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(40)バラドとレギウス

 40

 レギウスと見知らぬ男が対峙するのを、シェスタは息を詰めて見守った。背は同じくらいで、どちらも美しい顔立ちをしている。黒髪を長く伸ばしているのも同じだが、レギウスが艶やかなまっすぐな髪なのに対し、その男の髪はふわりとうねりながら伸びている。そしてその男の頭には大きく長い角が二つ生えていた。


「バラドか。随分早いお出迎えだな。」

「なあに。魔王が来たとなれば、出迎えないわけにも行くまい。この国で余計なことをされてからでは遅いからな。」


 ばちばちと、火花が散って見えるのは、シェスタの気のせいだろうか。

 気づくと、レギウスとバラドの周りの人だかりはなくなり、遠巻きに見守っている。


「今年はピカールの総長だとか。忙しいのにわざわざ来ていただく必要はないぞ。ただの旅行だからな。」


「魔王とは存外暇なのだな。旅行をする暇があるとは。私も魔族の国に旅行に行ってみたいものだが……。見るものもないか。」


 バラドと呼ばれた男は大袈裟に笑った。


 レギウスは怒るそぶりも見せず、冷静に答えた。


「来ていただいた暁には、魔族流のおもてなしをさせていただくがな。」

「それはありがたいが、おそらくすぐに飽きて戻りたくなるだろうよ。」


 バラドは竜族の代表で、今年の総長だと言うのは、話の内容でシェスタも分かった。それからレギウスを怒らせようとしていることも。オルソンも竜族の長はレギウスと戦いたがっていると言っていた。戦う口実を作りたいのだろうか。


 どう止めていいのかわからず、レギウスの袖をシェスタが引っ張ると、レギウスが思い出したと言うように、シェスタを見た。


「すまない。知り合いに絡まれた。こんな奴は放っておいて行こうか。」


 そのままバラドに背中を向けて、レギウスは歩き出そうとする。


「待て待て。お前の連れの紹介もしないのか。みたところ、人間のようだが。」

「お前にわざわざ紹介する必要はない。」

「は。俺を怒らせたいとみえるな。」

「私を怒らせようと挑発しているのはお前だろう。」


 バラドから、冷気が漏れてくる。そこから守ろうとしたのか、レギウスがシェスタの肩に手を回そうとするのを、シェスタは自分の手を上げて止めた。

 自分が争いの種になるのは、シェスタは嫌だった。

 バラドに向き直り、優雅にカーテシーをする。


「シェスタと申します。竜族の長にご挨拶することをお許しくださいませ。」


 バラドの冷気は、自分を威圧するようにシェスタの体を包み込むが、この程度で怯んではいられない。そのままカーテシーを続ける。


「……ほう、お前、なかなかやるな。」


 バラドからでる冷気がさらに強くなった。

「おやめくださいませ。」


 シェスタがカーテシーをしたまま、言葉に力をこめて言うと、その冷気は一瞬で消えた。


「な……!」

 驚くバラドの声がする。遠巻きに眺める人々からも、ざわめきが漏れた。


「魔王様は、私のわがままを聞いてくださっただけ。お望みとあれば、すぐにでもこの国を退出いたします。」


「……面をあげよ。」


 バラドの言葉で、シェスタは顔を上げた。じっくりと値踏みをするようにバラドはシェスタの顔を眺め、ニヤッと笑った。


「面白い。私の威圧を全て消し去る人間など、初めて見たわ。シェスタとやら。私の側に来い。魔族の国よりもずっと面白い生活を保証してやろう。」


「やめろ。それはお前が決めることではない。」

 レギウスがシェスタを守るように一歩前に進み出る。


「その通り。この女が決めることだ。お前が出てくるのはおかしいだろう?レギウス。」

「申し訳ありませんが、私は魔族の元で暮らすことを望んでおります。お許しくださいませ。」


「ふうん……。」

 バラドはシェスタとレギウスの顔を交互に見て、ふふんと笑った。


「ではこれから、この国の良いところをたくさん見せてやろう。魔族の国と比べ、どちらが良いか、その目で確認してから決めると良い。」

「……ありがとうございます。」


 むしろこの国のことを知るために来たのだから、バラドの言葉を否定することは出来ない。


「国賓として遇することにいたそう。城で待っておるぞ!」


 言うなり、バラドはレギウスのように一瞬で消えた。

 レギウスがため息をつく。シェスタはレギウスを見上げた。


「ええと……。」

「城へ行くしかないだろうな。偉そうに言っていたが、元々国賓として城に招かれる予定だったのだ。堂々と行けばいい。」


 先ほどまで静まっていた町の中に、ざわめきが戻ってきた。町の人たちも、レギウスとシェスタをチラリと見ながらも、自分の用事を済まそうと動き始めていた。


「せっかくだから、町を見ながら城へと向かうとしよう。急ぐこともないからな。」


 むしろすぐには行きたくないのだろう。それにこの町の様子も見てみたい。そう思ったシェスタは、レギウスの隣を歩き始めた。


「この町は、色がたくさんあるのですね。なんだか目がチカチカします。」


 歩く人たちの服もカラフルだし、売っているものもカラフルだ。黒と茶色ばかりの魔族の国とは違っている。ホロネリアの神殿も白ばかりだった。


 思わずキョロキョロと辺りを見回しながら歩いているシェスタの前に、息せき切った男が、立ち塞がった。彼もやはりカラフルな服を身に纏っている。


「遅くなって申し訳ありません。ブラニー商会でございます。商会長の命でお迎えにあがりました。」


読んでくださり、ありがとうございます。

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