(11)鈴蘭の聖女
「なんて愚かなことをしてくれたのだ。」
怒りに震える声が響き、縛られた伯爵令嬢と神官長は震え上がった。人払いがされた玉座の間には、近衛兵と王、そして王太子だけがいる。縛られた二人は身体中あざだらけで、美しかった令嬢の顔にも打たれたような傷があった。しかし、それに文句を言える状態ではなかった。国の存亡がかかっているのだ。
「『鈴蘭の聖女』はこの国の守りの要。だからこそ神殿にも特別に部屋があり、聖女の像に祈りを捧げることで、結界を守っていたのだ。それを部屋から追い出し、聖女の印を焼印で消した、だと?国家反逆罪で一族もろとも処刑されたいとみえる。」
「お許しくださいませ!知らなかったのでございます。」
縛られたまま、神官長が額を床に擦り付ける。
「知らなかった、では済まされないのですよ。ただ、神官たちも『鈴蘭の聖女』を蔑ろにしていた節がある。当然、彼らにも責任はとってもらいますがね。」
王太子が冷たく言い放つ。自分が訪れる前に証拠隠滅を図ろうとするとは。しかも前神官長の隠し子だ、と使用人同然の扱いをしていたという。彼らは『鈴蘭の聖女』がどういう存在だか知っていたはずなのに、神官長に伝えなかった。
「神官たちには、魔物退治をやってもらう。自分たちの行ったことの尻拭いくらい、してもらわないとならぬからな。次は、お前たちの番な訳だが。」
「わ、私も魔物退治に行くのですか……?」
怯えたようにクラリスが言うと、王太子はふんと鼻を鳴らした。
「それも考えたがな。やはりここは『鈴蘭の聖女』についてしっかり学習してもらうことにした。」
「学習、とは……。」
「なに、『鈴蘭の聖女』とは一体なんなのか、実際に見てもらうことにする。立たせよ。」
「はっ」
その一言で近衛兵は二人が立つよう、後ろ手に縛ってあった縄を引っ張る。よろよろと立ち上がった二人を一瞥すると、王と王太子は玉座の間の奥の小部屋へ向かった。
小部屋には窓もない。王太子が四方にある蝋燭に火を灯す。そこに近衛兵がクラリスと神官長を押し込んだ。近衛兵は部屋には入らず、扉を閉めた。
「この部屋に入れるのは、王族と神官長、そして『鈴蘭の聖女』になるはずの聖女だけだ。どうだい?選ばれしものになった感想は。」
王太子はクラリスの顎をくいっと持ち上げ、顔の近くで囁く。
「わ、私が『鈴蘭の聖女』になるのですか?」
クラリスの目に光が宿った。どうやらまだ助かる方法があると思ったらしい。王太子は思わず笑い出した。
「まあ、なれるように頑張ってくれたまえ。なれるものなら……ね。君はここから動いてはいけないよ。」
神官長の縄だけを引っ張り、王太子は部屋の奥へと向かう。そこには鈴蘭の聖女像を持った、王の姿があった。王太子は神官長を縛っていた縄を解くと、聖女像に触れさせる。そして王太子自身も像を握った。
「女神コンバーラよ。我らにこの国を守る力をお与えくさだい。願わくば、新たな鈴蘭の聖女が生誕されんことを!」
王が高らかに祈りを捧げる。すると像が光を放ち、床に魔法陣が浮かび上がった。魔法陣はその上に乗るクラリスから魔力を吸い上げ、鈴蘭の花を浮かび上がらせていく。
「や、やめ……て……。」
身体中の魔力を吸い取られ、クラリスの身体は潤いを失い、かさかさに干からびていく。魔力が足りず、体の栄養すらも取り込んでいるのだ。
「情けない。シェスタは一瞬で聖女になれたものを。」
忌々しげに王が呟いた。
「これはどういう……。」
「聖女の魔力を吸い上げ、結界を作る魔法陣だ。一度鈴蘭の印が身体に刻まれれば、永続的に魔力はここに注がれる。印があるうちはな。」
神官長はそれと似たような話を聞いた事がある。この王国ができる前の国では、魔法陣を使って人を縛り付けていたという。生贄に等しいとされ、禁じられたのではなかったか。
「まさか、これは禁じられた……。」
喘ぐように言った神官長を王は一瞥する。
「そうだ。だからこそこの部屋に入れる者は限られる。王族と神官長のみと、な。女一人で国の安寧が手に入るのだ。安いものだろう。」
ピクピクと痙攣を始めたクラリスを見て、王太子は舌打ちをする。
「ここまでのようですね。」
「ふむ。仕方ない。コンバーラよ。聖女の力をもて、結界を!」
魔法陣から半円状に広がった結界は部屋を出ていく。しかし、しばらくすると、魔法陣の光がふっと消えた。王はため息をつく。
「これでは王都の周りしか結界をはれないではないか。神官長。もう少し使えるものを連れてこい。いいな。それがお主の役目だ。」
神官長はがくりと膝を落とした。この犯罪にも等しい行為に自分が加担しなければならないのだ。
王が聖女像を棚に戻すと魔法陣から光が消えた。クラリスは痙攣をやめ、ぐったりとする。その胸にはうっすらと鈴蘭の印が浮き出ていた。
今はクラリスが『鈴蘭の聖女』になったと言うことなのだろう。
「『鈴蘭の聖女』は複数でもよろしいのですか?」
足りない分を他の聖女で補えるのであれば、その方がいい。神官長はそう思ったが、王は首を横に振った。
「『鈴蘭の聖女』は一人だけだ。これよりも使える者がいれば、替えるだけだ。替え方はもう知っているだろう?」
もちろん知っている。神官長は暗い顔をして頷いた。シェスタに焼印を押したのは神官長なのだから。それがクラリスに変わっただけなのだ。
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