if第24話 限界の先
影は、音もなく現れた。
その瞬間、全員が理解する。
――格が違う。
空気が沈む。魔力が重い。
立っているだけで、身体が軋む。
「……来たな」
シルヴァが剣を抜く。
ネメシスが形を取る。
「適応、完了」
低い声。
「前回より、貴様らの勝率は低い」
「……知ってるよ」
クジャが笑う。
だが、その右目はもう隠していない。
ティナが剣を握る。
「それでも、やるしかない」
ミルスが言う。
「合わせなさい」
影が広がる。
速い。
認識より先に来る。
「っ――!」
シルヴァの肩が裂ける。血が飛ぶ。
ティナの脇腹に刃が入る。息が止まる。
「がっ……!」
クジャの頬も切れる。
だが――止まらない。
ネメシスが歩く。
「処理が追いついていない」
影が増える。
逃げ場が消える。
「このままじゃ終わる」
クジャが言う。
呼吸が浅い。
それでも、笑う。
「じゃあ、終わらせない」
右目に触れる。
ゆっくりと開く。
世界が変わる。
流れが見える。
分岐が見える。
未来が、いくつも重なって見える。
頭が軋む。
視界が揺れる。
それでも、掴む。
「――ここ」
カードを置く。
“今”じゃない。
“次”でもない。
“その先”。
ネメシスが動く。
その位置に、すでにカードがある。
影の動きが止まる。
逃げ場が消える。
「……固定した」
クジャが息を吐く。
「いい判断ね」
ミルスが言う。
ティナが踏み込む。
足は震えている。
脇腹の血が止まらない。
それでも、止まらない。
「……当てる」
光を溜める。
広げない。
極限まで絞る。
刃のように。
針のように。
一点に集める。
呼吸を止める。
狙う。
核。
「――貫け」
放つ。
光が一直線に走る。
影を裂く。
弾かれる。
だが――止まる。
削る。
貫く。
「……届いた!」
ネメシスの中心がわずかに揺れる。
「誤差だ」
ネメシスが言う。
「十分だよ」
シルヴァが動く。
踏み込む。
だが身体は限界に近い。
重い。
血が流れ続けている。
それでも前へ出る。
「……行く」
風は使わない。
起こす。
足の運びで、空気を押す。
剣の軌道で、流れを作る。
その流れが、消えない。
残る。
繋がる。
「――神風」
世界が軽くなる。
剣が遅れない。
風が“ついてくる”のではない。
“先にある”。
斬る。
風が走る。
一本の線。
途切れない。
残る。
影が深く裂ける。
ネメシスが初めて止まる。
「……それが神の風か」
再生が始まる。
「まだ足りない」
ミルスが前に出る。
足元が崩れる。
血が流れている。
だが止まらない。
杖を叩く。
魔導陣が展開される。
魔力炉が唸る。
「それ……やりすぎ!」
ティナが叫ぶ。
「壊れる!」
「問題ない」
ミルスは淡々と言う。
「一手でも外せば終わりよ」
魔力が暴走する。
空間が歪む。
制御が極限まで上がる。
クジャの固定。
ティナの一点。
シルヴァの流れ。
全部を“繋ぐ”。
「今」
短い合図。
ティナがもう一度撃つ。
クジャが最後の固定をする。
視界が完全に崩れる。
「……ここだ」
カードが刺さる。
止まる。
一瞬。
「――終わらせる」
シルヴァが踏み込む。
神風を起こす。
さっきの流れを、さらに重ねる。
一本だった線が、二重になる。
厚くなる。
重くなる。
「風葬」
振る。
すべてを乗せた一撃。
影の中心へ。
直撃。
一瞬、音が消える。
次の瞬間。
ネメシスの核が砕けた。
「……到達したか」
最後の声。
影がほどける。
消える。
同時に。
魔力炉が砕けた。
光が消える。
静寂。
誰も動けない。
シルヴァは剣を支えに立つ。
ティナはその場に崩れ落ちる。
クジャは右目を押さえたまま膝をつく。
ミルスも片膝をつく。
血が床に落ちる。
「……勝ったな」
雨の中全員は横たわっていた。




