(23)国王の企み
本日の内容はダークです。
「た、助けて……。」
救いを求めるように上げられた手は、カサカサに干からびている。やがてパタリとその手は力を失い、床へと落ちた。
「こいつもダメか……。」
神官長のスールは舌打ちをした。力が強い聖女を『鈴蘭の聖女』にしようとするが、誰も彼もシェスタのようにはなれない。力を失い過ぎて命を落とす者も現れた。
ホロネリアの国は今や混乱の中にある。
瘴気が湧き、そこから魔物が現れ、人々を襲うのだ。
それぞれの領主がもつ騎士団や冒険者達がそれを討伐しているが、なにしろ魔物と戦ったことなどほとんどない者ばかり。
「これしきの魔物、私だけでも十分だ!」
と自慢気に言い放って討伐にいくが、返り討ちにされることも多い。
各地の神殿の前には、治療と結界を求める者で行列ができているが、まともに対応できていない。
「また失敗か。」
スールの背後から声がかかり、スールはびくりと身を震わせた。国王だ。スールは慌てて、臣下の礼をとる。
「は。申し訳ございません。力が強いと聞いておりましたが、たいしたことはなく……。」
「それだけシェスタの力が膨大だったということだろうよ。国民からの不満も膨れ上がっている。なんとかせねばな……。」
「そのことなのですが、一つ新しい発見をいたしました。」
「ほう。どんな発見だ?」
「実際にお目にかけた方が早いかと。しばし、失礼致します。」
スールは禁忌の部屋を出ると、ある女を引きずるように連れて戻ってきた。クラリスだ。『鈴蘭の聖女』であった時は生命力さえ奪われ、カラカラに干からびていたが、今はかなり元に戻っている。焼印の跡も綺麗に治癒されていた。ただ、正気を失っているのか、視線はぼんやりと虚空をさまよったままだ。
「なんだ。クラリスではないか。それをどうするというのだ。」
「先ほどの聖女は死にました。今は『鈴蘭の聖女』がいない状態でございます。」
「そうなるな。」
「その状態で、クラリスにもう一度契約をさせると、『鈴蘭の聖女』に戻せるのでございます。」
そういうと、スールは女神への言葉を口にする。
「女神コンバーラよ。我らにこの国を守る力をお与えくさだい。願わくば、新たな鈴蘭の聖女が生誕されんことを!」
祈りもスール一人でも可能なことも分かった。それが分かった途端、王太子は「後はよろしく」と、この部屋には寄り付かなくなった。各地を回って点稼ぎをしているらしい。
魔法陣が展開され、クラリスは苦悶の顔を浮かべながら、魔法陣の中に座り込む。かはっと息をはき、老婆のように変貌していくが、目は虚なままだ。
やがて魔法陣の光が失われた。
「前より力が強くなったのか?」
「薬で増強しております。すでに処刑されている身ですから、多少手荒でも大丈夫かと。」
「どれ……おお、確かに。」
クラリスの胸元には新しい鈴蘭の印があった。
「これでしばらく王都は安泰でございます。そして、シェスタさえ戻ってくれば、もう一度『鈴蘭の聖女』とすることも可能でございます。」
「それは素晴らしい!全てが丸くおさまるではないか。」
国王は目を輝かせた。
「問題はどうやってシェスタを呼び戻すか、ということですが。」
「ふむ……。」
国王はしばらく考えていたが、何かを思いついたのか、顔を上げた。
「こういう時こそ、おとぎ話が役にたつ。勇者に聖女を攫った魔王を討って貰えば良いのだ。」
「なるほど。しかし、そのような武勇に秀でた者がおりますでしょうか。」
「さあな。しかし、聖女を魔王がさらったために、国が混乱しているとなれば、国民の不満も魔王に向くだろう。」
「なるほど……。素晴らしいお考えですね。」
スールと国王は顔を見合わせてほくそ笑んだ。
しばらくして、国王からおふれが出された。
「魔王にさらわれた聖女を助けに行く勇者を募集する。我こそは、と思う者は、王都に来られたし。聖女を助けたあかつきには、のぞむままに褒美を取らせよう。」
そのおふれはあっという間に広まった。
「聖女を助けられるのは、この俺だ。」
「いや、力だけではだめだ。魔力も必要だろう。」
様々な特技を持ったものが、王都に集まった。
選抜のために、王は試合を行うことにした。
多くの者が破れていく中、四人が残った。
大剣で多くの敵をなぎ倒す、ザック。
広範囲の魔法が使える、スリナー。
地方の神殿で回復魔法を極めた、ミュー。
遠くの魔物も射落とすことのできる、アイズ。
4人とも褒賞を狙う野望に満ちた、ギラギラとした目をしていた。仲間としてお互いに協力する気があるのか、怪しいものだが、彼らには魔王城まで辿り着いてもらいさえすればいいのだ。
彼らを城に招いた王は、彼らに宣言する。
「そなたらを勇者と認める。神殿長と共に、魔王城へいき、聖女を救ってくるのだ。」
スールには他国から密かに取り寄せた、転移魔法陣を持たせた。片道しか使えないのが難点だ。しかし、これがあれば、シェスタが嫌がったとしても、あの部屋へ転移させることができる。それでこの国は救われるのだ。
彼らは国王からたっぷりと旅費を受け取り、聖女を救う旅へと出かけるのだった。
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