if第25話 崩れゆく都市と次の標的
静寂が落ちた。
さっきまで暴れていた魔力の奔流は消え、広間には砕けた床と崩れた魔導陣だけが残っている。
第三魔王ネメシスは、もういない。
その中心にあった核は――シルヴァの手の中にあった。
「……終わった、のか」
ティナがその場に座り込む。
剣を手放し、肩で息をしている。
「完全にね」
クジャが苦笑する。
右目を押さえたまま、壁にもたれていた。
「でも、最悪の終わり方じゃない」
「……あんた、それ楽観すぎない?」
「いや、だって」
クジャが顎で示す。
床に転がる、もう一つの核。
第五魔王アグニス・バルド。
「ちゃんと回収できてる」
ミルスが静かに歩み寄る。
視線は二つの核へ向いている。
「第三と第五」
一拍。
「十分すぎる成果よ」
その声は、いつも通り冷静だった。
だが、足取りはわずかに重い。
魔力炉も限界に近い。
この都市自体が、もう長くは持たない。
シルヴァは何も言わず、二つの核を見た。
微かに脈打つ光。
触れているだけで分かる。
“危険なもの”だと。
「……どうする」
短く問う。
ミルスが答える。
「持っていくわ」
「どこに」
「決まってる」
一瞬だけ、目が細くなる。
「ラースのところよ」
空気が変わる。
ティナが顔を上げる。
「ラースって……あの?」
「ええ」
ミルスは頷いた。
「第六魔王」
クジャが小さく息を吐く。
「いきなり本命に近くない?」
「避けて通れないわ」
ミルスは迷いなく言う。
「核を持ってる限り、あちらから来る」
つまり。
待っていれば終わる。
だから――先に行く。
シルヴァは剣を拾い、鞘に収めた。
「なら、行く」
「ちょっと待ちなさいよ」
ティナが思わず声を上げる。
「この状態で?」
「動ける」
「動けるけど万全じゃないでしょ!」
クジャも苦笑する。
「さすがにこれは休んだ方がいいと思うよ」
ミルスが静かに振り返る。
そして、魔力炉の方を見る。
低く唸る音。
不安定な光。
崩壊寸前。
「……そうね」
一歩、そちらへ歩く。
「準備する時間くらいはある」
「何するの?」
ティナが問う。
ミルスは淡々と答えた。
「残ってる魔力、全部使う」
一拍。
「回復と、最低限の安定化」
クジャが目を細める。
「それってさ」
「ええ」
ミルスはあっさり肯定した。
「アストラは止まるわ」
沈黙。
ティナが言葉を失う。
「……それ、いいの?」
「もう限界よ」
ミルスは迷わない。
「このままでも崩れる」
なら。
使い切る。
「……分かった」
シルヴァが短く言う。
それだけでいい。
ミルスは魔力炉の前に立つ。
杖を構える。
魔導陣が展開する。
都市全体に張り巡らされた魔力回路が、一斉に光る。
残された最後の力。
それが集まる。
「動かないで」
ミルスの声が落ちる。
光が走る。
シルヴァの傷が塞がる。
ティナの脇腹の血が止まる。
クジャの右目の痛みがわずかに引く。
完全じゃない。
だが、戦える。
それで十分だった。
光が収束する。
魔力炉が最後に強く輝く。
そして――消えた。
音が止まる。
完全な沈黙。
魔道都市アストラは、その機能を失った。
「……終わりね」
ミルスが小さく言う。
振り返らない。
ただ、それを受け入れる。
クジャが軽く息を吐く。
「高い準備だったね」
「安い方よ」
ミルスが返す。
「全員生きてる」
ティナがゆっくり立ち上がる。
体はまだ重い。
それでも、動ける。
「……行くのね」
「ええ」
ミルスが頷く。
「ラースの元へ」
シルヴァは前を見る。
もう迷いはない。
「行くぞ」
その一言で、全員が動く。
崩れた都市を後にする。
ノクティスの空気が流れ込む。
重い。
だが、それよりも。
遠く。
歪んだ気配がある。
引き寄せられるような感覚。
「……これが」
ティナが呟く。
「ラースの領域よ」
ミルスが答える。
クジャが笑う。
「ほんとに嫌な感じだ」
シルヴァは何も言わない。
ただ、進む。
次の敵へ。
核を巡る戦いは、まだ終わっていなかった。




