(33)魔王の悩み
昨日も諸事情により、お休みさせていただきました。なるべく毎日頑張りたいのですが、本業が忙しいときはご勘弁下さい。
「お嬢様、お帰りなさいませ!」
喜びの声と共にシェスタを出迎えたのは、アステリアだ。ニルダはその後ろで跪いている。
「私の不得の致すところでございます。お嬢様をホロネリアに連れ戻させた罪、いかようにも償わせてくださいませ。」
シェスタはニルダに近寄ろうとして、レギウスの腕に抱かれていることを思い出した。思わず頬が赤くなり、小さな声で言う。
「魔王様、下ろしてくださいませ。」
「?ああ。」
レギウスがシェスタを下ろすと、シェスタはニルダの前に同じように膝をついて、手を取った。ニルダの目が大きく見開かれる。
「私がしたいようにしただけなの。ニルダは何も悪くないわ。あの国には、もう二度と行かないから大丈夫よ。」
「お嬢様……。ニルダは一生お嬢様についていきます。」
感極まったようなニルダの様子に困惑しながらも、シェスタはニルダと一緒に立ち上がった。ホロネリアに連れて行かれたのは半日ほど前のことなのに、長いこと留守にしていた気がする。シェスタはついギーを目で探してしまい、はっと気づく。
(魔王様がギーだったんだわ)
それを意識してしまうと、どうにもむずむずしてしまう。撫で回したり、抱きしめたり、この前はそのまま寝台で一緒に眠ってしまった。
それを思い出すと、頬がまた赤くなるのを感じる。
「お嬢様?大丈夫ですか?」
様子がおかしいのを感じたのか、アステリアが聞いてくる。
「なんでもないわ。少し疲れたのかも。」
「女神と戦ったのだからな。疲れていてもおかしくない。」
レギウスが労いの言葉をかけてくれるが、シェスタはレギウスの顔をまともに見られない。
「まあ、それは大変でしたね。疲れを取るためにも、お風呂はいかがですか?マッサージもいたしますよ。」
「……お願いできるかしら。」
お風呂なら、レギウスと顔を合わせずに済む。シェスタはアステリアの言葉に乗ることにした。
それから数日が経った。レギウスはシェスタの様子に戸惑っていた。
ギーの時には毎日部屋に入れたのに、今は訪ねていくと、
「今は一人になりたいの。」
とつれなく断られる。一度ムッとして無理やり入ろうとしたら、部屋に結界を張られた。しかもレギウスだけが入れない。
ひょっとして、ギーでないからダメなのかと、変身してみたが、
「魔王様……。ごめんなさい!」
と逃げられる始末だ。
「なぜ、私だけがシェスタに会えないのだ。」
アステリアとニルダについ文句もいいたくなる。二人は顔を見合わせた。
「今まで可愛いうさぎだと思っていたのが、魔王様でしたからね。」
「怒ってらっしゃるかもしれませんね。」
「しばらくしたら、お話していただけるんじゃないですか?」
「……しばらくって、いつまでだ?」
レギウスのその質問には誰も答えてくれなかった。
そんな中、ブラニー商会のオルソン・ブラニーが訪ねてきた。彼は有翼族であり、以前農具を見繕ってくれたレネットの夫である。書庫で埃をかぶっていた魔道具たちを引き取って、他の国で売り払った報告をしにきたのだ。
「どの魔道具も、良い値で売ることができました。ありがとうございます。こちらは、代金でございます。」
そう言うと、オルソンは金貨袋を積み上げた。しかし、レギウスには金貨袋よりも重要な要件があった。
「聞きたいことがある。」
レギウスに改まってきかれ、オルソンは居住まいを正した。何か怒らせるようなことをしたのだろうか。顔が引き攣りそうになりながらも、オルソンは笑顔を作った。
「は。なんでございましょうか。」
「レネットが怒った時、お前ならどうする?」
「妻が……でございますか?」
自分は何を聞かれているのだろう。オルソンが側に控えているニルダをチラリと見ると、ニルダの視線が、チラリとシェスタの部屋の方へと向いた。
ああ、とオルソンは合点がいった。助けた嫁に臍を曲げられて、会ってもらえなくなったレギウスが、八つ当たり気味に自分と敵対する魔族を蹴散らしている、と最近同族から聞いたばかりだった。
「そうですね。私でしたら、贈り物をするかもしれません。」
「贈り物?」
「ええ。妻が好きなものを。」
レネットの場合、簡単だ。見たことのない魔道具を渡せば、大体の場合、機嫌が直る。ただし、その魔道具についての説明を黙って聞くところまでがセットだ。そこを適当にすると、さらに悪化することを、オルソンは長年の付き合いから学んでいた。
レギウスが首を傾げる。
「シェスタが好きなもの……。ギーか?」
確かにシェスタはうさぎのギーをこよなく愛しているが、今はダメだ。
その正体が魔王様だと分かったからこそ、シェスタがどうしていいか分からなくなっていることくらい、たまにしか来ないオルソンでも分かる。
「あ〜、ギーによく似たぬいぐるみなどはいかがですか?」
レギウスは即答した。
「それはダメだ。そちらの方が可愛いと言われたら、私が困る。」
めんどくさいな、と心の中で毒づいてから、オルソンは他の案を考えていると、ニルダが咳払いをした。
「僭越ながら。私から提案させていただいてもよろしいですか?」
「なんだ?」
「お嬢様は神殿とこの魔王城しかほとんど見たことがございません。」
「ああ、そういえばそうでしたね。」
オルソンも頷いた。一度だけオルソン商会をシェスタがアステリアと共に訪れたことがある。並んだ商品たちをいつまでも飽きることなく眺めていた。
「私も海の向こうまで行ってみたい。」
そんなことを言っていた気がする。
「人間は、『旅行』なるものをするそうです。お嬢様は海を見てみたいと仰っておいででした。連れて行って差し上げたらいかがかと。」
「なるほど。それでしたら私が助けになれるかもしれません。よろしければ、お嬢様が楽しめるような計画を立てさせていただきます。」
ブラニー商会は商売のために、支店をあちこちに持っている。
「しかし、話をしようにも、シェスタは会ってくれないのだ。」
計画の前段階で挫折しかけているレギウスに、オルソンは営業スマイルを強化した。
「そう言う時こそ、手紙ですよ。ちょうど美しい便箋などもございます。ご覧になってくださいませ。」
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