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(3)シェスタの新しい毎日

本日3本目です

 朝早く起きると、すぐに神殿内の掃除が始まる。床を綺麗に磨き上げるのがシェスタの仕事になった。黙々と磨き上げていると、汚れた水がぶちまけられ、シェスタにもかかる。

「あら、ごめんなさい。こぼしてしまったわ。拭いておいてちょうだい。」

 そんな風にされるのも日常茶飯事だ。シェスタの白かった服も、今は汚れや破れで見る影もない。しかし、新しい服を誰も与えようとはしてくれなかった。


 掃除が終わった後は、粗末な食事。それから洗濯だ。

 神殿は聖女棟と神官棟に分けられており、許可のないものは行き来する事はできない。真ん中に外部の者が訪れる外神殿、神官長の部屋と鈴蘭の部屋、使用人たちの部屋がある。そのことすらもシェスタは知らなかった。最初の方は場所が分からずウロウロし、

「使用人がこんなところにいるんじゃない!」

 と何度も怒られた。ボロを着ているシェスタは、既に使用人にしか見えなくなっていた。

 シェスタの担当は聖女棟だ。

 籠を持って聖女たちの部屋を一つずつ回っていく。聖女たちの仕事は外神殿での治癒や結界の祈祷である。昼ら夕方まで行うので、朝の時間にシェスタが行くと、たいていの聖女は部屋でのんびりと過ごしている。

「ああ、洗濯物ね。そこにあるから持っていって。」

 あごで示された洗濯物をシェスタは籠に入れていく。その間聖女は寝台に寝そべりながら、他の聖女とおしゃべりに花を咲かせている。

「この前治療にいらした騎士団の方、とても素敵でしたわ……。」

「盗賊にやられたらしいですわよ。少し実力が足りないのではなくて?」

「それが、他の方を庇って怪我をされたそうなのよ。次にいらしたときは、お名前を伺ってもいいかしら……。」

 きゃあっと黄色い声が上がる中、シェスタは一礼をして部屋を出る。どの部屋でも同じようなことの繰り返しだ。時折機嫌の悪い聖女に当たると、洗濯物を投げつけられることもある。

 誰もがシェスタが「鈴蘭の聖女」だったことを忘れていった。


 シェスタは洗濯物で重くなった籠をよろよろと外へと運び、井戸の側で洗濯をする。鈴蘭の部屋にいたときには、したことのない労働だった。綺麗だったシェスタの手は、度重なる水仕事でひび割れ、あかぎれていた。春が近づき、暖かくなってきたのが、シェスタには救いだった。洗濯物を干した後、シェスタは周りをうかがった。誰もいないのを確かめると、シェスタは自分の着ていた服を脱ぎ、それも洗って干す。下着姿を見られないよう、乾くまでは干してある洗濯物の間にこっそりと隠れるのもいつものことだった。


(誰も、私に気づかないで)

 そう願ってうずくまっているシェスタの姿が周りから見えなくなっていることに、本人も気づいていなかった。


 その頃、国王の元には不穏な知らせが届いていた。

「国内で、魔物の姿を確認しただと……?」

 国王は手に持った書簡をぎゅっと握りしめた。魔物は魔族が使う眷属で、瘴気から生まれると言われている。

 このホロネリア国は、魔族の国ギルニスと隣り合わせである。ずっと昔から二つの国は争いを繰り広げていた。それを変えたのが「鈴蘭の聖女」だ。膨大な魔力を持った彼女は王国全体に結界をはり、ホロネリア国内の瘴気を一掃した。それ以来、歴代の『鈴蘭の聖女』が結界を守っている。最近は魔族の王も行方知れずになっているだとかで、内政に力を注ぐことができていたのに。

「神殿には『鈴蘭の聖女』がいるはずですが、何かあったのでしょうか。」

 国王の隣にいたレオン王太子が腕を組んで考え込む。

「神殿からは特に連絡はありません。ただ、最近神官長が代わりまして。」

 報告に来た宰相の言葉に国王は頷いた。

「ああ。心臓の病だったと聞いている。」

 王太子がハッとしたように国王を見た。

「まさか、『鈴蘭の聖女』のことを聞いていないのでは……?」

 鈴蘭の聖女が結界をはっていること知っているのは、王族と宰相、そして神官長のみだ。神官長になると、引き継ぎでそのことを知らされるはずなのだが。


「ふむ。引き継ぎが上手くいっていない可能性があるな。レオンよ、神殿の様子を見てきてはくれないか。」

 このままにしておくわけにはいかない。国王の言葉にレオン王太子は頷いた。

「かしこまりました。」




 1日の仕事を終え、へとへとになったシェスタは、自分の部屋となった物置部屋へと戻る。床にシーツをひき、その上に寝転がると目を閉じた。最初は眠れなかった固い床も、もはや気にならなくなっていた。

(朝までゆっくり眠りたい……)

 それだけを考えて。


 祈りを捧げられなくなった結界は少しずつ薄れていった。あちこちでヒビが入り、瘴気が少しずつ入り込んでいた。

「なあ。最近空の様子がおかしくないか?」

「そうか?変わったようには見えないがなあ。」

 空を見上げ、不思議そうな顔をする人が少しずつ増えていく。

 それでも日常は、まだ変わらなかった。

読んでくださり、ありがとうございます。

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