(12)シェスタの新しい毎日
少し短めです。
魔王城では今日もシェスタとアステリアの攻防が続いていた。
「お嬢様。今日のお洋服はこれですよ。可愛らしいでしょう?」
「こんな…服。だめ。」
アステリアが持って来たのは小さな花柄が散らしてあるワンピースである。今までシェスタは白い聖女服しか着たことがなかった。患者として神殿を訪れた人の服として見たことはあった。かわいいな、と思って見ていたこともある。が、まさかそれを自分が着られるとは思っていなかったのだ。
「ダメなんてことはありません。お嬢様はもっと可愛くならないといけませんからね。」
アステリアは鼻息荒く詰め寄った。アステリアとしては、シェスタを可愛く着飾らせたいのだ。しかもシェスタが本当は着たいと思っていることも分かっている。その証拠に目がワンピースに釘付けだ。
「さあさあ。私は他にも仕事がありますからね。大人しく着ていただけると助かります。」
そう言われて、シェスタはワンピースを受け取った。口元が少し綻んでいるが、それに気付かぬふりをして、アステリアはシェスタの着替えを手伝った。
「着替えが終わったら食事ですよ。お部屋に運ばせますからお待ちくださいね。」
「ありがとう。」
毎日の会話の中で、シェスタの話し方も少しずつ滑らかになってきている。単語であれば、普通に話せるようになってきていた。
ふわふわパンとスープの食事を済ませた後は、ニルダに魔族の国について教えてもらっている。神殿の中しか知らなかったシェスタには、知らなかったことばかりだ。
「さて、今日はなんの話をしましょうか。」
窓から見える景色については、たっぷりと話を聞いた。尖った山には竜が住んでいるとか、鳥に見えるのは実は大きな魔族だとか。
シェスタはしばらく考えて、質問をする。
「みんな……何……してるの?」
ニルダはシェスタの質問の意図を考える。彼女が知っているのは神殿の中の世界だけだ。それ以外の生活など知らないのだろう。
「魔王城の外に住んでいる者たちが、何をして暮らしているか、ということでしょうか。」
「そう!」
嬉しそうにシェスタが頷く。
「そうですね。人間の暮らしと比較しながら話をしましょうか。お嬢様は、神殿での暮らしは知っていますね。神殿の外には町、というものがあり、そこで人間は生活をしています。」
うんうん、とシェスタは頷く。
「しかし、魔族は町を作りません。同じ種族で集まって暮らしていることはありますが、それは一部の種族だけです。」
魔族にも二種類ある。自然に生まれるものと、人間と同じように番がいることで増えるものと。そして自然に生まれる魔族は、好戦的なことが多い。他の魔族が近くにいれば、どちらが上か確かめたいと思ってしまうのだ。
「魔王様は魔族たちの頂点に立つお方ではありますが、同じように力を持った魔族も多いのです。今、魔王様はその魔族たちを服従させるために飛び回っておられます。」
しばらく不在だったため、魔王としての力を見せつける必要があるのだ。そうしなければあちこちで戦いが起きる。
「野菜…誰…作る?服……は?」
シェスタが不思議そうに呟く。生活に関わるものを誰が作っているのかと聞きたいのだろう。
「魔族の国では瘴気が強すぎるのか、植物は育ちにくいのです。いつも海の向こうから運んでいます。私のように食事を必要としない魔族も多いですからね。魔族の国で作られる魔石や商品が交換です。食べ物以外はそれぞれ自分の特技を生かして作っている魔族がいますからね。他の国でも評判がいいんですよ。」
「海?」
新しい言葉にシェスタが首を傾げる。
「塩辛い水がたくさんある場所で、波が……いつも揺れているのです。人間は『船』というものを使って渡ります。魔族は翼でいつでも渡れますからね。」
魔法で渡る方法もあるのだが、それは商人など認められた者だけに限られている。
「海……。」
想像しているのか、シェスタの目がうっとりとどこかを眺めている。実物を見せてあげたいところではあるが、ニルダは城から離れられない。「信頼できそうな者を今のうちに探しておきますか……。」
魔王様の許可は必要になるだろうが、準備は必要だ。ニルダはこっそり呟いた。
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