作戦会議と突入 3
お気に入り登録、評価などありがとうございます!
ライナルトとわたしの邸の玄関やらダイニングやらを等身大パネルで埋め尽くし、我が家の使用人の迷惑そうな視線を一心に受けたお兄様だったけど、わたしはひたすらに感心したよ。
だって、この世界で、等身大パネルを目にする日が来るとは思わなかったもんね。
ちなみにだけど、等身大パネルを印刷する機会は魔術具で作られたが、お兄様曰くカラープリントの技術を応用したものらしい。
紙の加工技術まで手が出せなかったから、印画紙が作れなかったとかなんとかかんとか言って悔しそうだったけど、わたしは技術者じゃないから何を言っているのかチンプンカンプンだったわ。
紙に塗る感光材? なんだそりゃって感じよ。
お兄様曰く、世間一般ではようやく活版印刷が出てきたこの世界に、印画紙なんて技術を出せば大混乱になるから諦めたんだって。まあ、紙の加工はお兄様一人じゃ無理だから職人に発注することになるし、そうなれば技術を教えないといけないから――よくわかんないけどお兄様曰く、石器時代の人類に電気の技術を教えるくらいの混乱を招くらしい。
……その比喩のせいで余計に理解不能になったわお兄様。
ということで、前世と比べると精度は落ちるけど、見慣れていない相手は実物と勘違いして騙されるだろうと思われる等身大パネルたち。
印刷技術は前世に及ばないけど、解像度は限りなく高くしたとかなんとかお兄様が自慢していただけあって、なかなかの出来よ。
魔人たちの目を欺くため、白い部分を限りなくなくした等身大パネルは、遠目から見たら紙だって気づかれないと思うわ。
ちなみに。
玄関にライナルトの等身大パネルを発見したわたしは、こそこそと自分の部屋に持ち帰ろうとしたけれど、お兄様に見つかって取り上げられた。くそぅ!
ライナルトはライナルトで、わたしの等身大パネルを見ながら、「ヴィルが二人に増えたみたいだね」なんて言って頬を染めていて可愛かったわ! ああっ、わたしの旦那様、尊い!
……というか、お兄様の等身大パネル……売ったら儲かりそうね。特にアンネリーゼあたりに。
フェルゼンシュタイン国のお兄様大好きな友人の顔を思い出し、わたしはちょっと悪いことを考えた。あいつならきっと大金をはたいて買うだろう。というか、お兄様ファンは多いから、アンネリーゼ以外にも高く売れそうだ。一財産築けそうである。
ライナルトの等身大パネルは、なんかライナルトが減るような気がして絶対に売り出さないけど、お兄様ならいくら減ってもいいわ。
ミヒェルさんの奥さんを救出し終わった後、お兄様が作った等身大パネル製造機『パネル君』を一台もらえないかしら? とっても美味しい商売になると思うもの。
そんなことをふと考え……それから、市場にお兄様のパネルが大量に並ぶ姿を想像して、わたしはやっぱり断念した。
……お兄様が増殖するのは、気持ち悪い。
わたしがくだらないことを考えている間にも、等身大パネルは着々と増え続けていく。
本当に二日弱で百枚の等身大パネルを作り上げたお兄様は、徹夜したようで目の下に隈を作っていた。
「これで全部だ。おかしいところがないかチェックしてくれ。そのあと城に運んで……あー、あと任せていいか? 夕方まで寝る」
「寝るのはいいけど、今日の夜に決行なんだから寝坊しないでね」
「起こして」
今日の夜に廃村に向かって魔人たちからミヒェルさんの奥さんを奪還する予定だというのに、お兄様はなんとも緊張感がない。
だけどまあ、この大量の等身大パネルを前に、緊張感を持てと言うのもちょっと無理があるわよね。
わたしはライナルトとそれから使用人たちと手分けして、パネルにおかしいところがないかをチェックして回った。
これが人ではなくただの分厚い紙の板だと気づかれたら、すべての計画がパアになるからね。入念に、遠目から見てちゃんと騙されてくれるかどうかをチェックしますよ。
