作戦会議と突入 2
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パシャパシャパシャパシャ……。
サロンの中に、結婚式でも聞いたあの音が響いている。
『映る君』を構え、わたしやライナルトを前に立たせてシャッターを切っているのはお兄様だ。
「あー……、カール。その『とうしんだいぱねる』と言うのはいったい何のことなんだ? いや、その機械については説明を受けたし、実際に取られた絵? 写真というんだったか、それも見たが、一体それをたくさん撮ってどうするつもりだ? わかるように説明してほしいんだが……」
伯父様が突然開かれた撮影会に困惑顔だ。
伯母様も目をぱちくりしている。
ディートヘルム殿下は『映る君』に興味津々で、これは売り出さないのかとしきりにお兄様に訊ねていた。「等身大パネル」については考えるのをやめた模様だ。たぶん、お兄様の新しい発明品だと思っているのだろう。
……等身大パネルは、発明品ではないんですよ、ディートヘルム殿下。
わたしも最初は何を言い出したのかとあきれたものだった。
というか、よくもまあそんな突飛なことを思いつくというか……。
ミヒェルさんの奥さん奪還作戦において、お兄様が立てた案。
それは、等身大パネルをたくさん作り、夜、廃村の入り口に並べる。
そして設置が終わったら誰かがわざと魔人たちに気づかれるように声を上げるか音を立てるかして、彼らにわたしたち……というか、等身大パネルたち? が彼らを襲いに来たと思わせる。
魔人たちが廃村の入り口に向かった隙をついてわたしたちは奥さんを奪還。
ミヒェルさんのテレポートで、王都まで戻って来る、と言うものだった。
魔人の報復が怖いが、ミヒェルさん曰く、排斥派の魔人たちも馬鹿ではないらしい。
彼らの狙いは、あくまで自分たちの派閥の人数を増やすことだ。
ミヒェルさんの妻が奪還され、それにわたしたちが協力していたからと言って、人間たちの暮らす王都を襲撃して仕返しを、とは考えないという。
何故ならそんなことをすれば、共存派が人間の味方に付きかねないからだ。
数で劣る排斥派は、共存派が人間に味方して自分たちに牙をむくことを恐れているのである。
前魔王アルブレヒトを殺害したことで、彼と近しかった共存派の魔人たちは特に排斥派の魔人たちに恨みを抱いている。
排斥派の魔人たちがもし表立って動こうものなら、共存派の魔人たちに報復の口実を与えるようなものだ。これ幸いと、人類に味方して彼らへの報復措置を取るだろう。
排斥派の魔人たちが、こそこそと回りくどい方法で派閥の人数を増やそうとしているのもそのためなんだって。
だから、ミヒェルさんの奥さんさえ奪還できればあとのことは考えなくても大丈夫らしい。むしろ、自分たちの隠れ家が人間に気づかれたと思い、廃村から去るのではないかとのことだ。
伯父様としても、人間と敵対する考えを持っている排斥派の魔人たちに国に居つかれるのは勘弁らしいので、ミヒェルさんの言葉にホッとしているようだった。
……とまあ、ここまではいいんだけど、問題は等身大パネルについて伯父様たちにどうやって説明するかよ。
わたしは前世の記憶があるのでもちろんわかっているが、わたしとお兄様以外はチンプンカンプンなご様子だった。
写真を撮られているライナルトも理解できていない。ただ、お兄様が何かするつもりなので協力しよう、という体で写真を撮られていた。
……どうしよう。つまりライナルトの等身大パネルが作られるのよね。ライナルトの等身大パネル……ほしい。
その撮影会を見つめながら、つい、わたしの思考が明後日の方向に飛んで行ってしまったのは――これは、きっと仕方のないことよ!
新婚なのにいちゃいちゃできないことの弊害というやつだわ! きっとそうよ!
だからぜひ、ライナルトにカッコいいポーズとか取ってもらって、それをパネルにしてもらいたい。ほしい。お兄様にこっそり頼めばついでに作ってくれるかしら?
自分のただれた思考を「新婚」という魔法の言葉で強引に正当化し、わたしはごくりと唾を飲み込んだ。
「お、お兄様。廃村を襲おうとしている様子を出したほうがいいと思うので、ら、ライナルトに剣を構えてもらうとか、どうかしら?」
剣を構えてキリリとした表情のライナルト等身大パネル……いいっ!
