if第27話 氷の王と風の剣【50話へ続く】
白い城だった。
風が止まっている。
音もない。
空気すら、凍りついているようだった。
扉は開いている。
最初から。
誘うように。
シルヴァは迷わず踏み込んだ。
ティナたちも続く。
内部は広い。
柱も壁も、すべて氷。
無機質で、静かすぎる空間。
足音だけが響く。
奥へ。
最深部へ。
やがて、広い間に出る。
玉座があった。
そして――
座っていた。
一人の男が。
白い外套。
長い髪。
動かない。
ただ、そこにいる。
それだけで分かる。
格が違う。
「……あれが」
ティナが小さく呟く。
ミルスが頷く。
「ラース」
第六魔王。
核を奪い、集める存在。
ラースの視線が、ゆっくりと動く。
全員を見る。
だが、最後に止まるのは――シルヴァ。
「……来たか」
低い声。
それだけで、空気が張り詰める。
ラースが立ち上がる。
ゆっくりと。
玉座から降りる。
一歩。
また一歩。
近づくだけで、圧が増していく。
ティナが無意識に後退る。
「……これ、無理でしょ」
クジャも笑えない。
右目が痛む。
見える未来が、歪む。
ミルスが静かに言う。
「やめなさい」
ティナの肩を掴む。
「ここは出る場所じゃない」
「でも――」
「無理よ」
言い切る。
「今のあなた達じゃ、足手まといになる」
言葉が刺さる。
だが、否定できない。
クジャも黙る。
右目で見えている。
自分達が入った瞬間に崩れる未来。
ミルスが続ける。
「シルヴァだけよ」
一拍。
「あれと戦えるのは」
シルヴァが振り返る。
「……どういう意味だ」
「変わったわ」
ミルスは迷わない。
「アストラでの三ヶ月」
「風の使い方が変わってる」
クジャが小さく笑う。
「前は速いだけだった」
「今は流れごと持っていってる」
ティナがシルヴァを見る。
ネメシス戦。
あの一撃。
ただの風じゃなかった。
空気そのものが変わった。
「……でも」
「それでも足りない」
ミルスが遮る。
「でも、届いてるのはシルヴァだけ」
ラースが止まる。
距離、数歩。
「終わったか」
興味なさそうに言う。
「なら来い」
シルヴァが剣を抜く。
風がわずかに巻く。
弱い。
だが、消えてはいない。
「他は下がれ」
短く言う。
今度は誰も止めない。
ティナが拳を握る。
「……負けないで」
「負けない」
シルヴァが答える。
クジャが笑う。
「死ぬ未来は見えてない」
「それで十分」
ミルスが静かに言う。
「行きなさい」
空間が開く。
二人だけになる。
シルヴァとラース。
同時に動いた。
踏み込み。
剣がぶつかる。
衝撃。
氷が砕ける。
「……速いな」
ラースが言う。
「そっちもな」
間を置かない。
連撃。
斬る。
受ける。
流す。
速度が上がる。
視界が追いつかない。
互角。
完全に。
シルヴァが風を起こす。
流れを作る。
氷の上を風が走る。
ラースがわずかに目を細める。
「風か」
シルヴァが踏み込む。
さらに加速。
流れに乗る。
斬る。
ラースがずらす。
完全には避けない。
最小限で受け流す。
拮抗。
だが――
長引くほど、差が出る。
シルヴァの動きが、わずかに鈍る。
ラースの領域。
奪われている。
魔力も、体力も。
シルヴァは理解する。
決める。
ここで。
踏み込む。
風を最大に。
流れを断つ。
「――神風」
一閃。
ラースの肩をかすめる。
血が飛ぶ。
初めての有効打。
ティナが息を呑む。
「入った……!」
だが。
その瞬間。
ほんの一瞬。
力を使い切った隙。
ラースが動く。
速い。
懐へ。
「――もらう」
低い声。
次の瞬間。
シルヴァの手から、何かが消える。
「……!」
ラースの手の中。
第五魔王アグニス・バルドの核。
淡く光る。
クジャが舌打ちする。
「最悪」
ティナが叫ぶ。
「シルヴァ!」
ラースは追わない。
一歩、下がる。
核を見下ろす。
「……十分だ」
視線を上げる。
シルヴァを見る。
「次だ」
一拍。
「魔王城で待つ」
空間が歪む。
姿が消える。
静寂。
氷の城だけが残る。
ティナが駆け寄る。
「大丈夫!?」
「……問題ない」
シルヴァが答える。
だが、握っていたはずの重みは、もうない。
ミルスが静かに言う。
「奪われたわね」
クジャが苦笑する。
「完全に」
ティナが拳を握る。
「あと少しだったのに」
シルヴァは何も言わない。
ただ前を見る。
ラースが消えた方向。
「……次だ」
短く言う。
「魔王城」
ミルスが頷く。
「ええ」
クジャが笑う。
「ようやく本番」
ティナが息を吐く。
「ほんと、休ませてくれないわね」
シルヴァが剣を収める。
風はまだ弱い。
だが、届いた。
次は――
断つ。
氷の城を後にする。
向かう先は一つ。
魔王城。
すべてが集まる場所へ。




