(25)じっくりと復讐を
思っていたよりダークなざまあになりつつあるので、少し設定を変えました。
泣き疲れて眠ったシェスタの腕から、ギーはそっと体を抜いて、ベッドの下へと降り立った。魔王の姿に戻ると、レギウスは涙のあとがついたシェスタの顔をじっと見つめた。
「どうして?私が何をしたって言うの?」
シェスタは泣きながらそう言い続けていた。
それは聖女だった時のシェスタが、誰かに伝えたかった言葉だ。
声を封じられ、字も書けない。彼女には自分の思いを誰かに伝える術はなかった。たまりにたまった言葉が溢れているのだ。
そう考えるだけで、レギウスの中には噴火してしまいそうな熱い何かが暴れ出す。
いっそのこと、あの国をただの更地に戻してしまえばこの暴れているものはスッキリしそうな気がした。
レギウスが部屋を出ると、ニルダとアステリアが部屋の外に黙って立っていた。
「お嬢様が先ほど召し上がったものに、よく眠れる薬を入れておきました。朝までは起きないかと思われます。」
アステリアが、沈痛な面持ちでそう告げた。シェスタの取り乱す姿は、この国にきた時以来だ。それがアステリアには堪えたらしい。
「夢魔を呼べ。シェスタが恐ろしい夢を見ないよう、見張らせておけ。」
「かしこまりました。」
アステリアが夢魔を呼ぶために下がっていく。
「魔王様。どうなさいますか?」
静かに尋ねているが、ニルダも思うところがあるらしく、手を握りしめ、震わせている。普段だったら決して見せない姿だ。それを見ていると、レギウスの頭がゆっくり冷え、冷たい怒りへと変わっていくのを感じた。
「あの国を消してしまおうと思ったが、それだと一瞬で済んでしまうな。」
シェスタがあの国で『鈴蘭の聖女』として虐げられていたのは約十五年。最近までシェスタは自分の立場を分かっていなかったから、辛いとは思っていなかっただろうが、その年月をなかったことにされるのも腹が立つと言うものだ。
「そうですね。特にお嬢様を苦しめた神殿には、それ相応の報いが必要かと思われます。」
あの国を守っている女神も、あまり事を大きくすると出てくる可能性がある。女神にも負けるつもりはないが、多少分が悪い。
それに、国王だ。ここに来て「聖女を救え」と触れを出したと言うことは、国王自身も何かを知っているということになりはしないか。
「決めた。まずは勇者一行を捕えることにしよう。」
そもそも魔族の国に勝手に入って来たのだから、何をされても文句は言えない。
「この城に連れてくるのは、危険ではございませんか?万が一お嬢様と神官長とやらが顔を合わせてしまったら、お嬢様がまた辛い思いをしてしまうのでは。」
「そうならないようにする。ちょうどこの前シェスタがいいヒントをくれたからな。ニルダ。お前の核をちょっと貸せ。」
「かしこまりました。」
訝しげに思いながらもニルダが自分の核を呼び寄せ、自分の手に乗せる。大きめの水晶玉に見えるそれの中は、灰色の煙のようなものがゆっくりと動いている。それを手に取ると、レギウスは核をもう一つ複製した。
「これは私が出した偽物の核だが、魔王城を作るくらいはできる。」
「なるほど。そちらに勇者たちを誘い込むのですね。」
自分の核を返してもらい、自分の中に取り込んだニルダが、ゆっくりと微笑む。その笑みは、普段の姿では想像できないくらい邪悪に見える。
「勇者たちには延々と魔王城の中で魔物たちと戦ってもらおう。神官長だけは別だ。シェスタについてじっくりと話を聞かせてもらうとしよう。」
レギウスは転移をすると、勇者たちの通り道を予測し、核を使って魔王城を作り上げた。ニルダとよく似た執事が現れ、レギウスに礼をする。
「マスター。私を作ってくださりありがとうございます。何なりとご命令を。」
「お前の名前は、ゲオルグだ。これからこの城に人間族が何人か来る。この城から出られないようにせよ。魔物を出して、楽しませてやってくれ。そうだ。死なないように水と食糧も少しだけ、な。」
飢えてくればお互いに食べ物の取り合いで戦い出すだろうが、そんなことは知ったことではない。
「かしこまりました。」
ゲオルグはゆっくりと一礼した。
やがて、その城の前に、勇者たち一行が現れた。巨大な城は黒い棘のある蔦に覆われており、城門が行方を阻むように立ち塞がっている。
その威圧感のある様子に勇者たちはごくり、と息を呑んだ。
「これが魔王城……。」
大剣を持ったザックが呟くと、魔法使いのスリナーが周りを見回す。
「それにしては魔族の気配をあまり感じないが……。」
「今までだってほとんど出てこなかったじゃないか。おそらく俺たちが怖いんだろうよ。」
弓使いのアイズが事もなげに言うと、皆が納得した顔をした。もっと激しい戦いを覚悟していたのに、出てくるのは弱い魔物ばかりだ。魔族の力も大したことはない。全員がそう思い始めていた。
「魔王の力は本物でした。あまり油断はしないでいただきたい。」
スールだけが忠告をする。彼は魔王に実際に会っていたからこそ、その恐ろしさを知っていた。戦いが少ないのも、魔族の国の奥へと誘われているだけではないか。自分の中で鳴り響く警戒音を感じながらも、帰るとは言えない。スールの目的は、魔王城にいるシェスタを連れ帰ることだからだ。
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