「いや、ライナルトのはもう充分撮ったから、この中でよさそうなのを選別すればいいし、この後兵士たちにも協力してもらうから、剣を構えるなら彼らに……わかった、撮ろう」
わたしが目力のある大きな目でじーっと見つめると、お兄様は圧力に屈したように肩をすくめた。
たぶん、わたしの頭の中も筒抜けになったと思う。お兄様がぽそりと「こんなときに何を考えているんだ」ってつぶやいたからね。
……すみませんね、どんな時でも煩悩全開で! でも、お兄様だって、もしここに前世でお兄様が大好きだったグラドルがいたら、ちょっとエロいポーズとかで写真撮ってパネル作りたいとか思うでしょ⁉ 思うわよね⁉ これは人類に共通する普通の欲求よ‼ わたしは大好きなライナルトの等身大パネルがほしいっ!
ライナルトがよくわからないというように首をひねってから、扉を守っていた衛兵に剣を借りて構えてくれた。
……ああ。かっこいい。お兄様、写真も欲しいのでたくさんお願いします。ライナルトのアルバムをたくさん作るので!
ついつい無意識のうちに拝んでいると、ディートヘルム殿下がわたしを見てくすりと笑う。
「ヴィルヘルミーネは、兄上が大好きなんだね」
……うっ。
その通りですけど恥ずかしいです!
「おーい、カール。だから、『とうしんだいぱねる』ってなんなんだ?」
撮影会で盛り上がって質問を無視された伯父様が寂しそうな顔でもう一度質問してきた。
お兄様は『映る君』から顔を離し。
「実物を見てもらった方がわかりやすいと思いますけど、そうですね……、簡単に言えば、ライナルトと同じ大きさの写真みたいなものです」
「同じ大きさ⁉」
「ええ。等身大ですから。それを複数名……そうですね、できれば百人分くらいはほしいですかね。本当はもっとあってもいいんですけど、あんまり悠長にも構えていられないので、一日二日で作れる量と考えてそのくらいは用意しようと思っています」
「あらお兄様、一日や二日で百枚も作れるの?」
「……作る魔術具はすでに開発ずみなんだ」
……お兄様、それで一体何の等身大パネルを作るつもりだったの?
そんな魔術具を開発していたなんて聞いていないわよ! 何で教えてくれなかったの! そうしたらもっと早くにライナルトの等身大パネルが手に入ったのに‼
お兄様が何のパネルを作る予定だったのかよりも、もっと早く知っていたら新郎姿のカッコいいライナルトの等身大パネルが手に入ったかもしれないのにと悔しくなる。
……わたしが主身廊を歩いているときに祭壇前で待ってくれていたライナルトの姿、めちゃくちゃカッコよかったんだから‼
あの時のキュンキュンするライナルトの姿の等身大パネルが手に入っていたかと思うと……恨むわよお兄様。そんな大事なことを秘密にしていたなんてあんまりよ!
わたしがじっとりと睨みつけると、お兄様がふいっと顔を背ける。
「つ、作ったはいいが、世に出したらまずいだろうと思いなおして封印したんだ」
「あらそ~ぅ?」
本当かしら? 独り占めしようとしていたんじゃないでしょうね? 兄妹なのに水臭いじゃないっ。
「……お前に教えたら、部屋中ライナルトのパネルだらけにしそうだし」
わたしの残念な思考回路をよくわかっていらっしゃるわ。
だけど、いくら何でも少しは自嘲するわよ。
そんなことをしてライナルトにドン引きされたくないもん!
すでに結婚式の写真を邸中に貼ろうとして止められた後だし。
……少しならいいけどたくさんは恥ずかしいって言うんだもん。赤い顔をして「やめよう?」って言われたら拒否できないじゃない! 惚れた弱みよっ!
剣を構えたカッコいいライナルトの撮影会が終わり、お兄様は伯父様に騎士たちに協力してもらえるように頼んでいる。
ちょうど今、騎士たちは演習場で訓練中だろうからと、ディートヘルム殿下がお兄様と一緒に行ってくれることになった。
お兄様とディートヘルム殿下が出ていくと、伯父様が改めてわたしに訊ねてくる。
「ヴィル、その大きな絵? 写真? を並べて、本当に魔人たちは騙されてくれるのか?」
その質問に、黙って成り行きを見ていたミヒェルさんも不安そうにわたしを見つめて来たけど……。
そんなこと、わたしに訊かれてもわかりません。お兄様に聞いてください。
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