(41)身支度
すみません。寝落ちしました。夜も上げる予定です。
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ブラニー商会の建物は、大通り沿いにあった。かなり大きな建物だ。
レギウスたちを迎えにきたと言う男は、先ほどからひたすら頭を下げている。
「こちらにお着き次第、ここへと案内するようにと商会長から言われておりましたが、遅れてしまい、申し訳ございません。」
「構わん。あの馬鹿が出す威圧で近づけなかったのだろう?」
「……本当に申し訳ございません。」
男はさらに深々とお辞儀をした。
レギウスの言うあの馬鹿、と言うのは、おそらく竜族の代表、バラドのことだろう。周りの人が遠巻きに見ていると思ったら、どうやらバラドの威圧で皆近づけなくなっていたと言うのが真相らしい。
「おそらく晩餐のご招待があると伺っております。そちらのご準備をさせてくださいませ。」
シェスタは目を丸くした。オルソンはそこまで分かっていたのか。男が手を叩くと、色とりどりの服を着た女性たちが入ってきて、シェスタに礼をした。
「お初にお目にかかります。お嬢様の準備を手伝わせてくださいませ。」
今はアステリアもいない。こちらの服はホロネリアや魔族の国とも違う。手伝ってもらうしかないのだろうなと、チラリとレギウスを見ると、小さく頷かれた。
「よろしくお願いします。」
シェスタが言うと、女性たちはにこやかに笑う。
「とびきりの美人に仕立て上げて見せます。では、こちらにどうぞ。」
そう言われてシェスタが連れてこられたのは、大きな浴槽のある風呂場だった。潮風でゴワゴワになっていた髪を丁寧にとかされ、洗われていく。花のような甘い匂いが漂ってくる。
「この匂いはなに?いい匂い……。」
「髪を洗う石鹸に、花のエキスを入れております。こうすると髪にもいい匂いがつくのですよ。ピカールは一年中花が咲いておりますから。」
なるほど。ピカールの特産品らしい。
髪を洗われ、全身を磨かれていると、シェスタはあまりの気持ちよさに眠ってしまった。
「……お嬢様。次は化粧をさせていただきますね。」
起こされたシェスタは果実水を渡された。ほてった体に、飲み物が沁みていく。飲んでいる間に髪を纏められ、目の前にいる女性が、まじまじと顔を覗き込んできた。
「整ったお顔立ちをされていますから、目元と口を中心に、華やかにさせていただきますね。」
シェスタは今まで化粧をしたことがなかった。言われるままに、目を閉じたり、上を向いたりを繰り返す。満足そうに頷く女性が離れると、次は、たくさんの服を持った他の女性が現れた。
「正式な晩餐ですから、ピカールの正装をお召しになるのがよろしいかと思います。お嬢様には、こちらの色などいかがでしょうか。」
出された服は、上衣がくるぶしのあたりまである、ほっそりとしたドレスだ。コルセットやパニエは使わない。赤い布の上には白く透ける布がかけられており、赤い色が下品にならずに上品にまとまっている。上衣の横には大胆にスリットが入っているので、下にはズボンを履く。最後に、大きな花飾りをまとめあげた髪に付けて完成だ。
身支度を終えたシェスタを見て、女性たちは満足そうに頷き合った。
「とてもお似合いですわ。」
「ええ。皆様きっと振り返ってしまいますわ。」
「魔王様にも褒めていただきましょう。」
女性の一人がレギウスを呼びに行ったのか、足早に立ち去っていく。
鏡らしきものがないので、シェスタは自分が今どんな様子なのか分からない。本当におかしくないだろうかと尋ねようとした時、レギウスが現れた。その姿を見て、シェスタは息を呑んだ。
おそらくそれもピカールの正装なのだろう。シェスタのように灰色の上衣は長い。身体の線を拾わず真っ直ぐに降りていく布には、銀糸で模様が刺繍されている。長い髪は束ねられ、肩から前へと編んで下ろされていた。シェスタの姿を見たレギウスも、足を止めた。
「……見違えたな。」
ボソリと呟くレギウスの言葉に、シェスタは不安になる。
「おかしくはありませんか?」
「おかしくはないが……。いや、なんでもない。」
お互いの姿を見ている二人に、案内の男が声をかけた。
「申し訳ありません。案内の車がきております。」
支度に時間がかかってしまったようだ。レギウスが腕を出す。
「ほら。いくぞ。」
「はい。皆さん、ありがとうございました。」
シェスタが女性たちに声をかけると、彼女たちは一斉に頭を下げた。
「行ってらっしゃいませ。」
車は二人乗りの人力車だった。いや、尻尾が出ているところを見ると、人ではないのか。
「このような乗り物もあるのですね。」
シェスタが人力車を観察していると、車夫の男が後ろを振り向く。
「ピカールでは人力車がほとんどですね。馬車のような乗り物だと、中が暑くなってしまいますから。」
確かに座席と天蓋のみのこの乗り物は、風が通って気持ちが良い。周りの様子もよく見える。通り過ぎる人たちが、まじまじと自分達を見ているのがシェスタは気になった。
「ものすごく見られている気がするのですが……。」
「そりゃあ、美男美女が乗っていたらみんな振り返りますよ。車を引かせてもらってる私も鼻が高いってもんです。」
「お上手なのね。」
「世辞じゃないんですがね……。ほら、前に見えてきたのがピカールの宮城ですよ。」
前を見たシェスタは絶句した。
「え?湖に浮かんでいるの?」
こちら側から一本の橋がかかっており、その先に建っているのは、白く輝く城だった。
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