(31)女神の降臨
昨日はちょっとお休みしてしまいました。
レギウスが王の間にたどり着いた時、そこには誰もいなかった。外では何かが爆発するような音が絶えず響いている。魔族たちが城の兵士と戦ってくれているようだ。前脚を上げてシェスタの匂いを探すと、玉座の後ろに扉があることに気づいた。
(あそこか?)
レギウスが近づこうと駆け出すと、急に何かの壁に阻まれた。
「まさか、そんな姿でここまでくるとはねえ。」
ねっとりとした女の声。体がすくんでしまうような威圧。姿を見なくてもレギウスには誰だかわかった。
「コンバーラ……。」
「魔族ごときが私の名前を呼ばないでちょうだい!」
その一言でうさぎの体は吹き飛ばされた。壁に叩きつけられそうになるのをなんとか体をひねってかわすと、レギウスは床に着地した。
「この奥は、私の部屋なの。魔族が入っていい場所じゃないわ。」
扉の前に現れたのは、腕を組んだ金髪の女性だ。組んだ腕には鈴蘭を持っている。魔力が金色の瞳の中で揺れているのが見えた。
「中の女を返してもらえれば、それでいいんだがな。」
「なんで魔族に人間を渡さなければならないのかしら。私は魔族から人間を守るためにここにいるのよ。」
「そもそも、その女を虐げたのは人間だ。」
レギウスの言葉をコンバーラは鼻で笑い飛ばす。
「そんなことはよくあることでしょう?わざわざ神はそんなことに干渉したりはしない。」
どこまでいっても話は平行線だ。そう思いながらレギウスは魔王に戻ろうと試みるが、何故かうまくいかない。その様子に気づいたのか、コンバーラがクスクスと笑う。
「無駄よ。うさぎのあなたが私の力に勝てる訳ないじゃないの。」
うさぎの時のレギウスは、ほとんど魔力が使えない。だからこそコンバーラに見つからずにここまで入れたのだが、今となっては逃げることさえままならない。
「せっかくだから、その姿で私の八つ当たりに付き合ってちょうだい。その位のことはしてくれるでしょ?」
外の魔族たちは、国王率いる騎士団たちを翻弄していた。結界の中で魔物と戦うことすら忘れていたのだ。それでも攻撃が全て効くわけではない。
「バラバラになっては各個撃破されてしまうぞ!固まって攻撃せよ!」
指揮官の声に合わせて動きが良くなる騎士たち。魔族が傷を負うことも増えてきた。
翼を矢で打たれた有翼族が王城の塔に向かって落ちていく。その衝撃で、王城が大きく揺れた。
人間を弱い者たちだと思っていた魔族たちも、その様子を見て、気を引き締めた。
なかなか動かない体に、シェスタが焦り始めた頃、扉の向こうで誰かが話す声が聞こえた。誰かが戻ってきたのだろうか。シェスタはそう思ったが、誰も部屋の扉を開けようとはしない。その代わり、時折何かが壁に当たるような鈍い音が聞こえてくる。
(ひょっとして、誰かが……魔王様が助けに来てくれた?)
しかし、魔王とはいえ、女神を祀るこの部屋に入るのは厳しいかもしれない。シェスタはこの部屋に満ちている女神の力を感じ取っていた。だからこそ、シェスタがこの部屋から出たいと思っても出られなかったのだ。
この部屋から出るためには、どうしてもあの女神の像をなんとかしなければならない。シェスタは残りの力を振り絞って震える指先を伸ばす。あと少し。
そこで王城がどおんと大きく揺れた。魔法陣に縛り付けられているシェスタが動くことはなかったが、その揺れが女神像をシェスタの近くに寄せてくれた。指先で女神像を掴むと、シェスタは抱え込むようにして女神像を引き寄せる。一番細い鈴蘭の部分に手をかけてグッと折り曲げた。ぽきり、という音と共に、鈴蘭の部分が折れると、シェスタを絡め取っていた魔法陣の力がすうっと消えていった。
シェスタは女神像を放り出すと、よろよろと立ち上がった。体の疲労感は半端ないが、扉の向こうが気になってしまうのだ。扉を開けたシェスタが見たのは、ボロボロになった姿で床に転がっているギーの姿だった。
それを見た途端、シェスタの中で何かが弾けた。
「ギー!」
シェスタは走りより、ギーを抱き上げる。目を開ける余裕もなくぐったりとしたままシェスタの手にいるギーの姿に涙が溢れた。
「誰がこんな……許さない!」
シェスタの叫びと共に、王城の上の部分は跡形もなく弾け飛んだ。
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