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風葬のシルヴァ  作者:
ifストーリー
84/88

if第23話 積み上げたもの

 起きる。食べる。戦う。

 倒れる。少し眠る。また戦う。


 それを繰り返した。


 アストラ内部時間――三ヶ月。外では、数日。

 時間の感覚はとっくに曖昧になっていたが、身体だけは確実に変わっていた。


 最初は、何もできなかった。

 見えない。追えない。当たらない。


「遅い」

 ミルスが言う。


 それだけだった。


 十日目。

 ようやく、変化が出る。


「右!」


 クジャの声。


 ティナが迷わず踏み込む。光を放つ。

 だが広がらない。絞る。細く、鋭く。


 一点。


 訓練体の関節を正確に撃ち抜く。


「……当たった」


 ティナが小さく呟く。


「やっと“当てる”気になったわね」

 ミルスが言う。


 それまでは、面で押していた。出力で削っていた。

 だが違う。必要なのは、貫くことだった。


 二十日目。

 クジャが変わる。


 動かない。ただ見る。


「そこ」


 カードを置く。


 “今”ではない。“次”でもない。

 “その先”。


 訓練体が動く。

 その位置に、すでにカードがある。


 止まる。


「……当たった」


 クジャが笑う。


「見えてる」


 予測ではない。選んでいる。

 複数の流れの中から、一つを。


 一ヶ月。

 連携が噛み合う。


 ティナが当てる。クジャが流れを作る。

 そこに、シルヴァが入る。


 言葉はいらない。


「今」


 短い合図で十分だった。


 斬る。

 繋がる。


 二ヶ月。

 壁にぶつかる。


 それ以上、伸びない。

 何度やっても同じ結果になる。


「……くそ」


 シルヴァが剣を振る。


 ティナも止まらない。

 光を撃つ。外れる。もう一度。外れる。


「……違う」


 息を整える。


 広げない。狙う。

 一点。


 もう一度。


 貫く。


 今度は外さない。


「……これね」


 クジャも右目に手を当てる。


「もう少し、見える」


 流れが増える。分岐が見える。

 その中から、一つを選ぶ。


「ここ」


 カードを置く。


 未来が固定される。

 逃げ場が消える。


「……決まった」


 二ヶ月半。

 全員、限界が見えていた。


 それでも止まらない。


 夜。

 シルヴァは一人で剣を振る。


「まだ足りない顔してるわね」


 ミルスが現れる。


「最後の調整よ。来なさい」


 言われる前に踏み込む。

 速い。だが届かない。


 弾かれる。


「軽い」


 もう一度。


 踏み込む。読む。

 だが、まだ届かない。


「……使ってねぇ」


「違う」


 ミルスが首を振る。


「まだ“頼ってる”」


 風は使うものじゃない。


 起こすもの。


 シルヴァは目を閉じる。


 風はない。だが、空気はある。

 押す。引く。流れを作る。


 踏み込む。


 今度は違う。


 身体が軽い。剣が遅れない。

 空気がついてくる。


 振る。


 ミルスが、わずかに下がる。


 初めてだった。


「見えたわね」


「……ああ」


「それが片鱗」


 シルヴァは息を吐く。


 まだ掴んでいない。だが、触れた。


 そのとき。


 魔力炉が軋む。


 空気が変わる。重い。冷たい。


「……来るね」

 クジャが言う。


「分かる」

 ティナが剣を握る。


 シルヴァも構える。


 忘れるはずがない気配。


「……ネメシス」


 短く呟く。


 風が、わずかに揺れた。

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