if第26話 見えない城
アストラを出てから、どれくらい歩いたのか。
景色は、いつの間にか白に変わっていた。
一面の雪。
木々は細く、葉を落とし、静かに立っている。
北方の森林。
音が吸われるような、静寂。
「……寒っ」
ティナが肩をすくめる。
「急に気温下がりすぎでしょ」
「ここは北方域よ」
ミルスが答える。
「元々、こういう場所」
クジャが周囲を見回す。
白い森。
何も変わらない景色。
だが――
「……違和感あるね」
小さく呟く。
「え?」
「なんか、“薄い”」
ティナが眉をひそめる。
「何それ」
「説明しにくいけど」
一拍。
「ここ、存在が軽い」
ミルスが静かに頷いた。
「正解」
「ラースは隠れて動く」
ティナが振り返る。
「隠れてるって、どういうこと?」
「魔力を消してるわけじゃない」
一拍。
「“認識されないようにしてる”のよ」
クジャが笑う。
「面倒くさいね」
「普通は見つけられないわ」
ミルスは淡々と続ける。
「城ごと隠してる」
ティナが顔をしかめる。
「いや、それ無理でしょ」
「無理じゃないから厄介なのよ」
シルヴァは前を見る。
白い森。
同じ景色。
だが、どこか違う。
風を起こす。
わずかに。
雪が舞う。
その動き。
流れ。
――ズレる。
「……あるな」
小さく呟く。
ミルスが目を閉じる。
魔力を探る。
流れを読む。
そして。
「歪みを追う」
目を開ける。
「完全には隠せない」
「どこかに“ズレ”が出る」
クジャが右目に手を当てる。
「じゃあ僕も使う」
「無理するな」
シルヴァが言う。
「するに決まってるでしょ」
軽く返す。
だが、声は少し硬い。
右目を開く。
未来を見る。
だが、いつもと違う。
「……見えにくい」
「当然よ」
ミルスが言う。
「相手も“見られないようにしてる”」
クジャは一点を見ない。
空間全体を見る。
雪の流れ。
風の歪み。
視界の違和感。
それを拾う。
「……あそこ」
指を差す。
何もない場所。
ただの雪原。
だが。
ミルスも同じ方向を見る。
一瞬。
ほんのわずかに、空気が揺れる。
「……あるわね」
ティナが目を凝らす。
「見えないんだけど」
「見えないから正解よ」
シルヴァが前に出る。
風を強める。
雪を巻き上げる。
流れをぶつける。
その瞬間。
雪の動きが、途中で歪む。
何もないはずの空間で。
「……見えた」
ティナが息を呑む。
白い輪郭。
一瞬だけ浮かび上がる。
すぐ消える。
「結界ね」
ミルスが言う。
「認識阻害と空間歪曲」
クジャが苦笑する。
「徹底してるなぁ」
「当然よ」
一拍。
「核を集めてるのよ」
見つかれば終わる。
だから隠す。
完全に。
「どうするの?」
ティナが問う。
ミルスが杖を構える。
「強引に開く」
「壊せるの?」
「壊さない」
一拍。
「“合わせる”」
クジャが笑う。
「はいはい、僕の出番ね」
右目を開く。
痛みが走る。
未来を見る。
ズレを固定する。
「……ここ」
位置を示す。
ミルスが魔力を流す。
空間に重ねる。
歪みを合わせる。
シルヴァが風を流す。
境界を押す。
三つが重なる。
一瞬。
空間が裂ける。
白が現れる。
「……出た」
ティナが呟く。
そこにあった。
雪の中に溶け込むように存在する。
氷の城。
今まで見えていなかったもの。
確かに、そこにあったもの。
「見つけたわね」
ミルスが静かに言う。
クジャが息を吐く。
「これ、結構キツい」
右目を押さえる。
負担が大きい。
だが、道は開いた。
シルヴァが前を見る。
迷いはない。
「行くぞ」
ティナが剣を握る。
「ほんと、容赦ないわね」
「止まる理由がない」
短く返す。
ミルスも歩き出す。
「ここからが本番よ」
クジャが苦笑する。
「さっきまで前座だったんだ」
四人は進む。
雪の森の奥へ。
隠されていた城へ。
ラースの元へ。




