(32)女神との攻防
使っている像が聖女になってたり女神になっていたりしたので、後ほどこっそり統一します。
王城の外で騎士団と戦っていた魔族たちは、王城の中から溢れてくる力にその場の誰よりも敏感に気づいた。ぞくりと背中が震えるような感覚を信じ、咄嗟に王城から距離をとった途端、王城は中から弾け飛んだ。彼らは、飛んでくる瓦礫をかわしながら何があったのかを探ろうとした。しかし土煙がもうもうと舞い上がり、様子を伺うことができない。時折ガラガラと壁が崩れる音がする。
土煙が収まると、魔族たちは唖然とした。王城の上部分が吹き飛んでいたのだ。建物の中にあったはずの王の間が、上空から見えるようになっていた。
王城の下の方からは、慌てる声やうめく声が聞こえてくる。上から降ってきた瓦礫の下敷きになったのだ。ほとんどの騎士が戦意を喪失していた。それよりも、瓦礫の下の仲間を助けようと奮闘していた。
「一体何が……」
恐る恐る上から王の間を覗き込んだ魔族は、中に一人の人間がいるのを発見した。大事そうにぐったりとしたうさぎを抱えている。魔族の一人が首を傾げた。
「あのうさぎから魔王様の魔力を感じないか?」
「……かなり薄いが、確かに。じゃああの人間がもしかして嫁か?」
「なんで魔王様はうさぎなんかになっているんだ?」
ボソボソと話す魔族達の目の前に現れたのは、驚いた顔の女神コンバーラだ。土煙を被ったのか、白い衣が少し汚れている。コンバーラの視線の先には、シェスタがいた。
シェスタは怒りに満ちた顔のまま、コンバーラを睨みつける。
「女神コンバーラ様……。あなたがギーをこんなにしたのですか?」
「ええ、そうよ。そいつは……」
この国を脅かす魔王なのだもの。そう言おうとしたコンバーラは彼女から出た魔力の攻撃を咄嗟に交わした。人間とは思えない程の威力だ。魔王の力かとも思ったが、そちらは瀕死の状態で力など出せるはずもない。
さらに悪いことに、王城が壊れる前くらいから、コンバーラは上手く力が出せなくなっていた。神がこの世界で実体を持つには依代が必要だ。自分の信仰対象になっているものほど都合が良い。今回も魔法陣の部屋にあった聖女像を使って出てきたのだが、うまく力が通っていない感覚に襲われていた。
「私は……、私はあなたを許さない。」
シェスタの言葉をコンバーラは鼻で笑う。
「私は女神だ。お前にわざわざ許してもらう必要などない。」
「そうね。でも、この神殿で一番祈りを捧げていたのは私。私はその信仰を取り下げる!」
そう言うと、シェスタは持っていた聖女の像を床に叩きつけた。その途端、コンバーラは自分の力が減るのをはっきりと感じた。
神の力の源は信仰心だ。それが減れば神の力も減る。そのことに気づいて、コンバーラはゾッとした。
「人間の国を守っていたのは私よ。その私を信仰しないというの?」
「私にとってギーは大切な家族なのよ!」
また魔力の攻撃。コンバーラはまたしてもそれをかわす。コンバーラは唇を噛んだ。攻撃はできない。人間を守るのがコンバーラの役目だから、コンバーラ自身がシェスタを傷つけることはできないのだ。
「女神様になんたる無礼を!やめるんだ!」
王の間に現れたのは国王だ。額から血を流しながらも、国王は短剣をもち、シェスタへと向かってきた。
「邪魔をしないで。」
シェスタの一言だけで、国王はその場で動けなくなった。
その様子を魔族たちは空の上から眺めている。
「やっぱりあの娘が嫁なのか。」
「ああ。魔王様を家族だと言っていた。それにあの怒りは本物だ。」
「人間のくせに見る目があるじゃないか。」
「娘っ子、がんばれ!」
魔族の応援はシェスタの耳には入っていなかった。どうしたら、この女神を元いた世界に戻せるのか。それだけを考えていた。
ふと思い出す。自分の力が一番宿る場所は、言葉だ。シェスタはそれを思い出すとにこりと微笑み、コンバーラに人差し指を突きつけた。
「元いた世界に戻りなさい!」
シェスタが高らかに告げると、コンバーラの体を金色の鎖が取り囲む。もう逃げられない。悔しそうに、コンバーラの顔が歪んだ。
「私が守ってやらねば、あっという間に人間など滅ぶだろう。それを忘れるな!」
それだけを言い残して、女神は消えた。
「ああ、コンバーラ様……。」
悲嘆にくれる国王を尻目に、シェスタは腕の中のギーを見る。ぐったりとして浅い呼吸を繰り返している。このままではもう長くはない。早く回復させなければ。
「お願い。元に戻って。」
シェスタは前のように元気になって欲しいと願っただけだった。しかし、ギーは一気にずんと重くなった。その衝撃でシェスタは尻餅をつく。
「……え?」
シェスタの腕の中で、ギーは魔王へと姿を変えていく。シェスタの膝の上に乗るのは、魔王の頭の部分だけ。あちこちにあった傷も見るまに治っていった。
「ま、魔王……様?」
ゆっくりと目を開けたレギウスは、照れくさそうに視線を逸らした。
「助けに来たつもりが、助けられてしまったな。」
「あの。魔王様……が、ギーなのですか?」
それには答えず、レギウスは立ち上がり、シェスタを抱き上げる。
「ニルダもアステリアも心配している。見物客たちも煩わしいからな。帰るぞ。」
「見物客?」
空を見上げると、魔族たちがニヤニヤとこちらを見ているのが見えた。
「魔王様をよろしくな!」
「魔族にも愛ってあるんですかねえ?」
「バカ!余計なことは言うな!」
レギウスが指を鳴らすと、その全ては消え、シェスタは魔王城へと戻っていた。
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