あの厨二病魔王に説教を‼ 2
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会議室が身内と、そしてヨッヘム大司教とクルト神父だけになると、伯父様は目頭をもみながら大司教に再び訊ねる。
「それで、聖レーツェル国の現状は?」
「現状は……クルト神父」
「はい」
ヨッヘム大司教に水を向けられて、クルト神父が席から立ち上がって報告する。
「現在魔王は、セント・ユクトゥス大聖堂の一室を占拠し、えー……、特に誰かを害する様子もなく、悠々自適に過ごしているようです。とりあえず、三食と二回のおやつを提供すれば満足らしいので、世話係をつけて様子を見させているとのこと。教皇猊下が直接魔王と会話を試みたのですが、その……まったく会話が成り立たなかったようで、今では我ら一同静観の姿勢を取っております。下手に刺激すると危険ですし」
「「「………………」」」
わたしたちは絶句した。
いやもうほんとにね、何がしたいのかわからない。
セント・ユクトゥス大聖堂は聖レーツェル国における教皇猊下の住まいでもある。
シュティリエ国に置き換えて考えると、王城のような存在だ。
ただ、王城と違うのは、一階の一部の部屋は一般公開されており、参拝者であれば誰でも入場可能になっていることだろうか。
二階以上に教皇猊下をはじめ、上級聖職者の住まいやそれぞれの研究室、書庫などが並んでいると聞くが、わたしは入ったことがないのでどんな場所かは想像つかない。限られた人にしか入ることが許されない特別な場所だ。
その、特別な場所の中の一室を堂々と占拠して食っちゃ寝しているって、何を考えているのだろう、あの厨二病魔王は。
聖レーツェル国は教皇猊下のお膝元なので、抱える聖騎士の人数も桁が違う。ついでに聖騎士以外にも僧兵が大勢いて、その軍事力には下手をすればシュティリエ国やロヴァルタ国にも並ぶほどだ。
人数こそ劣るが、魔術師、白魔術師を大勢抱えている聖レーツェル国の力は侮れない。
けれども。
……さすがに、対魔王と考えると、無理があるわよね。
魔人は天災級とも称される。
その魔人の頂点に君臨する魔王だ。それを聞けば推して測れるというものだろう。
魔王に蹂躙しつくされて滅んだ国は、歴史をたどれば何個もある。
ゆえに、魔王を討伐したものを勇者と呼ぶのだ。そしてその勇者には、下手をすれば一国の王すら頭が上がらなくなるのだ。なにせ、英雄なのだから。
だから、前の魔王を討伐したシュティリエ国王陛下(伯父様)に、大臣たちが縋りたくなる気持ちも、わからなくもない。
たぶんだけど、伯父様は後世、「英雄王」と呼ばれることになると思う。そのくらい、伯父様が成した偉業はすごいのだ。
「要するに、自分が魔王だから誰も逆らえないだろうと踏んで、堂々と聖レーツェル国に乗り込んでセント・ユクトゥス大聖堂の一室をあけさせたと、そういうことね。あの厨二病……」
わたしたちの前でしたように、マントをばさ~っとやって、自分に酔いまくりな名乗りをしている魔王トルデリーゼの姿が目に浮かぶようである。
ついでに言えば名乗りの途中で勢い余って舌を噛むところまで、目に浮かぶ。
わたしが「は~」と息をつくと、ライナルトが慰めるように肩を叩いてくれた。
「こほん。それで、クルト神父が我が国に連絡を入れに来たのは……もしかしなくとも、聖女を貸してほしいと、そういうことでいいのだろうか」
伯父様が一つ咳ばらいをして、さらに踏み込んだことを訊ねた。
「はい、その通りでございます」
クルト神父が神妙な顔で頷く。
まあそうよね。聖レーツェル国は小国だけど独立国。
宗教国家――教皇区という位置づけだから、普通の国とは統治制度が異なるけれど、独立しているのは間違いない。
その独立国が、わざわざ他国の王に現状を知らせた理由。
それが、ただの情報共有であるはずがないのだ。
あとから聞いた話だけど、今、世界が抱える聖女の中で、どうやらわたしが最年少であるらしい(表向きは聖女ということになっている偽聖女ラウラ・グラッツェルを除いて)。
ついでに言えば、魔術も使える聖女なんて他にいない。
さらに、父親と母親、伯父は先の魔王を討伐した勇者一行。
夫であるライナルトも勇者の血を引くサラブレッド。魔術も剣術もどんと来いなエリートである。
本人も戦えてバックも強力となれば、世界には他に聖女が何人いるのかは知らないけれど、その中でわたしに真っ先に声がかかるのは当然だ。
ついでに言えば、聖レーツェル国から一番近いところにいる聖女もわたしである。
……対魔王戦で聖女が投入できるのなら、そりゃあ投入するよね?
