あの厨二病魔王に説教を‼ 1
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……の、だけど。
パレードが終わり、王城に到着したわたしたちは、結婚式の感動に思いっきり冷や水をかぶせられた。
それはもう、頭のてっぺんから、ばしゃーん! って感じで。
いや、もちろん比喩ですよ?
本当に冷たい水をかけられたわけではないんですけどね。
「はあ……あんの、厨二病め…………」
わたしががっつり怨嗟のこもったため息をついている横で、ライナルトが笑顔のまま固まっている。
想定外の緊急事態に、わたしはウエディングドレスのまま、シュティリエ国の会議室に連行されていた。
ライナルトも、真っ白な結婚式用の盛装のまま。
結婚式の装いもそのままの新郎新婦と、結婚式に参列していた華やかな衣装をまとったままの両家の家族。そしてシュティリエ国の宰相をはじめ、大臣たち。
その中、さっき大聖堂でわたしたちを祝福してくれた大司教と、それから聖レーツェル国から大慌てでやって来た使いの神父が、青ざめた顔で座っている。
シュティリエ国王夫妻も、わたしのお父様もお母様もおじい様もおばあ様も、ついでにお兄様も、さっきまでのお祝いモードな表情じゃなく、引きつった顔をしていた。
ライナルトの弟である王太子ディートヘルム殿下は、社交的な笑顔のまま固まっていた。固まるあたり、兄弟そっくりな反応である。
大臣たちは真っ青な顔をしているが――それは、『元凶』を直接見たことがないから仕方がないかもしれない。
何と言っても――
「あー……、ヨッヘム大司教、クルト神父、その、念のためもう一度確認させていただくが……今、何と?」
うん、伯父様が確認したくなるのもわかるわ。というか聞き間違いであってほしいと、わたしも心の底から思うもの。
だけどパレード終了と共に大至急と言われて会議室に連行されるくらいの緊急事態が、聞き間違いであるはずがない。
無情にも、ヨッヘム大司教が繰り返した。
「はい。えー……、私も先ほど報告を受けたばかりでにわかに信じがたいところではございますが…………どうやら、聖レーツェル国に魔王を名乗る少女が現れ、この国を占拠すると宣ったとのことでして……………………」
しーん、と静まり返る会議室。
その中で、わたしだけは沸々と沸きあがる怒りに震えていた。
……あんの厨二病魔王がぁああああああ‼
やりやがったよ、やりやがりましたよ、あのふざけた魔王様は‼
確かに?
以前台風のごとくわたしたちの前に登場したときに、聖レーツェル国を狙っているとかなんとかふざけたことを言っていたのは覚えていますよ?
新生魔王国を作るとか、意味不明なことを言っていたのを、覚えていますとも!
でもだからって、本当に実行するとは思わないじゃない‼
というかあの子の……ええっと、そうそう、バルトルトさんとか言う名前の保護者‼ 何やってるの⁉ ちゃんと首輪つけときなさいよ‼
お父様とお母様が「ああ……」とうめいて頭を抱えている。
お父様たちから数か月前に、「うちに魔王が来たよ~」と世間話をするようなノリで、あの厨二病魔王の詳細報告を受けていた伯父様たちも同様だ。
おかしな子だったけど害はなさそうだよ、と報告してほんの数か月後にこれである。害ありまくりだった!
わたしたちはその魔王と面識があるから、恐れるより先にあきれるしかないのだけれど、わたしたち以外の人が「魔王」と聞いて心中穏やかでいられるはずもなく。
「魔王が再来したですと⁉」
「聖レーツェル国が魔王に占拠されたなど、長い歴史を見てもはじめてのことでは⁉」
「あわわわわわっ、逃げなくては……遠くに逃げなくては……」
「おかーさーん‼」
………………。
えっと、ちょっと落ち着てくれないかしら?
阿鼻叫喚の渦に叩き落された会議室――というか大臣たちは、ぎゃーぎゃーと大騒ぎをはじめている。まさに恐慌状態。どう収拾をつけていいやらわからない。
怒りメーターが振り切れていたわたしも、この状況に戸惑うしかない。
あまりの混乱状態に怒っていたことも忘れたわ……。
いつもは威厳たっぷりな大臣たちも人の子だったということよね。だけど、さすがに混乱しすぎではないかしら?
椅子から立ち上がったり座ったり、会議室を意味もなく歩き回ったり叫んだりしている大臣たちに、わたしたちがぽかんとしていると、さすがに見かねたのか、伯父様が一喝した。
「ええい、落ち着け‼ 他国の方々の前でみっともない‼」
まあ、うちのお父様たちも一応「他国」の人間ですし? ヨッヘム大司教やクルト神父もいますからねえ?
すると、大臣たちはハッとして、縋るような目を伯父様へ向けた。
「おお、そうでしたそうでした!」
「我らには陛下がいらっしゃった!」
「陛下、どうか魔王を何とかしてくださいませ!」
「陛下なら勝てます!」
……あなたたち、いくら混乱しているからって国王陛下に魔王討伐依頼してどうするの⁉
いくら過去に魔王を討伐した勇者とはいえ、あれから二十二年も経っている。
ましてや、当時は王太子だったからいいとして――いや、よくはないのだけど、とりあえずいいとして、今は国王陛下ですよ?
王様が魔王討伐に行って万が一やられたらどうするの⁉
それに、だ。
今の魔王トルデリーゼは、かなりイタイ子だけど、人類と敵対する立場ではないらしい。
ただ、自分の国が欲しいとかふざけたことを宣っていた、ちょっと頭のねじが数本緩んでいる厨二病気質の子だ。
しかも見た目は十四歳くらいの女の子。
魔王を名乗っているからと言って、わたしたちと見た目も変わらない女の子を、寄ってたかって討伐に行くというのは……ちょっと、良心が咎める。
もちろん、このまま放置はできないから、頭でもひっぱたいて説教くらいはしてやりたいところだけど、討伐はない。
お父様たちも微妙な顔をしているし、わたしと同じ考えなんだと思う。
伯父様は「つける薬なし」みたいな表情で額を押さえちゃってる。まさか普段有能な臣下がここまでアホになるとは思っていなかったのだろう。魔王と言う存在は、別の意味でも恐ろしい。
「話が進まないから、もう、お前たちは一時退席しろ。ほら」
しっしと伯父様が手を振ると、大臣たちが「荷物をまとめなくてはー!」とか叫びながら会議室からばらばらと駆けだしていった。一周回れば冷静になってくれると思うけれど、まだ時間はかかりそうだ。
本日、本作③巻が発売になりました!
とってもにぎやかで楽しい1冊になったと思います!
ぜひ、お手に取っていただけると嬉しいです(*^^*)
★あらすじ★
新婚生活にちびっこ魔王が乱入!?!?!?家族揃って転生しちゃった元・悪役令嬢のわたしが、ようやくつかんだ王子様との結婚?愛しのライナルト殿下と正々堂々いちゃいちゃ…のはずが自称・魔王のちびっこが大聖堂を占拠して大暴れ!とっ捕まえてお説教してやるっと思ったら、前魔王の息子まで現れて――わたしの幸せ新婚生活のため、魔王も救っちゃいます♪
出版社 : スクウェア・エニックス (SQEXノベル)
発売日 : 2026/7/7
ISBN-10 : 4301006303
ISBN-13 : 978-4301006305