……まあ、この世界には等身大パネルなんて存在していなかったから、騙されてくれると思いたいけど。
絵と写真では精密度が圧倒的に違う。見慣れていないのだから、本人だと騙されてくれる……はずだ、たぶん。
「チェックして大丈夫な分は馬車に運び込んでくれる?」
お城に運んで、夜になってミヒェルさんのテレポートを使ってこそこそと廃村の入り口に設置する予定なのだ。
設置中に魔人たちに気づかれたら大変なので、設置も暗くなってからでなければできない。
等身大パネル百枚を限られた人数で設置するのは骨が折れそうだけど、やらなければならないのだ。代替となりそうな他の案はないし、この作戦に失敗したら次がもっと難しくなる。下手をしたらミヒェルさんの奥さんを殺される可能性もあった。
……まあ、そうなりそうならたぶんミヒェルさんは相手が六人いようと立ち向かいそうな気がするけど。
でも、それはそれで人類にとっては危機的状況である。
魔人同士の喧嘩なんて、廃村どころかあのあたり一帯が吹き飛んでもおかしくないくらいの大規模な被害が出るだろう。
ミヒェルさんと排斥派の魔人たちの衝突を皮切りに、共存派と排斥派の全面戦争……なんてことにはならないと信じたいが、可能性だってある。
ミヒェルさんの奥さんのためにも、そして人類のためにも、絶対にこの作戦は成功させなければならない。
……いやだわ、人類のためとか。そんなどーんと大きなプレッシャーはいらない……。
聖女なんてものになってしまったからだろうか、なんか気づけばいろんなものを背負わされている気がする。
だけど、こればっかりは文句を言ったところではじまらないのよねえ。
重たいものを背負わされた代わりに、ライナルトとの幸せがあるのだから、ま、これは諦めて受け入れるしかない。
等身大パネルの確認を終えて、わたしとライナルトも夕方まで休憩することにした。
夕方にはお城に行って、作戦の最終確認をし、日が暮れたら決行……の予定。
お城に集合する時間まではまだ三時間くらいあるし、そんなに長い間気を張り続けていると疲れてしまうもんね。
等身大パネルがなくなってすっきりしたダイニングにお茶とお菓子を用意してもらって、ライナルトと並んで座る。
食事のときとかはダイニングテーブルを挟んで向かい合って座ることが多いんだけど、わたしは並んで座る方が好き。
お茶を飲んで、パネルのチェック疲れたねと笑いあっていると、家令のフィリベルトさんがレンちゃんを抱っこしてやってきた。
レンちゃん――白兎のフロレンツィスカは、玄関とダイニングに等身大パネルが置かれていたから、ずっと二階の部屋に閉じ込められていたのよね。
レンちゃんの後ろ足キックは強烈だから、それでパネルが破壊されないようにという配慮だったのだけど、レンちゃんからしてみたらいい迷惑だったろう。
ダイニングの絨毯の上に降ろされると、だーっと勢いよく走って来て、テーブルの下のライナルトの足元で止まった。
「レンちゃんおいで」
ライナルトがレンちゃんを膝の上に抱き上げる。
鼻をひくひくさせて、レンちゃんがライナルトの膝の上で大福みたいに丸くなった。
レンちゃんの背中を優しく撫でながらライナルトが目を細める。
「昨日から外に出してあげられなくてごめんね、レンちゃん。お茶を飲んだらお庭で遊ぼうね」
わたしがレンちゃんの頭を撫でると、わたしの言葉を理解したみたいにレンちゃんが顔を上げた。くるんと大きな目でじっと見つめられると、キュンキュンする。
「今日の夜、頑張って来るからね、レンちゃん。フィリベルトさんたちとお留守番お願いね」
レンちゃんは返事をするようにくわっとあくびをして、ライナルトの膝の上でまた丸くなった。
うちのレンちゃん、超かわいい!
面白い!続きが気になる!続きが読みたい!と思ってくださった皆様、
ブックマークや下の☆☆☆☆☆にて評価いただけると嬉しいですヾ(≧▽≦)ノ