膨大な瘴気をまき散らす魔王に対抗するなら、その瘴気を浄化できる聖女がいるに越したことはないのだ。
ただ、わたしたちはまだ、戦うと決めたわけではないのだけど。
話が通じない子ではあるけど、悪い子ではない……と、思いたいし。
それに、人に敵対していないのに、その魔王を討伐しようものなら、他の魔人たちも黙っていないだろう。
特に、あんなふざけた性格になるほど甘やかして育てた保護者バルトルトさんあたりは、トルデリーゼを討伐するなんて聞けば大激怒しそうだ。魔王だけでなくその他魔人たちまで敵に回るなんてことになれば……ガクガクブルブルってもんよ。
全世界のとまではいかないと思うけど、それでも大勢の魔人と敵対するのは自殺行為である。世界が滅亡してもおかしくないほどの自殺行為だ。魔王だけでも強力なのに、天災級の大勢の魔人を相手に、人類が生き残れるとは、思えない。
……少なくともこの大陸は焦土でしょうよ。
敵対していない魔王の説得に、討伐という乱暴な戦略を立てるのは愚の骨頂だ。
かといって、聖レーツェル国としてはこのまま魔王トルデリーゼを放置するわけにもいかない。教皇のお膝元で魔王が悠々自適に暮らしているとか、目も当てられない状況だからだ。教皇猊下の威厳が地に落ちる。
……でも、だからってこのタイミングはあんまりでしょうよ。
まさか、あの厨二病、狙ってやったのかしら?
わたしの、幸せ絶頂なこの瞬間を?
だとしたら……。
……この恨みはらさでおくべきか。
本当なら、このままパーティーをして新居へレッツゴーしていちゃいちゃラブラブな新婚生活を送るはずだったのに!
そののち楽しく新婚旅行に出発して、あわよくばハネムーンベビーとか、期待しちゃったりしてたのに!
……許さん。
討伐はさておき、やっぱりボコって説教だ‼
わたしがひとり、めらめらと怒りの炎を燃やしているのに気づいていない伯父様が、はあ、と大きくため息をついて言った。
「状況はわかったが、ひとまず……話の続きは明日以降にしていただいてもいいだろうか? 聖女を貸し出すにしても、こちらとしてはいろいろと会議や手続きが必要になる。さらに言えば、知っての通り、私の息子と姪……義娘は、今日が結婚式でね。さすがにあんまりじゃないだろうか」
その通り‼
わたしがうんうんと大きく頷いていると、お兄様がなんか残念なものを見る目を向けてきたけど無視よ無視!
わたしは今、ものすごくいちゃいちゃに飢えているのだ!
結婚式で気分が盛り上がっていたわたしに、この仕打ちはあんまりよ!
ヨッヘム大司教とクルト神父も、さすがに申し訳ないとは思ってくれているみたいで、伯父様の提案を了承してくれる。
クルト神父は、ヨッヘム大司教が暮らしている大聖堂に泊まるというのでひとまず二人を見送って、わたしたちは、改めて顔を見合わせた。
「すごいことになったね」
ライナルトのぽつりとしたつぶやきに、わたしたちは揃って大きく嘆息した。
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