「違うのです。これは、私がうっかり力を使ってしまったのが悪いんです。」


 アステリアもまだ怒りがおさまっていないようで、ふんと荒い鼻息を吐いた。


「そうですよ。迷宮の解き方を迷宮に答えさせるんですからね!魔王様が全てを破壊して進んだ時もどうかと思いましたけど、お嬢様のやり方の方がさらに酷いです!」


 レギウスはその言葉で何かあったか理解した。バルドに簡単に説明する。


「アステリアはミノタウロスでな。迷宮を作れるのだ。」


 それだけで、バルドは納得した。


「……なるほど。シェスタ殿の力は言葉に宿るから、『どちらに行けばいいの?』と聞いてしまえば。」


「迷宮が答えを教えてしまうのだな。確かに、それはシェスタが怒られても仕方がない。」

「そうですよ。せっかく頑張って作ったのに!」


 思い出したのか、アステリアが足を踏み鳴らしながらまた怒る。


「だってアステリアの謎が難しかったんだもの。でもとっても楽しいわ。だからもう一回!ね?」

「……ズルはなしですからね?次やったらもう作りませんからね?」

「もちろんよ!」


 アステリアはため息をつくと、大広間に両手をかざす。しばらくすると白い霧のようなものが現れ、大広間は白い壁に覆われた空間になっていた。小さな入り口だけが誘うように開いている。


「向こう側の入り口が出口になっていますからね。そこまで行ければお嬢様の勝ちです。」


 シェスタが弾むような足取りで中に入っていった。

「……私もやってみていいか?」


 興味をそそられたのか、バルドが尋ねてくる。


「構いませんが、それほど難しくはございませんよ?」

「なに、迷宮とやらに入ったことはないのでな。試してみたい。」

「……壊さないでくださいね。」


 バルドに続いて入ろうとしたレギウスの前で、アステリアは入り口を閉じた。


「魔王様は壊すからダメです。私と一緒に出口でお嬢様をお出迎えいたしましょう。」


読んでくださり、ありがとうございます。

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