(35)お金の使い方
今日分投稿できました。ついでに朝投稿した話数が間違っていたのをこっそり修正。
「では行くぞ。」
レギウスが差し出した手にシェスタが手をのせると、そこはギルニスの港町、ハイトだった。息をしただけで、普段感じたことのない潮の匂いが体に広がっていく。聞いたことのない鳥の鳴き声。シェスタが今まで経験したことのないものばかりがそこにはあった。
周りにはいくつもの店が立ち並んでいるが、シェスタたちの立っている目の前にあるのは、ブラニー商会の大きな建物だった。すぐにオルソンとレネットが出てきて深々と礼をする。
「いらっしゃいませ。お待ち申し上げておりました。」
「まずはこちらへどうぞ。」
建物の中へと案内される。アステリアやシェスタの荷物は商会員の有翼族がここまで運んでくれることになっている。その間、レギウスとシェスタはこの町の中を見て回ることになっていた。
「お嬢様、暑くはございませんか?」
レネットに聞かれ、改めて考えるが暑すぎるということはない。それでも魔王城の近くよりも、少し気温が高いようには感じた。
「大丈夫よ。ありがとう。」
「暑いようでしたら、着替えもできますのでおっしゃってくださいね。」
「では、今後の話をさせていただきます。今日はハイトで一泊していただき、明日、ピカールへ船で向かう、ということでよろしいですか?」
「ああ。」
シェスタは船を見るのも初めてだ。それならば最初は船でもよかろうと予約をしていた。船酔いがひどかったり、飽きてしまったのであれば、転移すればいい。無理してずっと船に乗ることもないのだ。
「一応船の旅を二日ほどで設定しておりますが、無理はなさいませんように。」
「ええ。レネットたちもピカールへ行くの?」
「今回は交易ではございませんので、飛んで参ります。ただ、転移されてしまうと私どもの方が遅くつくかもしれません。その時は向こうの商会員に声をかけていただければ、準備はできております。ただ……。」
オルソンが言いにくそうにレギウスの方を向く。
「今回、魔王様がいらっしゃるということで、ピカールも国賓として迎えたいと仰せでして。申し訳ありませんが城の方へ行っていただくことになります。」
「ああ。今は竜族が代表なのだろう?あいつは顔を出さないとしつこいからな。」
レギウスが少し嫌そうな顔をした。
「魔王様は、竜族の代表をご存知なのですか?」
シェスタの質問にレギウスは頷く。
「封印されている間に代変わりをしていなければな。そんなに歳ではなかったはずだ。」
「お変わりありませんよ。おそらくまた一勝負仕掛けてくるのではございませんか。」
「めんどくさい……。」
一勝負、とはなんだろう。シェスタが内心首を傾げていると、レネットがこっそりと教えてくれた。
「竜族は強いのが自慢なんです。ですから魔王様に会うと、毎回勝負を挑んでくるのでございますよ。」
「では、魔王様が負けてしまったら、竜族が魔王になるのですか?」
それは国が一緒になってしまうほど、大変なことではないのだろうか。
「あいつに負けるほど、私は弱くない。」
むすっとするレギウスに、シェスタは思わずクスッと笑ってしまうのだった。
「ああもう、落ちるんじゃないかとヒヤヒヤしましたよ。」
到着してホッとしたアステリアが捲し立てている。どうやら高いところは苦手だったようだ。着いてすぐ町の様子を見に行くのは辛いかもしれない。
「これから町の様子を見に行くのだけど、アステリアは少し休んでる?」
「おや、お嬢様。魔王様と二人でも大丈夫ですか?」
シェスタの言葉に声を潜めて返事をしてくるアステリアに、シェスタは頷いた。
「が、頑張ってみます……。」
「無理だったらさっさと戻ってくるんですよ。まだ旅行は始まったばかりなんですからね。」
「わかったわ。」
「どうした?」
レギウスが尋ねてくる。
「アステリアは疲れたみたいだから、先に宿に行って待ってるそうです。」
「そうか。じゃあ、行くぞ。」
皆の温かい視線に見送られ、レギウスとシェスタは町の観光へと出掛けていった。
「魔王様は、この町にも来たことがあるのですか?」
「一応領地だからな。」
魔族には領地契約というものが存在する。魔族にはそれぞれ縄張りがあるが、当然それを略奪しにくる魔族もいる。そこで力の弱い魔族は魔王と契約を結んで守ってもらうのだ。その際ここは、魔王の領地となる。
封印されている間にだいぶあちこちで領地がなくなっていたが、このハイトはブラニー商会が上手に守っていてくれたようだ。
白い石畳の両脇には、屋台が立ち並んでいる。美味しい匂いをさせている食べ物の屋台があると思えば、色とりどりの飲み物を売っている店、綺麗な宝飾品を並べている店もある。ピカールからの船も入港するせいか、様々な種族が屋台を覗いては、買い物をしていた。
「これは書庫の魔道具を売った金だ。好きに使うといい。」
レギウスが革袋を一つ、シェスタに渡す。思わず受け取ったが、あまりの重さにシェスタはびっくりした。
「これ、全部お金ですか?」
「そうだが?」
「こんなにたくさん?」
シェスタの言葉にレギウスが首を傾げた。
「一つしかないぞ。城にはまた大量に残っているが。」
魔道具はかなりのお金になったらしい。シェスタはとりあえず受け取ることにした。しかし、シェスタにも問題があった。お金の使い方がわからない。
以前、ブラニー商会に行った時は、後でニルダが城で払うということで、お金は持っていなかったのだ。品物と交換でお金を渡す、ということだけはなんとなくわかっている。
「ええと、じゃあ、あそこの綺麗な飲み物が飲んでみたいです。」
シェスタは飲み物の屋台へと向かった。
「お嬢さん、いらっしゃい。どれも甘くて美味しいですよ。おすすめはこの黄色いやつね。」
顔に鱗がある女の人がにこりと笑いかけてくれた。シェスタは袋の中から金貨を一枚出す。
「じゃあ、これで。」
それを見た女の人は、ギョッとして後ずさった。屋台中の飲み物を渡してもお釣りがたんまり出てしまう。
「お嬢さん、そのお金じゃお釣りが出せませんよ。」
「釣りなどいらん。取っておけ。」
後ろからレギウスがさらに追い打ちをかける。
「そんなことをしたら後で私がつかまちゃいますよう……。もう、無料でいいから持っていってください!」
涙目になった女の人が黄色い飲み物を押し付けてきた。
「いいの?ありがとう。」
嬉しそうにシェスタが礼を言って受け取ると、早速一口飲んでみる。
「美味しい……!こんなの飲んだことないわ!きっとこれを『天の味』って言うのね!」
シェスタの言葉に、周りで屋台を見ていた人たちが、集まってくる。
「そんなにうまいのか?一杯くれよ。」
「こっちにもおくれ!」
シェスタは飲み物を飲みながら、他の屋台も見物し、同じような騒ぎを起こして回った。
「何やってるんですか!あなたたちは!」
あまりの騒動に呼ばれたオルソンに怒られるのは、後少し先の話である。
魔王様は部下が全部やってくれるので、お金の使い方が分かってません。シェスタも神殿でお金を扱わせてもらっていないので、全く分かっていません。そんな二人を町に出したことを後からみんな後悔しただろうなあ……と言うお話でした。
読んでくださり、ありがとうございます。
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