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(37)初めての船

 宿から見える海の景色を堪能したあと、シェスタ達は港へと向かった。ピカールへと行く船に乗るためだ。オルソンは船までシェスタ達を送り届けてくれている。


「ピカールへは、船だとどのくらいかかるの?」

「そうですね。大体七日というところでしょうか。」

「そんなにかかるの。」

 

シェスタの驚いた顔に、オルソンは笑いかける。


「ええ。その間に嵐にでも合えば、船が沈んで大損害になります。私たちはいざとなったら飛ぶこともできますから、そうなることは少ないですがね。」


 自分たちが魔族であるということを利用して、ピカールとの交易を有利にしているのだ。


「オルソンはすごいのね。」


 今のシェスタは魔族の国の居候だ。少なくともシェスタはそう思っている。何か役に立てることはないか。それをホロネリアから帰ってきてから考えるようになった。


 自分ができることと言えば、少し魔力を使えることくらいだろうか。おそらく言葉にすれば、結界を張ることもできる。船に危害を与えるものから守る結界を張ったら、喜んでもらえるだろうか。

 


考え事に耽っていたシェスタは、前を歩いていたオルソンが立ち止まったのに気づかなかった。ぶつかりそうになったところを、後ろに引かれる。急なことに慌てて、その場で止まると、今度は後ろにいた人にぽすんとぶつかった。


「え……。」

「前を見ろ。ぶつかるぞ。」


 シェスタを後方へと引っ張ったのは、レギウスだった。

「ごめんなさい。」


 シェスタがレギウスに謝ると、オルソンが慌てて言う。


「申し訳ありません。私が声をかけていれば良かったのです。こちらが、魔王様方が乗る船になります。」


 言われて前方を見たシェスタは思わず口を開けた。

「大きい……。」


 神殿ほどの大きさのある船は、下が青く、上が白く塗られている。その上を有翼族達が、荷物を持ちながら、飛び回っている。建物の上にはさらに高い柱が聳え立ち、そこには白い布がかけられていた。


「こちらへどうぞ。」


 オルソンに案内されるまま船の中間地点へと向かうと、船に向かう階段が立てかけられている。


「ここから船の中に入ることができます。後ほど船長をご紹介させてください。」

 階段の隙間から見える海は、かなり下に見えて、シェスタは思わず手すりを強く握った。


「怖いのか?」

「大丈夫です!」

 怖がっているのをレギウスに悟られたことが恥ずかしくて、シェスタはズンズンと階段を登って行った。下を見なければ、怖いことなんてない。


 階段を登った先は、広い板敷の広間になっていた。そこに、一人の男が立っていた。シェスタとレギウスを見ると、深々と礼をする。

 オルソンが前に立ち、その男にレギウスとシェスタを紹介した。


「ようこそいらっしゃいました。この船の船長をさせていただいている、ガラゴスです。良い船旅になるよう、心を尽くさせていただきます。」


「うむ。」


「では、私は荷物を見て参りますので、ここで失礼致します。良い船旅を。」


「オルソンさん、ありがとう。」

 遠ざかっていくオルソンにシェスタは手を振った。

「さて、少し休むか?それとも船の中を見て回るか?」

 レギウスの言葉に、シェスタは即答した。

「見て回りたいです!」

「では、出航までご案内致します。」

 ガラゴスは、船の案内役を買って出てくれた。


 今回船に乗っている客は、自分たちだけのようだ。途中で降りるかもしれないのに、申し訳なくなる。それを感じ取ったのか、ガラゴスが下の方を指差した。


「今回、商会の荷物もたくさん積んでおります。こちらが無事に着けば、莫大な利益を得ることができますのでご安心を。魔王様がいらっしゃる船ならば、クラーケンも逃げていくでしょうからな。」

「クラーケン?」


「大きなイカの魔物だ。時々船に絡み付いては沈めて遊んでいるらしい。」


 クラーケンにとっては単なる遊びでも、船の持ち主からしたら、大迷惑だ。


「この船が無事にピカールに届きますように。」


 シェスタが呟くと、半透明の膜が船を覆った。


「これは一体……。」

驚くガラゴスに、レギウスが告げる。

「シェスタの結界だ。これがあればクラーケンも近づいてこないだろうよ。」

「なんと。お嬢様にそのような素晴らしいお力が。ありがとうございます!」

 感激しているガラゴスに声がかかる。

「船長!荷物も全て積み終わりました。出航の合図をお願いします。」

「おっと。では、そろそろ出航致します。」

 ガラゴスは、そう言うと、足早に立ち去った。先ほどまであった階段がスルスルと片付けられ、船と港を繋ぐのは、ロープだけになった。


「出航!」

 ガラゴスの声と共に、ロープが外され、船が港を離れていく。その様子を港にいたオルソンが見送っていた。


 ざぶん、ざぶん、と波の音が聞こえてくる。それと同時に、船が揺れる。シェスタにはどれも初めての体験だ。


 甲板で椅子に座り、シェスタは海の様子を眺めていた。手には船で用意された果実水がある。


「陸地から見る海とはまた違って見えるのね。」

「揺れるからかもしれませんね。」


 アステリアももの珍しそうに海を眺めている。空は雲ひとつない快晴だ。おそらく良い航海日和なのだろう。レギウスは眠っているのか、椅子の上で目を閉じている。確かに波の音は一定で、眠りを誘ってくるようにも感じた。


 シェスタもレギウスのように目を閉じてみる。が、眠れず目を開けた。

「お嬢様?」


 シェスタの変わった様子にアステリアが声をかける。アステリアの見たシェスタの顔は真っ青だった。

「気持ち悪い……。」


 馬車にも乗ったことのないシェスタ。初めての乗り物酔いだった。


船と言えば、やはりこれですよね……。

明日は申し訳ありませんがお休みいただきます。

読んでくださり、ありがとうございます。

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