(29)シェスタの戦い
ほのぼのがなくてすみません……。でもここはどうしても必要なのです
レギウスは、シェスタと神官長の対談の時、万が一を考えて神官長の近くに潜んでいた。シェスタが自分から来ることはないだろうが、万が一と言うこともある。
しかし、まさか神官長がホロネリアへと転移する魔法陣を隠し持っていたとは思わなかった。
レギウスはすぐさまシェスタを追いかけてホロネリアへ転移しようとしたが、王都には結界があり、レギウスを拒んだ。
「忌々しい女神の力め……。」
それならばまずはこの男だ。
一人笑い続けるスールをレギウスは魔物へと変えた。急に体が変化し始めた神官長は喉を押さえ苦しみ出す。
「が……。な、に、が。」
「お前を魔物にして、勇者たちの前に放り出してやろう。喜んで退治してくれるだろうよ。」
黒い毛を纏い、爛々と光る赤い目と鋭い牙を持った魔物へと変化した神官長は、威嚇するように、レギウスに牙を剥き出す。
「そら、お前の好物の人間たちがすぐそばにいるぞ。」
勇者たちへの近くへと道を開けてやると、魔物は涎を垂らしながら駆けて行った。どちらが勝とうか知ったことではない。
レギウスは一旦魔王城へと戻った。ニルダはずっと這いつくばったままだ。
「私の責任でございます。どうぞご処分を。」
「ニルダが悪いんじゃないよ。あの神官長が悪いだけだ。そうだろう?」
アステリアが必死でとりなしているが、ニルダは首を横に振った。
「そもそも私があの手紙を渡さなければ良かったのです。」
しばらくニルダを睨みつけ、沈黙していたレギウスはぼそっと呟いた。
「……シェスタが帰ってきた時、お前がいなくなっていたらシェスタはどう思うだろうな?きっと私のせいだと泣くだろう。」
「あ……。」
ニルダは、顔を上げた。確かに、シェスタなら、ニルダがいなかったらそうやって責任を感じてしまうだろう。
「その話については、シェスタを取り戻してからにしよう。」
「……どうなさる、おつもりですか?」
ニルダが尋ねると、レギウスはニヤリと笑った。
「決まっているではないか。総攻撃だ。ホロネリアの国を焦土と変えてくれよう。……魔族の長を緊急招集せよ。作戦会議だ!」
「かしこまりました。」
ニルダはそういうと、シェスタの部屋を退出した。
「魔王様は、シェスタを取り戻しに行かないのでございますか?」
アステリアが恐る恐る尋ねてくる。
「結界に阻まれた。このままでは入れぬ。」
「……うさぎなら、どうでしょうかね。」
結界が阻むのは、瘴気と魔族。うさぎに変化した魔王を結界がどうとらえるのかは、確かに分からない。ただ、問題はある。
「うさぎでは、何も話せないし、魔力も使えないではないか。シェスタを助けようがない。」
「ギーがいるだけで、お嬢様にとっては心強いんじゃないでしょうか。」
レギウスは押し黙った。その役は確かに自分にしかできないものだ。
「試してみる価値はあるか。」
レギウスはそう呟いた。
気づけばシェスタは見たことのない部屋にいた。石の壁に囲まれた小さな部屋だ。正面には女神の像が飾られている。はっきりしていることは、ここは魔王城ではないことだ。扉はかたく閉ざされており、中からは開けることができそうにない。
「ここを開けて。」
シェスタは自分の魔力でここから出ようとしたが、不思議な力でかき消されてしまった。こうなったら誰かが扉を開けるまで待つしかない。
一人でもシェスタは不思議と怖くはなかった。
「ぎゃあああああ」
扉の向こうから恐ろしい悲鳴が聞こえてきて、シェスタは咄嗟に女神像の近くまで下がった。何が起こっているのか全く分からない。
しばらくすると、扉が開いた。屈強な兵士の後ろに男が一人。
「ほう、スールは目的をちゃんと果たしたようだ。」
部屋に入ってきたのは、見たこともない男だ。豪奢な服を身に纏っている。
「……誰。」
シェスタが睨みつけると、その男は見下したように笑った。
「国王に対して失礼な物言いだな。」
「国王……あなたが?」
「ああ、そうだとも。」
そう言いながら国王は部屋へと入り、シェスタの横を通り過ぎると女神の像を手にする。
「この部屋のことは覚えていないか。無理もない。まだ生まれたばかりだったからな。」
「生まれたばかり……?」
ではやはり、国王はシェスタが『鈴蘭の聖女』になったのか知っていたのだ。
「そなたが泣くと家中のものが飛び回ると、お前を恐ろしく思った両親が神殿を訪れたのだ。前の神官長はお前を聖女にすると言って預かった。そしてそのまま私に連絡をくれたのだよ。」
「そんな……。」
「そして、私と神官長はそなたに、こう告げたのだ。『「女神コンバーラよ。我らにこの国を守る力をお与えください。願わくば、新たな鈴蘭の聖女が生誕されんことを!』」
国王がそう言って女神像を高々と持ち上げると、床の魔法陣が光りだし、シェスタを絡め取った。そのまま魔法陣はシェスタの魔力を吸い出そうとする。
「させない……!」
自分はこうやって赤ん坊の時に『鈴蘭の聖女』にさせられたのだ。同じ手に二度も引っかかってたまるか。シェスタは魔法陣の力に必死で抗った。
国王がその様子を見て不敵に笑う。
「抵抗するか。さすが初代以来の結界の強さを誇っただけはある。しかし、どこまで続くかな。」
その時、扉を叩く音がした。
「申し訳ありません。魔族が王都に向けて攻撃を仕掛けてきたと連絡が!命令をお願いいたします!」
「ぬ。結界が張れぬ今を狙ってきたか。今行く!」
国王は慌てて女神像を放り出すと、部屋を去った。後には魔法陣から出る光の鎖に絡め取られたシェスタだけが残された。
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