(34)旅行への誘い
夜のうちに投稿出来なかったので、早朝投稿。夜もできたら投稿します。
魔王様にどんな顔をして会えばいいか分からない。そう思いながら部屋に閉じこもっていたシェスタに、ある日手紙が届いた。どうやったのか、綺麗な花が紙に閉じ込められている便箋には、たった一言。
「旅行に行くから支度をしておけ。」
「旅行?」
聞きなれない言葉にシェスタが首を傾げる。
「離れたところにお出かけするってことですよ。お嬢様が部屋に閉じこもってっしゃるのから、心配されているのだと思います。」
シェスタも悪いことをしているとは思っているのだが、出るきっかけが掴めなくなっていたのだ。どこに行くのかは分からないけれど、見たことのないところに行けるのは、なんだかワクワクする。しかし、シェスタには気掛かりなことがあった。
「魔王様と二人で行くの?」
シェスタがおずおずとアステリアに尋ねると、アステリアはどんと胸を叩く。
「ニルダは城から離れられませんけど、私はついていきますよ。お嬢様のお世話はどこにいっても必要ですからね。まずは、旅行の支度をいたしましょう。といってもどの程度出かけるのか分からないと困りますね。」
その時、扉を叩く音がした。
「ニルダでございます。入ってもよろしいですか?」
「ええ。どうぞ。」
入ってきたニルダは、一枚の紙を持っていた。それを恭しくシェスタに差し出す。
「先ほどオルソンが持って参りました。旅行の計画書でございます。お嬢様のしたいことがありましたら追加しますので、早目にお知らせくださいとのことでした。」
「オルソンは商売人ですからね。良い場所をいっぱい知っているのですよ。」
「そうなのね。」
紙にはシェスタがわかりやすいように、簡単な地図も書いてあった。それを見ていたシェスタの目が丸くなる。
「アステリア。海を見られるのですって!」
「どれどれ……。あら、本当でございますね。その後海の向こうの国まで行かれるのですか。それでしたら涼しい服のご用意が必要ですね。」
「海の向こうは暑いの?」
「ええ。冬が来ないんだそうでございますよ。」
「へえ……。」
ホロネリアと魔族の国についてはある程度ニルダに教えてもらったが、海の向こうの国のことまでは、まだ習っていなかった。行くまでに少し学んでおきたい。
「ニルダ。書庫に、海の向こうの国の本はあるかしら?」
「おそらくは。探してまいりましょうか?」
「ううん。自分で行くわ。」
シェスタはずっと部屋にこもっていたことも忘れ、軽い足取りで部屋を出た。その様子をアステリアとニルダが微笑みながら眺めていた。
海の向こうの国は、ピカールという名前らしい。ホロネリアのように人間だけが住むのではなく、色々な種族が混じり合って暮らしている。国王はおらず、それぞれの種族の代表が持ち回りで一年ごとに国の代表を務めることになっている。今年は竜族が代表だ。
「国によって全然違うのね。」
国王がいる国が普通だと思っていたシェスタには、びっくりすることばかりだ。シェスタの言葉に、ニルダは頷いた。
「ええ。むしろピカールが珍しいのです。代表が代わると要求も変わるから大変だとオルソンがこぼしていました。」
魔族の国には外交官などいない。商売人のオルソンがなんとなく引き受ける形になっている。オルソンにとっても悪い話ではないので頑張ってくれている。
「魔王は死ぬまで魔王なの?」
シェスタの質問にニルダは首を横に振った。
「このギルニスでは一番強い魔族が魔王となります。ですから魔王様は日々それを示すために戦っておられるのですよ。」
「魔王を続けるのも大変なのね。」
しみじみとシェスタは言うが、実際のところ、レギウスよりも強いのはシェスタではないか、というのがニルダの見立てだ。なにしろ女神すらも退けたのだから。
シェスタはまだ興味深そうにピカールの書物を読んでいる。
「ピカールには、美味しい果物がたくさんあるそうですよ。とても甘くて虜になるそうです。」
ニルダがオルソンから聞いた話を披露するとシェスタの目がうっとりと空中をさまよう。
「まあ。どんな味なのかしら……。」
きっと野菜よりも甘いに違いない。
味の話で、シェスタは野菜畑のことを思い出した。そういえばずっと見に行っていない。
「大変。野菜畑のことを忘れていたわ!」
慌てて立ち上がるシェスタに、ニルダは笑いかけた。
「大丈夫でございますよ。こっそり畑をご覧になってくださいませ。」
城の上から裏庭をこっそりと見下ろす。まっすぐに並んだ畝には、今日も青々とした葉が茂っていた。
「よかった……。」
自分が育てたいといったのに、うっかりしてしまった。明日からはちゃんと毎日畑に行こう。そうシェスタが思った時だった。
レギウスが不意に畑に現れた。むすっとした顔をしている。野菜をじっと見ながら、畑の様子を観察しているようだ。
「魔王様は、ああやって一日一回は畑を見回っておられます。自分の野菜が枯れるのが嫌なんだそうでございますよ。」
確かに、ギーのために作った畑だ。魔王がギーだと知らなかった頃も、ギーは必ず畑に行きたがった。あれは、畑を見張っていてくれたのか。
「……魔王様に、またお礼を言わなくちゃいけないことが増えたわ。」
「旅行を楽しみにしていると伝えていただけたら、喜ばれると思います。」
「そうね。」
シェスタはそのままレギウスが畑を離れるまで、じっとその姿を見つめていた。
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